178 / 212
第五章
アプローチ開始
しおりを挟む
マドレーヌは今日も学園で補習を受けて疲れた顔で帰ってきた。
「おかえり」
アルが図書室から声をかける。
「……ただいま。王宮に帰らないんですか?」
「まだね。アルノー伯の件がおさまるまでは辺境でっていうかこの領地の守護者様の樹のケアをってさ。エマ様が今、北の樹のケアしておられるし」
アルが手に持っている本を見てマドレーヌは思わず溜息をついた。
「この本がどうかしたの?」
アルに問われてマドレーヌはつらつらと答える。今日の補習の範囲で会ったと。
「算術なんかは答えがきっちりあるのでわかりやすいんですけど……基礎教養の古典文学が苦手なんですよね。物語の中の人の思った事を書けとか言われても」
マドレーヌは深くため息を着いた。アルは笑いながら言う。
「そういう時はね、当該登場人物に関する文章で『〇〇だと思っていた』っていう文章所前後にいかにも教師が気に入りそうなおためごかしを付け加える、って言う事をするのさ。何問かそうやって解いたらその教師が気に入る答えが判るからそれにそって解答を作成するといいよ」
マドレーヌは少し笑顔になる。
「……なんか殿下、性格悪い」
「そうかな?解釈なんて読んだ人の数だけあるんだしそんなもので点数をつけなきゃいけない教師も面倒だろうから少しでも気に入るものを読んで気分を良くしえもらおうというサービス精神だよ」
アルはこの解答の書き方を教えてくれたのはエリクだったなと思い出す。アルの基礎教養はエリクに教わったのだが本当に物語や史実の骨子を教えるだけだった。『私の解釈を殿下に伝授する必要は無いと思います』とエリクは言ったうえで『他人に対しての見栄と満足を与える解答』を教えてくれる。一見耳に心地よいが内容を<相手が好きに>解釈はできるが肝心なところで言質を与えない解答、あくまで一般論を教えてくれるそんな授業をエリクから受けたのだ。
これはアルにとって他国に飛ばされてからも有用だった授業だった。エリクとの授業で悟った『言質を与えてはいけない人間はいる』という感覚は冒険者を続けていくのにも必要な感覚だと思っている。ましてや妖怪のような貴族たちとやりあわなければいけないという炊いt場に立つなら特にそうだと最近は覚悟を決めている。
父親のあの妙に軽いへらっとした感じはそれはそれで防具なのだと考えていた。自分の正確だとあんな風に軽やかには動けないなと思っていたが、父親の世代の人間、エリク神官長もウージェーヌも軽やかだったのでこれから付き合いを深める貴族たちもあんな風に軽やかなのかなと思う。この国にいた少年時代、自分はあまり貴族子弟と関わらずに生きて来た。正妃から疎まれていたのもあるしセイラ妃がひっそりとした人であったのも大きかったのだと思う。南の辺境伯の嫡男は自分の従弟にあたるんだなと思い至りフロランにどんな人物か聞いたりして少しは情報を集めてはいる。
フロランは『うちの兄妹、……人付き合い、上手いとは言えないからなぁ。俺も数人の子爵男爵の子弟と仲良くしてたんだけど、うちの爵位が上がった事で付き合いづらいっつか相手に避けられるようになっちゃって』と肩を竦めている。話を聞くとグランジエ家は夜会に出る事も稀で貴族づきあいは辺境4家とグランサニュー公爵家とだけだったらしい。ウージェーヌが正妃に粘着されていたので逃げていたという。
フロランは貴族関係ならベルティエ公爵に聞くのが一番じゃないのかと言う。彼が一番、常識があるから、と。
「エリク神官長は忙しいし、グランサニュー公爵でもいいとは思うけど」
フロランがそんなことを言ってるとウージェーヌが二人がいる部屋に入って来て教えてくれる。
「あのじーさん、このところ社交界から逃げてるから情報が古いぞ。ジェラールに聞いとけ」
とさっさとベルティエ公爵家に約束を取り付けてくれたので明後日公爵自らがグランジエ領に来るという。アルは目の前のマドレーヌに意識を戻す。
「さて、荷物置いて来るといい。俺とフロランは居間で夕食前に話してるよ。着替えて出ておいでよ」
「夕食前には姉様の所で軽いお茶をしてるので。……姉様、フロラン兄様と顔合わせたくないらしくて……」
マドレーヌは心配そうに眉を寄せる。アルは、フロランとマリアンヌ、意外と性格も似てるよなと思いつつマドレーヌと別れる。
「では、夕食の席で」
「……わかりません、姉様が寂しいなら私と姉様とおばあ様で夕食を共にするので」
マドレーヌはなんの他意もなくそう言って自室へ向かった。
「おかえり」
アルが図書室から声をかける。
「……ただいま。王宮に帰らないんですか?」
「まだね。アルノー伯の件がおさまるまでは辺境でっていうかこの領地の守護者様の樹のケアをってさ。エマ様が今、北の樹のケアしておられるし」
アルが手に持っている本を見てマドレーヌは思わず溜息をついた。
「この本がどうかしたの?」
アルに問われてマドレーヌはつらつらと答える。今日の補習の範囲で会ったと。
「算術なんかは答えがきっちりあるのでわかりやすいんですけど……基礎教養の古典文学が苦手なんですよね。物語の中の人の思った事を書けとか言われても」
マドレーヌは深くため息を着いた。アルは笑いながら言う。
「そういう時はね、当該登場人物に関する文章で『〇〇だと思っていた』っていう文章所前後にいかにも教師が気に入りそうなおためごかしを付け加える、って言う事をするのさ。何問かそうやって解いたらその教師が気に入る答えが判るからそれにそって解答を作成するといいよ」
マドレーヌは少し笑顔になる。
「……なんか殿下、性格悪い」
「そうかな?解釈なんて読んだ人の数だけあるんだしそんなもので点数をつけなきゃいけない教師も面倒だろうから少しでも気に入るものを読んで気分を良くしえもらおうというサービス精神だよ」
アルはこの解答の書き方を教えてくれたのはエリクだったなと思い出す。アルの基礎教養はエリクに教わったのだが本当に物語や史実の骨子を教えるだけだった。『私の解釈を殿下に伝授する必要は無いと思います』とエリクは言ったうえで『他人に対しての見栄と満足を与える解答』を教えてくれる。一見耳に心地よいが内容を<相手が好きに>解釈はできるが肝心なところで言質を与えない解答、あくまで一般論を教えてくれるそんな授業をエリクから受けたのだ。
これはアルにとって他国に飛ばされてからも有用だった授業だった。エリクとの授業で悟った『言質を与えてはいけない人間はいる』という感覚は冒険者を続けていくのにも必要な感覚だと思っている。ましてや妖怪のような貴族たちとやりあわなければいけないという炊いt場に立つなら特にそうだと最近は覚悟を決めている。
父親のあの妙に軽いへらっとした感じはそれはそれで防具なのだと考えていた。自分の正確だとあんな風に軽やかには動けないなと思っていたが、父親の世代の人間、エリク神官長もウージェーヌも軽やかだったのでこれから付き合いを深める貴族たちもあんな風に軽やかなのかなと思う。この国にいた少年時代、自分はあまり貴族子弟と関わらずに生きて来た。正妃から疎まれていたのもあるしセイラ妃がひっそりとした人であったのも大きかったのだと思う。南の辺境伯の嫡男は自分の従弟にあたるんだなと思い至りフロランにどんな人物か聞いたりして少しは情報を集めてはいる。
フロランは『うちの兄妹、……人付き合い、上手いとは言えないからなぁ。俺も数人の子爵男爵の子弟と仲良くしてたんだけど、うちの爵位が上がった事で付き合いづらいっつか相手に避けられるようになっちゃって』と肩を竦めている。話を聞くとグランジエ家は夜会に出る事も稀で貴族づきあいは辺境4家とグランサニュー公爵家とだけだったらしい。ウージェーヌが正妃に粘着されていたので逃げていたという。
フロランは貴族関係ならベルティエ公爵に聞くのが一番じゃないのかと言う。彼が一番、常識があるから、と。
「エリク神官長は忙しいし、グランサニュー公爵でもいいとは思うけど」
フロランがそんなことを言ってるとウージェーヌが二人がいる部屋に入って来て教えてくれる。
「あのじーさん、このところ社交界から逃げてるから情報が古いぞ。ジェラールに聞いとけ」
とさっさとベルティエ公爵家に約束を取り付けてくれたので明後日公爵自らがグランジエ領に来るという。アルは目の前のマドレーヌに意識を戻す。
「さて、荷物置いて来るといい。俺とフロランは居間で夕食前に話してるよ。着替えて出ておいでよ」
「夕食前には姉様の所で軽いお茶をしてるので。……姉様、フロラン兄様と顔合わせたくないらしくて……」
マドレーヌは心配そうに眉を寄せる。アルは、フロランとマリアンヌ、意外と性格も似てるよなと思いつつマドレーヌと別れる。
「では、夕食の席で」
「……わかりません、姉様が寂しいなら私と姉様とおばあ様で夕食を共にするので」
マドレーヌはなんの他意もなくそう言って自室へ向かった。
6
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる