悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第五章

公爵邸での日々 3

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 「それ、言い訳になってると思ってる?」

フロランの顔で精霊は冷たく言い放った。

「なぁ、クロード、母さんたちみたくマリアンヌが一番かわいいって認めたら楽になるよ」

精霊の言葉にクロードは首を横に振った。

「別にマリアンヌが一番かわいいわけじゃない。……ただ手がかかるって思ってる」

それは本心だった、クロードはマリアンヌもフロランもマドレーヌもかわいいと思っているがフロランとマドレーヌは同じ位置に立つ『狩人』で領地の平穏を守る仲間であった。マリアンヌは違う立ち位置にいる、その違いだった。そして二人はマリアンヌのようにべったりと甘えてこないからどうしてもマリアンヌに手と気持ちを取られる、ということをクロードは重い口で説明する。

「マドレーヌもお前も手がかからないから……」

「俺たちの面倒はオヤジとじーさんが見てたからな。俺の時はかーさんは幼児食とか自分で作ってくれたけどマドレーヌの時はメイド任せだったんだが……そのメイドはかーさんの腹心の」

「メイド長か?」

クロードの問いにフロランはうなずく。

「あいつ幼児食用意しなくてな。……激辛食わせて食えなくて泣いてるのを見て楽しんだりしてた」

精霊はフロランの内側で本当に怒っていた。

「過度に塩辛いスープとかさ、……かーさんは知らんふり。多分かーさんの指示だろうと思う。マリアンヌが神殿に行く前だから」

フロランはテーブルに用意された水を飲む。

「メイド長はかーさんが実家から連れてきた人だからじーさんも人事に介入できないし。とーさんはあの頃仕事でいなかったし」

「俺もお前も手伝える年齢じゃなかったしな」

クロードの言葉にフロランはうなずく。

「あの時期は南に虫がわいて時期だったはず」

マドレーヌが口を挟んだ。最近教科書で読んだ時期だと思い当たったのだ。

「そうだな。で、マリアンヌの飯、俺とじーさんが森でベリーを積んできて、重曹を入れたクッキー焼いたりしてた。クロードもマリアンヌも……勝手に全部食べちゃって。結局俺とマドレーヌは1枚を分け合ったんだよな。あの頃、クロードとマリアンヌは俺たちが食べるもの片端からとっていってた」

クロードはうっすらと記憶していた。そう、メイド長に『あそこにおいしいものがありますよ。おうちのおいしいものはあなたたち二人のものだからね』といわれた記憶もあった。

「そんなことが何回もあったから、寒くなるまではじーさんは俺たち二人を森に連れて行って、食事をさせてたんだよ。クロードとマリアンヌに悪意があったとは思わんがメイド長にはあっただろうね。……マドレーヌをマリアンヌを脅かす存在だと母親が思ってたから」

これは精霊が見ていたことだった。メイド長とジョアンの会話を聞いていたのだ。

「そこまで思い込んだのがマリアンヌの魅了の力だったんだけど……。幼児が防衛本能で自分より小さい子供を自分を脅かす存在だと思うことも仕方ない。けど、君の祖母と母親はその思考に取り込まれてしまった。メイド長はお嬢様、ジョアンが大事で仕方ない人だから母親の意見しか大事じゃなかった。そのうえで彼女は意地悪をするのが大好きでね。今も領地の新人メイドは居つかないだろう?」

フロラン=精霊の言葉は正しかった。

「すぐに意識を変えるのは無理でも……ちょっと見てやってほしい。じーさんのフォローだけじゃ続かないし。じーさん、怖がられてるから」

フロラン=精霊がくすっと笑う。クロードも苦笑していた。

「俺もマドレーヌも……辺境では暮らせないと思う。クロード、家のこと頼むな。それと万が一嫁をもらったら、嫁を一番にな。マリアンヌではなくて」

クロードはうなずいた。そしてマドレーヌのほうへ向き直った。

「マドレーヌは帰ってこない気か?」

マドレーヌは戸惑った顔になったがしっかり答える。

「そう、ですね……。お祖父様かお父様に帰れと言われれば……」


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