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第四章
北の侯爵夫人の訪い
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エリクがアルとマドレーヌと前陛下に認識阻害の術をかける、
「ここにいる人間は術がかかってる事を知ってるから影響はほぼないですけど知らない人間から見たら認識できないんです。……神殿の術でも白眉の出来ですよ。折り紙付き。なんせ前神官長と二人がかりで改良しましたからね」
エリクはニヤリと笑う。
「神殿の情報収集には便利ですよ、ええ」
高位貴族の元領主達、前陛下の元側近たちは各々思うところがあり頷いた。
「わしらも使いたいくらいだな」
ドワイユ前伯爵が言うと他の面々も呟く。
「そうそう。これつかってこっどり息子の仕事っぷりを監視したいな」
「俺は婿殿の浮気現場、っていうか浮気の話が本当か調べたい。娘が勝手に言ってる気がしてならんからな」
エリクが笑う。
「そういう話は個々にドニ様か俺個人に。他人が使えるとか判ってると気分悪いでしょう」
ドワイユ前伯爵がちろりとエリクを見る。
「これはふっかけられるな。……金じゃなくて『手間』の方だな」
エリクは両手を広げて心外な、という表情を作った後笑み崩れた。
「ま、タダで借りを背負ったままだと気持ち的に、ね?」
「ね、じゃない。ね、じゃ」
北の侯爵も一緒になって笑っていると、前触れがあり侯爵夫人が現れた。つい数か月前に逢った夫人とは全く別の空気を纏っていた。どこかしらだらしなく淫蕩な、淫靡な空気であった。
「ちょっと臥せっていたものでご挨拶が遅れてすみません。うちの人、気が利かないからなにか粗相をしておりませんか?」
グランサニュー公爵夫妻とアルバート侯爵以外は公爵の寝室で息をひそめている。
「いやいや、こちらこそお邪魔してしまって。……夫人はちょっと雰囲気が代わられましたな。以前もお美しかったかが、磨きがかかったというか」
夫人はふふっと笑う。その笑い方が『聖女』そっくりでグランサニュー公爵の背におぞけが走る。
「お世辞がお上手ですね。公爵様の奥様こそ年齢を感じさせないお美しさですわ。コツを聞きたいところです」
ほんの少しの侮蔑を混ぜた口調も聖女そっくりであった。エマはきがついているのかいないのかひっそりと微笑んでいるだけであった。
「貴方、あんまり遅くまでお邪魔してちゃだめですわ。そろそろお暇したら?」
べっとりべっとりともたれかかる。北の侯爵は咳ばらいを一つすると首を横に振った。
「もう少し打ち合わせが残っていてね」
「あら」
「ああ、ちょっと儂の懇意な冒険者を呼んでるんでな」
「こんな遅くにお部屋に素性の判らない男たちを部屋に上げてはいけませんわ。御身になにかあったら」
「すぐに終わるし、信頼のおけるものたちなのでな」
公爵は落ち着いて返す。
「……なにかあったら当家責任になりますし」
「大丈夫だ」
公爵はそれだけを返す。それでも夫人はうだうだとしつこかった。しかしアルバート侯爵がきっぱりと言い渡す。
「差し出がましいよ、ライザ」
「でも」
甘えて拗ねた口調だ。その、20才くらいの下町の娘のような口調だと公爵は思った。
「我が家の騎士も、公爵様の護衛もいる。ライザは何を心配しておるのだ?」
侯爵夫人はぷいっと顔をそむけた。
「しらないっ」
そう言って退席のあいさつもないまま侯爵夫人は席を立って公爵の泊まる部屋を出て行った。
「ここにいる人間は術がかかってる事を知ってるから影響はほぼないですけど知らない人間から見たら認識できないんです。……神殿の術でも白眉の出来ですよ。折り紙付き。なんせ前神官長と二人がかりで改良しましたからね」
エリクはニヤリと笑う。
「神殿の情報収集には便利ですよ、ええ」
高位貴族の元領主達、前陛下の元側近たちは各々思うところがあり頷いた。
「わしらも使いたいくらいだな」
ドワイユ前伯爵が言うと他の面々も呟く。
「そうそう。これつかってこっどり息子の仕事っぷりを監視したいな」
「俺は婿殿の浮気現場、っていうか浮気の話が本当か調べたい。娘が勝手に言ってる気がしてならんからな」
エリクが笑う。
「そういう話は個々にドニ様か俺個人に。他人が使えるとか判ってると気分悪いでしょう」
ドワイユ前伯爵がちろりとエリクを見る。
「これはふっかけられるな。……金じゃなくて『手間』の方だな」
エリクは両手を広げて心外な、という表情を作った後笑み崩れた。
「ま、タダで借りを背負ったままだと気持ち的に、ね?」
「ね、じゃない。ね、じゃ」
北の侯爵も一緒になって笑っていると、前触れがあり侯爵夫人が現れた。つい数か月前に逢った夫人とは全く別の空気を纏っていた。どこかしらだらしなく淫蕩な、淫靡な空気であった。
「ちょっと臥せっていたものでご挨拶が遅れてすみません。うちの人、気が利かないからなにか粗相をしておりませんか?」
グランサニュー公爵夫妻とアルバート侯爵以外は公爵の寝室で息をひそめている。
「いやいや、こちらこそお邪魔してしまって。……夫人はちょっと雰囲気が代わられましたな。以前もお美しかったかが、磨きがかかったというか」
夫人はふふっと笑う。その笑い方が『聖女』そっくりでグランサニュー公爵の背におぞけが走る。
「お世辞がお上手ですね。公爵様の奥様こそ年齢を感じさせないお美しさですわ。コツを聞きたいところです」
ほんの少しの侮蔑を混ぜた口調も聖女そっくりであった。エマはきがついているのかいないのかひっそりと微笑んでいるだけであった。
「貴方、あんまり遅くまでお邪魔してちゃだめですわ。そろそろお暇したら?」
べっとりべっとりともたれかかる。北の侯爵は咳ばらいを一つすると首を横に振った。
「もう少し打ち合わせが残っていてね」
「あら」
「ああ、ちょっと儂の懇意な冒険者を呼んでるんでな」
「こんな遅くにお部屋に素性の判らない男たちを部屋に上げてはいけませんわ。御身になにかあったら」
「すぐに終わるし、信頼のおけるものたちなのでな」
公爵は落ち着いて返す。
「……なにかあったら当家責任になりますし」
「大丈夫だ」
公爵はそれだけを返す。それでも夫人はうだうだとしつこかった。しかしアルバート侯爵がきっぱりと言い渡す。
「差し出がましいよ、ライザ」
「でも」
甘えて拗ねた口調だ。その、20才くらいの下町の娘のような口調だと公爵は思った。
「我が家の騎士も、公爵様の護衛もいる。ライザは何を心配しておるのだ?」
侯爵夫人はぷいっと顔をそむけた。
「しらないっ」
そう言って退席のあいさつもないまま侯爵夫人は席を立って公爵の泊まる部屋を出て行った。
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