悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
200 / 212
第五章

演習場の出来事

しおりを挟む
 「みつけた!」

ジョアンは騎馬で演習に向かう騎士科の生徒たちに混じるマドレーヌを見つける。

「……どこへ行くのかしら」

ジョアンはウージェーヌに『マリアンヌを引っ張りまわすな。疲れが抜けてないだろう』と叱られそれはそうだと納得した。そして学園への出入口が見える安宿の二階の一室を借りて腹心のメイド長と交代で学園を見張っていたのだ。
 フロランの精霊はそのあたりにいる精霊に頼みジョアンを見張っていた。しかしジョアンが辻馬車を借りて騎士科の演習についていくとまでは思ってなかったので動くのが少し遅れた。



 フロランが演習場所の郊外の演習場に着いた時には事が起こっていた。

「マドレーヌ!」

ヒステリックな声が演習場に響く。教官がマドレーヌに訊ねる。

「グランジエ嬢、君の関係者かね?」

「……母親だと思います」

マドレーヌは周りが母親を自分に近づけないようにしてる音を知らないので教官に許可をとって演習の列を離れ母親の元に行く。

「どうし」

マドレーヌは最後まで言えなかった。右頬を平手で張られぐらついたところにジョアン渾身のこぶしがこめかみを襲った。ジョアンが怒りの余り手を出したのだ。
 演習場の芝生の上にマドレーヌが頽れたのとフロランが最短距離を精霊の力を借りて滑りこみジョアンの手足を押さえつけるのが同時だった。ジョアンはマドレーヌを踏みつけようとしたところだった。

「オフクロ、何やってんの」

「フロラン、止めないで。あたしはこの子のせいでマリアンヌにお乳をやれなかったのよ。マリアンヌの体が弱いのはこの子せいだ」

ジョアンは積年の心に秘めていた悲鳴のような本音を叫んだ。やっとフロランに追いついたアルが呆然としたマドレーヌを抱き上げる。

「頭くらくらしてるか?」

「少し」

アルはフロランとジョアンのののしりあいが外に漏れないよういと二人の周りに習いたての遮音結界をはる。心の中ではこれ変に利用されなきゃいいけどと思いつつであった。
 目に入ったベンチにマドレーヌを寝かせて魔法で濡らしたハンカチをマドレーヌの額に乗せる。マドレーヌがくすっと笑う。

「どうした?」

アルが少し焦っているがマドレーヌは笑ったまま返す。

「殿下、すっかり魔法を自然に使うようになりましたね」

「……笑ってないで。何があったんだ?」

マドレーヌはけろっとしている。

「ああいって急に感情を爆発させて殴るのはお母様の癖みたいなもんです。あの爆発したら少しは落ち着くでしょう」

「昔からか?ウジェ殿はなんと?」

マドレーヌは感情を見せない目で答える。

「知らないんじゃないですか。人の目があるところでああいう風にわめくのは初めて……でもないか。メイド長と二人でいるときにもああなってたから。まぁすっきりしhたら理由も聞けると思いますよ」

「マドレーヌ……」


 フロランはわめく母親を抑えるのを止めた。アルが遮音結界を張ってくれたので母親のヒステリーをじっくり聞くいい機会だと思ったのだ。精霊は『聞くに値しないと思うよ』と言っている。ともかく、マドレーヌを妊娠したおかげでマリアンヌを母乳で育てられなかったこと、ヤギの乳で育てたからあんなに体が弱いのか、とかマドレーヌは他人であるが人の母乳で育ったがら丈夫なんだや、マドレーヌが受ける幸せはマリアンヌに全部来るべきだなどと気がくるってんなぁとフロランが思うよう事を口走り続ける。が、少し落ち着いてきたのでフロランは母親を演習場の事務所に誘い座らせた。
 フロランはマジックバッグに入れていた水をマジックバッグの中に入れている木製のカップに注いで渡す。

「まず、落ち着いて飲んで」

カップにれたのは水は水でも聖水であった。

「なにこれ。まずい」

「ああ、ごめん。バッグに入れてたやつ」

「ちゃんと綺麗にした水でしょうね?」

「うん。沸かしすぎたみたい」

ジョアンが聖水をまずいと言ったことは精霊を通じ神殿の精霊に伝えられている。

「で、母さんはなんでここに来たの?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされ、処刑された悪役令嬢が召喚獣として帰ってきた

朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
中央から黒い煙が渦を巻くように上がるとその中からそれは美しい女性が現れた ざわざわと周囲にざわめきが上がる ストレートの黒髪に赤い目、耳の上には羊の角のようなまがった黒い角が生えていた、グラマラスな躯体は、それは色気が凄まじかった、背に大きな槍を担いでいた 「あー思い出した、悪役令嬢にそっくりなんだ」 *************** 誤字修正しました

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

処理中です...