悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第四章

神官長はどこまで本気なのか

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 「ええ、この位置でした」

アルとフロランはグランサニュー公爵に呼び出されて彼の宿泊する部屋にいる。そこにはエマと北の侯爵もいた。エマは鉢植を膝においている。白に金で魔法陣が描かれた、ただし知識がないとそれが魔法陣であるとはわからないような模様に見えるものである。かなり大きな鉢であった。

「浅いな」

公爵の言葉に北の侯爵も同意する。

「今までの報告で一番浅い。大抵はこのあたりで群れを見かけるんだ」

北の侯爵は地図上でもっと奥の地域を指し示す。

「じーちゃんが、奥に何かいるか、モンスター嵐か、餌の雪角ウサギにつられてきたか、と言ってます」

国境の森の中心部は山頂で途中かなり険しい岩場がある。

「いわゆる『貴族』の足なら山頂は避けるでしょうね」

フロランが冒険者の顔で告げる。そこにエリクがやってきた。今日は神殿間の移送システムで移動して来たらしい。

「あー、あの山なら廃された神殿がありますよ。岩場よりは下です」

「何故廃棄されたんだ?」

グランサニュー公爵が訊ねる。

「モンスターですよ。スノーグリズリーの襲撃がありましてね。もう300年くらい前の話です。今みたいな聯絡方法もなくて。スノーグリズリーというのも推測なんですよ」

「……図書室の郷土史にのってるかもだな」

侯爵の言葉にエリクはニコニコしてるだけだ。実はロゼとマドレーヌは屋敷の中が靄だらけで嫌だと言って外の冒険者溜まりにテントを張っている。フロランも居心地は良くないが精霊がバリアをはって守ってくれている。精霊曰く守護者様に頼まれたのでついでにアルにもバリアをはっているので二人が近い方が力を使わなくて済むという事でフロランとアルは同じ部屋に泊まっているのだ。またエリクが内部の靄をかなり祓ってくれたらしくフロランは息ができるような気分になった。

「ちょっと神官に掃除してもらいますね」

「掃除?うちの使用人の掃除じゃたりませんか?」

「いえ、その、物理的な掃除ではなくて霊的に清めたいのです。やはり清浄な場所でないと……」

北の侯爵はきょとんとしている。

「霊的、ですか?」

「ええ」

エリクはあくまで愛想がいい。グランサニュー公爵は正体を知っているのであきれ顔だしフロランとアルもウージェーヌの友人なので生真面目な神官様というのは仮面だと感じている。

「これだけ人がいるのです。……告解室と礼拝室を作っておきたいのです」

エリクが連れて来た神官のうち5人は妙に顔の良い、女性がぼーっとなりそうな神官たちだった。

「エリク、何考えてる?」

「ふふ」

エリクはグランサニュー公爵の問いかけには嬉しそうに笑うのみではっきりと答えなかったが、グランサニュー公爵はだいたい何をするか、想像がついているようだった。

「告解ってことは自白の香か」

「軽いものですけどね。香のあと『聖水の欠片』を飲んでもらいます。これは体の中を一時的に聖なる状態にするものです。魔におかされて無ければ影響は無いし、魔に侵されていれば昏睡します。昏睡した人は暫く神殿が預かります」

エリクの掌には思わず手を伸ばしたくなるような綺麗なキャンディがあった、透明な外皮の中に赤いものが包まれている。

「赤いのは各辺境のベリーをジャムにしたものです。それを聖水で聖なる乙女が煮詰めたジャムです。外は神官が甘く味つけた聖水を聖なる力でこういう風に丸くして形にするんです」

「エリク……。担ぐんじゃない」

どうもキャンディは中のジャム以外は普通のキャンディであるらしい。

「ま、怪しい人を炙りだすためのものです。聖なるジャムは神殿に来た人にそう言う人怪しい状態か見極める為の道具なんですよ」

エリクはさらりと公爵の言葉を流した。


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