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第四章
エリクは良くない事を考える人
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隣の寝室の扉が音もなく開く。エリクが人差し指をあてて声を出さないように、とジェスチャーで伝える。そして扉あたりにいくつかの術をかけた。
「もういいですよ」
「扉が音もなく開いたから驚いたよ。そういう魔法もあるのか?」
公爵の問いにエリクが眼を丸くする。
「え?蝶番に油を指しただけですけど?」
エリクが不思議そうな顔になる。エマが呟く。
「侯爵夫人、性格もしゃべり方も変わってたわ」
「そうさな、『聖女』そっくりだ」
エリクが公爵を見て首を傾げる。
「公爵閣下は聖女と話した事が?」
公爵は頷く。
「あの子が王宮に来てすぐぐらいに何度かな」
エリクがぶつぶつと一人考えている。
「人格が?……いや、それなら……、やはりドニ様も呼ぼう。そうしよう」
エリクが顔を上げる。
「明日、ドニ様とウジェを呼んできます。……アランも連れてきたいところですが、未だ危険だな。アルノー伯に対する餌は誰にしたらいいかな」
「……エリク、マドレーヌを餌にする気だな?」
「何の事でしょう?」
エリクはしれっとした顔だ。
「ただ、むさくるしい男の中に清い乙女。淫魔ならよだれ塗れになるくらいおいしそうでしょうね。その上、アル殿下もあれ、清童でしょ?その上王家の血筋。女の淫魔、吸精鬼が喜ぶでしょうね」
公爵はじっとエリクを見る。
「……マドレーヌがリディ・バスチエらしき女性を見てる」
エリクが嬉しそうに笑う。
「ふふふふ。被験体は多い方がいいですね。公爵が持ってる『聖水銃』活躍しますね」
「ドニか」
「しっかり先見があったようですよ。ジェラールは王都でロクサーヌ嬢と聖騎士と一緒にバスチエ元夫とアルノー伯が潜伏してた場所の清掃についてもらいました。浄化というか。ネイサン王子をこっちに連れてくると面倒ですからね。……正妃と回路が繋がってるようですから淫魔本体、多分アルノー伯と接触するとその回路が活性化することが推測されるので、アルノー伯が内包してる淫魔がそっちに移る可能性が高くて」
エリクを見ながら公爵が疑問を口にする。
「憑依するってことかな?」
「そういうことですね。侯爵夫人に憑いているのは多分高位の吸精鬼だと思います」
北の侯爵は眼を白黒している。エマは少し考えてから侯爵に訊ねる。
「ヒイラギか月桂樹はありますか?」
侯爵はうーんと唸る。
「この屋敷の庭のものは全部……、二か月ほど前に妻が抜いてしまいまして」
「月桂樹は?」
「この地には生えませんし……、料理に使うと妻が露骨に嫌がるので」
侯爵の言葉にエリクはにんまりと笑う。
「ならば料理にセージの葉をつかうのも嫌がってませんか?ローズマリーも」
侯爵は頷く。
「ハーブ類を使う料理は全部拒否されます。香辛料も胡椒以外はだめだそうで」
「食の好みが変わられた?」
侯爵は頷く。
「以前は良く焼いたローズマリーを使ってマリネ下猪のグリルが好物だったのだが、今は殆ど生のブラックブルやワイルドブルのステーキを胡椒と塩で食べてるな。昔はナマ肉とか嫌っていたのだが。それと自家製の野生の果実のジャムを食べなくなった」
「憑いて二か月か……」
「ヒイラギの葉、手に入らないかしら」
エマは呟く。
「何かお考えを?」
「ええ、皆さんにおまもりを作ろうと思って」
「もういいですよ」
「扉が音もなく開いたから驚いたよ。そういう魔法もあるのか?」
公爵の問いにエリクが眼を丸くする。
「え?蝶番に油を指しただけですけど?」
エリクが不思議そうな顔になる。エマが呟く。
「侯爵夫人、性格もしゃべり方も変わってたわ」
「そうさな、『聖女』そっくりだ」
エリクが公爵を見て首を傾げる。
「公爵閣下は聖女と話した事が?」
公爵は頷く。
「あの子が王宮に来てすぐぐらいに何度かな」
エリクがぶつぶつと一人考えている。
「人格が?……いや、それなら……、やはりドニ様も呼ぼう。そうしよう」
エリクが顔を上げる。
「明日、ドニ様とウジェを呼んできます。……アランも連れてきたいところですが、未だ危険だな。アルノー伯に対する餌は誰にしたらいいかな」
「……エリク、マドレーヌを餌にする気だな?」
「何の事でしょう?」
エリクはしれっとした顔だ。
「ただ、むさくるしい男の中に清い乙女。淫魔ならよだれ塗れになるくらいおいしそうでしょうね。その上、アル殿下もあれ、清童でしょ?その上王家の血筋。女の淫魔、吸精鬼が喜ぶでしょうね」
公爵はじっとエリクを見る。
「……マドレーヌがリディ・バスチエらしき女性を見てる」
エリクが嬉しそうに笑う。
「ふふふふ。被験体は多い方がいいですね。公爵が持ってる『聖水銃』活躍しますね」
「ドニか」
「しっかり先見があったようですよ。ジェラールは王都でロクサーヌ嬢と聖騎士と一緒にバスチエ元夫とアルノー伯が潜伏してた場所の清掃についてもらいました。浄化というか。ネイサン王子をこっちに連れてくると面倒ですからね。……正妃と回路が繋がってるようですから淫魔本体、多分アルノー伯と接触するとその回路が活性化することが推測されるので、アルノー伯が内包してる淫魔がそっちに移る可能性が高くて」
エリクを見ながら公爵が疑問を口にする。
「憑依するってことかな?」
「そういうことですね。侯爵夫人に憑いているのは多分高位の吸精鬼だと思います」
北の侯爵は眼を白黒している。エマは少し考えてから侯爵に訊ねる。
「ヒイラギか月桂樹はありますか?」
侯爵はうーんと唸る。
「この屋敷の庭のものは全部……、二か月ほど前に妻が抜いてしまいまして」
「月桂樹は?」
「この地には生えませんし……、料理に使うと妻が露骨に嫌がるので」
侯爵の言葉にエリクはにんまりと笑う。
「ならば料理にセージの葉をつかうのも嫌がってませんか?ローズマリーも」
侯爵は頷く。
「ハーブ類を使う料理は全部拒否されます。香辛料も胡椒以外はだめだそうで」
「食の好みが変わられた?」
侯爵は頷く。
「以前は良く焼いたローズマリーを使ってマリネ下猪のグリルが好物だったのだが、今は殆ど生のブラックブルやワイルドブルのステーキを胡椒と塩で食べてるな。昔はナマ肉とか嫌っていたのだが。それと自家製の野生の果実のジャムを食べなくなった」
「憑いて二か月か……」
「ヒイラギの葉、手に入らないかしら」
エマは呟く。
「何かお考えを?」
「ええ、皆さんにおまもりを作ろうと思って」
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