悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第五章

心の奥底

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 「あたしも、クロード兄様も」

マリアンヌが大声を出す。

「マドレーヌの為にアルノーの家に行ったわ。それはどうなのよ。お父様やおじいさまが変な男とマドレーヌを婚約させたからでしょう」

祖父は呆れた顔でマリアンヌをみた。

「……マドレーヌがお前にためにしたことを数えようか?お前を虐めた子達に虐められてきたし、アランとの婚約も最初はお前宛てに来たものだったが、体の弱いお前を慮ったウジェの言葉でマドレーヌとの婚約に振り替えてもらったことも、王都に店につき合わせたり。母親にべったりなお前の為にずっと譲っていたマドレーヌとジョアンの間には絆もへったくれも生まれ取らん」

祖父はじろりとジョアンを見た。

「あんたもあんただ。マドレーヌの好きなようにやらせた?そうじゃないだろう。マドレーヌに心を砕くのが面倒だったんだろう。時間を取られるのがな。傍から見てるとそうとしか思えん」

祖父は普段喋らないのだが、今回の件は耐えかねたのだろう。大声で喋り続ける。

「マドレーヌ、身の回りの品をまとめてきなさい。二度とここには帰らないつもりでな」

マドレーヌは溜息をついたが素直に従う様子を見せた。ここでマリアンヌが泣きわめいた。

「マドレーヌ、行かないよね。私たち姉妹でしょ、ねぇ」

「マドレーヌ」

祖父の声が重く響きマドレーヌは素直に祖父に従った。マリアンヌは小さな声で呟く。

「マドレーヌ、あたしを捨てるんだ」

「何を言ってる。お前は……」

祖父はマリアンヌに向き合う。

「何故マドレーヌを小間使い扱いをしてるんだ」

「だって家族以外に触られたくない」

マリアンヌは拗ねた顔になる。クロードやジョアンや祖母がおろおろし始める。

「やはり、か」

祖父はウージェーヌに向いた。

「ちょっと書斎へ行こう、確認したい事がある」

祖父はマリアンヌに見向きもせずにすたすたと歩き始める。

「やっぱり、おじい様はあたしが嫌いなのね。だから意地悪をいうんだ」

「そうだな。お前のつかってる手法は大嫌いだな。それは性悪女の手口だ。誰を見て覚えたのか知りたいところじゃな。マリアンヌ以外にそんな手法を使う女はうちにはおらなんだからな」

祖父の言葉にマリアンヌはとうとうわーと泣きだし、クロードもジョアンも祖母もマリアンヌを慰めることに必死になる。

「ウジェ」

ウージェーヌは慌てて自分の父親に従い書斎にいった。




「マリアンヌの魅了の力は封印しなかったのか?」

ウージェーヌは書斎で父親に詰められていた。

「しました。父さんもみてたでしょ。……アレンと付き合いだした時には封印が解けていたようで」

「……かけた神官が死んだか、殺されたか」

「もしかしてアルノー伯はそれを知って『マリアンヌ』との婚約を言い出した?」

「かもな。北の侯爵はストレートなやつだから奥方の誘導に乗ったのだろうな」

ウージェーヌは呆然としていた。

「アレンと二人でも森で散策をしてるだけだとおもっとったくらいだものな、お互い」

「……ちょっとぼんやりし過ぎてました。アレンは無害だとおもいこんでた」

ウージェーヌは悔しそうな顔をする。

「お互いアルノー家が無害だと思い込んでたな」

「先代と先々代が逃げて残った今代は人畜無害というより親と祖父に押さえつけられて大人しいという印象しかなかった」

ウージェーヌの正直な感想だった。

「とりあえず、うちの家族の治療とマリアンヌの封印と。……でもマドレーヌは家に戻さないぞ。マリアンヌはマドレーヌを心の底では憎んでるからな。何をしても自分の下に妹を置いておきたいなんて思いを抱えて生きていくにはあの子の残り時間は短すぎる。……クロードの嫁もあの子が逝ってから、になると思うぞ」

ウージェーヌは父親の冷静な見立てに頭を抱えた。

「とりあえずエリク神官が来た時に治療の話をしておけよ」

書斎を出て行く父親の背中をウージェーヌは呆然と見送った。
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