悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
152 / 212
第四章

侯爵は落ち着いている。

しおりを挟む
 エリクたちは徒歩で山に向かう一行から半日以上遅れて移動する事になった。ロゼとルカには救護班で帰ってきた人員の汚染具合をチェックしてもらう事になった。聖水を飲ませる程度で祓える穢れはどんどん祓ってくれとも頼む。出発前にエリクは夫人の部屋の窓と扉、その上の部屋の床にグランジエ領で使った『トリモチ』のような結界をはった。

「これで現地からアルノー伯が何らかの形で侯爵の奥方に接触しようとしても捕縛できる」

「相変わらずえげつない」

「ウジェ、それは誉め言葉だな」

エリクはとてもうれしそうだった。

「どういう経緯があってそういう輩と知り合うのかとか訊ねたいことはたっぷりあるんだ。バスチエ夫、いや元夫は淫魔にかわっちゃってるからまともに話せなくてな」

「そういやアレ、どうしてるんだ?」

グランジエ領で捕まえた淫魔がバスチエ男爵夫人元夫の顔だと証言したのはアランだった。アランは記憶はそのままに性格を矯正するように『育てなおし』をしているのは。アランは淫魔を移送している時に小さな羽を持った赤ん坊の体に男の顔をしたそれをドニと一緒に診てドニに『あの妖魔の顔はバスチエ男爵と似てます』と告げたのだ。元夫は対外的には自分の事を『バスチエ男爵』と名のっていたとアランは言ったのだ。

「元夫本人なのか、アレ」

「ぽい。聖騎士とジェラールの捜索で見つかるといいのだけど」

「……廃教会にあったりしてな」

「カチカチに凍って?」

エリクとウジェは顔を合わせる。

「で、あの淫魔どうやってるの?」

「どうやってるって?」

エリクとウジェは軽く会話を交わしながら移動までの時間を過ごしている。

「あー、どんな状態でアレは過ごしてる?」

「聖銀と聖句を書き込んだテープを巻いた鉄で作った大き目の鳥かごに入れてる。止まり木と底にもびっしりと聖句を刻んであるんだ。時々は疲れるらしく止まり木に止まったりするんだけどさそうするといてもたってもいられなくてまた中に浮くんだ」

「うん」

「どうも聖句や聖銀に触れるのは苦痛なようでよく『ダセ』『カラダ、モドセ』とか言ったり宙に浮いたまま滂沱の涙で『カラダ、モドレナイ』って泣いてたりしてる。宙に浮く努力をしてるとそれ以外に魔力を使えないらしくて」

「ふーん」

ウジェはぼんやりと周りを見ている。エマが皆に靴の中敷きとヒイラギのおまもりを配っている。おまもりは胸ポケットに、中敷きは今手に入る雪角ウサギの毛皮でつくったものだった。確かにそれがあると雪山を歩く時にも足裏からの冷えはかなり軽くなる。

「私はこれぐらいしか出来ないからね」

今日はエマも冒険者の格好だ。ロゼとルカを手伝うという。

「この屋敷内に一人取り残されるのも、ね」

公爵家から連れて来た使用人達も用事を言いつけて用事が終われば冒険者ギルドに宿を借りて止まらせたり、エマの手伝いと称してギルドを手伝ったりするそうだ。

「その方が安全だと思ってな」

公爵も北の侯爵も頷いている。そこにノックもせず侯爵夫人が現れる。

「ちょっと、貴方。領軍を動かすって何」

冒険者のような恰好の集団にドレスの胸元を大きくぎりぎりまで開け、コルセットで胸を持ち上げ無理矢理に作った谷間を強調し濃い化粧と香水の匂いをさせた侯爵夫人は異質だった。

「隣国の斥候が入り込んでる」

北の侯爵は場にそぐわない姿の自分の妻を冷たい目で見ていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

処理中です...