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第五章
女冒険者
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「母様」
空気が悪くなったところにマドレーヌが言葉を発した。
「私と相性が悪いのはどうでもいいです。マリアンヌの幸せがなにかもう一度考えて。名前を聞くのも嫌だろうけど、アルノーのアレンとの恋はマリアンヌには嫌なことだけじゃなかったの。私とアランとは違うの。それはわかってあげて。もっとマリアンヌと話して」
クロードも頷く。
「マリアンヌと森の入り口でも散歩するといい。何を話さなくてもいい。もっと自分の愛娘をみてやってくれ」
マドレーヌの祖父もぼそぼそと言う。ジョアンがわっと泣き出した。
「なんで私ばっかり悪者なの」
「今この席でマドレーヌを祝えてないのは君だけなんだよ、ジョアン」
ウージェーヌの声は優しいが他人に対する声であった。クロードが溜息を一つついた。
「オフクロ、早めに帰らせてもらおう。俺たちも一緒に帰るよ。マドレーヌまたな」
「ええ。……お元気で」
マドレーヌはジョアンの事は諦めていた。育つ途中からマリアンヌの母性がマドレーヌの助けになっていた。そんなことにもジョアンは気づけてなかった。
「母さん、すまないけどジョアンの事みてやってくれ」
ため息交じりのウージェーヌの言葉にマドレーヌの祖母は頷いた。
「ジョアンくらいの年齢の女性にはよくあることよ。……感情の制御がきかなかったり、体が急に火照ったり。体調も落ち着かないの。心もぶれちゃうしね。そういうための薬草もあるから、相談に乗ってみる」
祖母はジョアンの状態を見てなにか答えに行きついたらしい。フロランが言う。
「それでいいって精霊も言ってる」
「そう、精霊さんにお礼言ってね」
祖母の言葉にフロランは頷いた。
「お母さんとは?」
「やっぱりかみ合わない」
マドレーヌがさばさばとアルに言う。公爵邸の守護者の樹の横のベンチで二人は座っていた。アルはホットワイン、マドレーヌはホットエッグノックを手にしている。
「親子とはいえ別人だからね。うちは父親が祖父と会わなくて苦労したからそのあたりは自分と子供との境界線は引いてる感じだな」
「……陛下はうちの父親の同類な気がする」
アルとマドレーヌは顔を見合わせて笑う。
「もう実家の母親の事はいいや、マリアンヌにもちょくちょく会いに行くつもりだけどね。父様やお祖父様とはギルドで会ったりするし」
「……マドレーヌさえよければ結婚後の新居をグランジエ領の俺とフロランの住んでるところを改装してつかわないかって。君の父上からの提案」
マドレーヌは深く考え込んでいる。
「……グランサニュー公爵からはここ、今私たちがいるこの湖畔に家を建てないかって言われてる。ここからグランジエ領も転移できるようにしてるし、マリアンヌに会いに行きやすいだろうって。エマ様にもそのほうが私も母親も平和よって言われた」
アルは自分の髪をくしゃくしゃとかき回す。
「ちなみに陛下は王子宮を改装して新居にしろって言ってる。ジュストは離宮に移すってさ。ネイサンはベルティエ公爵家に引っ越したし」
マドレーヌはジュストの婚約者の起こした騒ぎを知らない。
「独立されるの?」
「……いや。ま、連帯責任。」
「狩りの途中に誰か危険な目に合ったの?」
アルはこの子は骨の髄まで冒険者なんだな、と思う。頭の中で守護者が同意する。
「んー、まぁ今度ゆっくり説明する。……なぁ、マドレーヌ、或る程度の爵位の貴族の人事的な事わかってるか」
マドレーヌが返事をしないのでアルは笑う。
「じゃ、これからはエマ様に習おう。最低限身を守るためにね。それは狩りをするときにも下調べするだろ?そういうこと」
「よくわかんないけど……、やっといたほうが安全なのね?」
アルは頷きマドレーヌの頭を撫でる。二人の仲が恋人らしくなるまではもうしばらくかかりそうだ。アルは焦らずやるさ、と目の前のマドレーヌ、女冒険者を見ながら思った。
【完結】
長い間ありがとうございました。
次作 「伯爵令嬢を探せ」 は2024/03/02から投稿開始します。
空気が悪くなったところにマドレーヌが言葉を発した。
「私と相性が悪いのはどうでもいいです。マリアンヌの幸せがなにかもう一度考えて。名前を聞くのも嫌だろうけど、アルノーのアレンとの恋はマリアンヌには嫌なことだけじゃなかったの。私とアランとは違うの。それはわかってあげて。もっとマリアンヌと話して」
クロードも頷く。
「マリアンヌと森の入り口でも散歩するといい。何を話さなくてもいい。もっと自分の愛娘をみてやってくれ」
マドレーヌの祖父もぼそぼそと言う。ジョアンがわっと泣き出した。
「なんで私ばっかり悪者なの」
「今この席でマドレーヌを祝えてないのは君だけなんだよ、ジョアン」
ウージェーヌの声は優しいが他人に対する声であった。クロードが溜息を一つついた。
「オフクロ、早めに帰らせてもらおう。俺たちも一緒に帰るよ。マドレーヌまたな」
「ええ。……お元気で」
マドレーヌはジョアンの事は諦めていた。育つ途中からマリアンヌの母性がマドレーヌの助けになっていた。そんなことにもジョアンは気づけてなかった。
「母さん、すまないけどジョアンの事みてやってくれ」
ため息交じりのウージェーヌの言葉にマドレーヌの祖母は頷いた。
「ジョアンくらいの年齢の女性にはよくあることよ。……感情の制御がきかなかったり、体が急に火照ったり。体調も落ち着かないの。心もぶれちゃうしね。そういうための薬草もあるから、相談に乗ってみる」
祖母はジョアンの状態を見てなにか答えに行きついたらしい。フロランが言う。
「それでいいって精霊も言ってる」
「そう、精霊さんにお礼言ってね」
祖母の言葉にフロランは頷いた。
「お母さんとは?」
「やっぱりかみ合わない」
マドレーヌがさばさばとアルに言う。公爵邸の守護者の樹の横のベンチで二人は座っていた。アルはホットワイン、マドレーヌはホットエッグノックを手にしている。
「親子とはいえ別人だからね。うちは父親が祖父と会わなくて苦労したからそのあたりは自分と子供との境界線は引いてる感じだな」
「……陛下はうちの父親の同類な気がする」
アルとマドレーヌは顔を見合わせて笑う。
「もう実家の母親の事はいいや、マリアンヌにもちょくちょく会いに行くつもりだけどね。父様やお祖父様とはギルドで会ったりするし」
「……マドレーヌさえよければ結婚後の新居をグランジエ領の俺とフロランの住んでるところを改装してつかわないかって。君の父上からの提案」
マドレーヌは深く考え込んでいる。
「……グランサニュー公爵からはここ、今私たちがいるこの湖畔に家を建てないかって言われてる。ここからグランジエ領も転移できるようにしてるし、マリアンヌに会いに行きやすいだろうって。エマ様にもそのほうが私も母親も平和よって言われた」
アルは自分の髪をくしゃくしゃとかき回す。
「ちなみに陛下は王子宮を改装して新居にしろって言ってる。ジュストは離宮に移すってさ。ネイサンはベルティエ公爵家に引っ越したし」
マドレーヌはジュストの婚約者の起こした騒ぎを知らない。
「独立されるの?」
「……いや。ま、連帯責任。」
「狩りの途中に誰か危険な目に合ったの?」
アルはこの子は骨の髄まで冒険者なんだな、と思う。頭の中で守護者が同意する。
「んー、まぁ今度ゆっくり説明する。……なぁ、マドレーヌ、或る程度の爵位の貴族の人事的な事わかってるか」
マドレーヌが返事をしないのでアルは笑う。
「じゃ、これからはエマ様に習おう。最低限身を守るためにね。それは狩りをするときにも下調べするだろ?そういうこと」
「よくわかんないけど……、やっといたほうが安全なのね?」
アルは頷きマドレーヌの頭を撫でる。二人の仲が恋人らしくなるまではもうしばらくかかりそうだ。アルは焦らずやるさ、と目の前のマドレーヌ、女冒険者を見ながら思った。
【完結】
長い間ありがとうございました。
次作 「伯爵令嬢を探せ」 は2024/03/02から投稿開始します。
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