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第四章
アルの進むべき道
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「あっちに行ってから自分の元の身分ならどうするか、なんて考えたことなかったな」
フロランの精霊がそっと遮音の結界をはる。フロランもアルも気が付いていない。
「生きていくのに精いっぱいだったから?」
フロランの言葉にアルは頷いた。
「自分が元が王子だなんて役にたたないしな」
フロランは首を傾げる。
「そうやってあの国の王族につないでもらおうとは?」
「考えなかった。まずあそこは国交がない。国の状況もわからない。ギルドから手紙を出せるなんて思ってなかったからな」
アルはふっと笑う。
「そこにウジェ殿と同じ顔してグランジエを名のる少女だろ。本当に驚いた」
「……オヤジそっくりのあの顔が役にたった、と」
アルは頷く。
「グランジエの名だけじゃ確信はもてなかったけど」
「あそこにいたのが俺なら話は始まってなかったんですね」
フロランはくすっと笑った。
「でも、……王宮にかけあって、王太子の印璽の印影でなんとかできたかも?」
「あの国はあの国で王族や王宮と関わるにはちょっとなぁ」
アルは遠い目になる。
「うちも外から見たら関わりたくないと思う。正妃様とその親があれで、……うちの母親は普通の女性だけど、側妃が今、何人だっけ?うち二人が本来正妃様がする役割をしてるよね、国内の貴族女性のとりまとめとか外交とか。……側妃の数のわりに次の代になる存在の数は多くないし」
フロランがくすっと笑う。
「次代を決めるのは守護者様、というか守護者様と大精霊様たちだよ、って俺の精霊が教えてくれてます。その資質とその世代に必要な資質を持つ人を王太子に選ぶからアル殿下は心配しすぎなくていい、と」
アルはその言葉で王太子は自分だと気負わなくていいなと考えた。守護者や精霊たちの意図は『既に選んでるだろ』だったがフロランは急に色々考えているアルがパンクしないように表現を加減した。そしてフロラン自身気が付いていなかったがアルの側近として守護者と大精霊達に選ばれているのであった。
「エリク、兵士たちをどうする?」
グランサニュー公爵に聞かれエリクはにやっと笑った。
「情報を取った後王宮の地下へ送ります。『高笑いエリシャ』の牢が空いてたんでそこにほ
おりこんでおきます」
王宮の地下牢の比較的浅い階層にある牢で、入れられた人間にだけ女性の『高笑い』が聞こえるのだ。最初は気が付かないが、複数で入るとその声が全員一斉に聞こえている訳じゃなく、牢番にも聞こえていないとか気が付いて神経衰弱になっていく、そんな牢だった。
なぜ高笑いエリシャと呼ばれているのかというといつの頃か。他国から嫁してきた王妃が国家乗っ取りを画策し、その時に身分をはく奪され投獄されたのがそこだったとか。彼女の斬首後、その牢は牢の中の罪人にだけ笑い声が聞こえるという。
「あそこが空いてたか」
エリクとウージェーヌと陛下は軽いいたずらであの牢に入れられた事がある。子供相手であの牢の主も戸惑ったのか各々1回ずつだけ高笑いを聴いた。陛下は一緒にいただけだったので何も聞かなかったが『いたずら程度ではいたぶりません……』という遠慮がちな女性の声を聞いたという。
ウージェーヌはそれを思い出して笑った。子供というか少年の頃の笑い話であった。
「牢の主はお元気か?」
「みたいですよ。政治犯入れて置いたら三日で音を上げたようだって」
エリクもくすくす笑っている。公爵は悪童どもめ、と呟いたが公爵と前の前の陛下もいたずらで入れられた事はウージェーヌとエリクには内緒であった。ドニはそれを知っていたので公爵の呟きに苦笑いを返した。
フロランの精霊がそっと遮音の結界をはる。フロランもアルも気が付いていない。
「生きていくのに精いっぱいだったから?」
フロランの言葉にアルは頷いた。
「自分が元が王子だなんて役にたたないしな」
フロランは首を傾げる。
「そうやってあの国の王族につないでもらおうとは?」
「考えなかった。まずあそこは国交がない。国の状況もわからない。ギルドから手紙を出せるなんて思ってなかったからな」
アルはふっと笑う。
「そこにウジェ殿と同じ顔してグランジエを名のる少女だろ。本当に驚いた」
「……オヤジそっくりのあの顔が役にたった、と」
アルは頷く。
「グランジエの名だけじゃ確信はもてなかったけど」
「あそこにいたのが俺なら話は始まってなかったんですね」
フロランはくすっと笑った。
「でも、……王宮にかけあって、王太子の印璽の印影でなんとかできたかも?」
「あの国はあの国で王族や王宮と関わるにはちょっとなぁ」
アルは遠い目になる。
「うちも外から見たら関わりたくないと思う。正妃様とその親があれで、……うちの母親は普通の女性だけど、側妃が今、何人だっけ?うち二人が本来正妃様がする役割をしてるよね、国内の貴族女性のとりまとめとか外交とか。……側妃の数のわりに次の代になる存在の数は多くないし」
フロランがくすっと笑う。
「次代を決めるのは守護者様、というか守護者様と大精霊様たちだよ、って俺の精霊が教えてくれてます。その資質とその世代に必要な資質を持つ人を王太子に選ぶからアル殿下は心配しすぎなくていい、と」
アルはその言葉で王太子は自分だと気負わなくていいなと考えた。守護者や精霊たちの意図は『既に選んでるだろ』だったがフロランは急に色々考えているアルがパンクしないように表現を加減した。そしてフロラン自身気が付いていなかったがアルの側近として守護者と大精霊達に選ばれているのであった。
「エリク、兵士たちをどうする?」
グランサニュー公爵に聞かれエリクはにやっと笑った。
「情報を取った後王宮の地下へ送ります。『高笑いエリシャ』の牢が空いてたんでそこにほ
おりこんでおきます」
王宮の地下牢の比較的浅い階層にある牢で、入れられた人間にだけ女性の『高笑い』が聞こえるのだ。最初は気が付かないが、複数で入るとその声が全員一斉に聞こえている訳じゃなく、牢番にも聞こえていないとか気が付いて神経衰弱になっていく、そんな牢だった。
なぜ高笑いエリシャと呼ばれているのかというといつの頃か。他国から嫁してきた王妃が国家乗っ取りを画策し、その時に身分をはく奪され投獄されたのがそこだったとか。彼女の斬首後、その牢は牢の中の罪人にだけ笑い声が聞こえるという。
「あそこが空いてたか」
エリクとウージェーヌと陛下は軽いいたずらであの牢に入れられた事がある。子供相手であの牢の主も戸惑ったのか各々1回ずつだけ高笑いを聴いた。陛下は一緒にいただけだったので何も聞かなかったが『いたずら程度ではいたぶりません……』という遠慮がちな女性の声を聞いたという。
ウージェーヌはそれを思い出して笑った。子供というか少年の頃の笑い話であった。
「牢の主はお元気か?」
「みたいですよ。政治犯入れて置いたら三日で音を上げたようだって」
エリクもくすくす笑っている。公爵は悪童どもめ、と呟いたが公爵と前の前の陛下もいたずらで入れられた事はウージェーヌとエリクには内緒であった。ドニはそれを知っていたので公爵の呟きに苦笑いを返した。
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