悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
138 / 212
第四章

北の『守護者の樹』

しおりを挟む
 「アルバートよ」

グランサニュー公爵が少し厳しめな声で北の侯爵に声をかける。同時に二人の周りに高度な遮音結界が張られる。結界の中の話は周りに折れないしそばを通った人間んは二人の他愛のない雑談をしているようにみえるし聞こえる。

 エマは少し庭を見て回り、庭の隅に捨てられて織られて朽ちかけた守護者の樹を見つけ怖い顔になっている。少しでも生きてる部分がないかを天幕の外側で雪の上にしゃがみこんで探っている。

「あの木は陛下に頂いたものだろう?……詰め腹を切る覚悟はあるか」

「公爵様……」

北の侯爵はここまで冷たい声を出されるとは思ってなかった。たかが植物、だと。妻が銀
の葉の植物を嫌がり、植物の鉢から若木を引っこ抜かせて『今の流行はこれなの』と妙に
ねじくれた幹に取ってつけたような緑色の葉っぱの樹をもってきたのだ。今までの鉢はい
つの間にか侯爵の部屋に鉢だけでおかれていた。元の位置におかれた植物は黒い靄の塊に
みえた。公爵は顛末をエリクに送った。

 侯爵はぼつぼつと話始めた。家の中は妻が取り仕切っていた。そして控えめで大人しいと思っていた妻が『流行』の鉢植をうっとりと見つめる事が増えた。時々『アルフレッド』と気に向かって呟くので誰の名前かと訊ねると『樹につけた名前よ?』と答える。そして館内のメイドや預かっている娘たちの一部も侯爵の妻と同じように『流行』の樹をアルフレッドと呼び、妻と一緒に『アルフレッド』をうっとりと眺めているという。

 公爵はだまって北の侯爵が話すままにしている。

 そして預かっている領民の娘や従姉の娘など複数人の娘の妊娠が同時に機能発覚し、どの娘も頑なに相手の名を言わないのだが全ての妊娠した娘たちは侯爵の妻と一緒に『流行』の樹を崇めているという。侯爵は『宗教ごっこなぞ好きにさせればいいと思ってましたが……。今回のはなにか不気味で』とのたまう。

「……ちゃんと嫁と向き合ってなかったな?」

「え?いや、相手の方が……」

北の侯爵が色々と言い訳をし始めて段々言葉が少なくなる。とうとう観念した。

「そう、です。子供が出来てから妻は子供にかかりきりで」

「当たり前だろう。生まれたての赤子は親がいないといきられんがお前は妻に全部してもらわんと生きていけないわけではなかろう?」

侯爵はしょんぼりと下を向いた。

「ちゃんと見てないから他の男や信仰に奪われるんだよ」

公爵ははっきりきっぱりと北の侯爵に言い渡した。

 「他の男……_」

北の侯爵は衝撃を受けたようだった。

「『アルフレッド』って名前を皆出してるだろうが。従姉とか預かった子の親元とかとっとと連絡せんか。……お主の妻も、その」

北の侯爵は首を横に振る。

「それは大丈夫。10年ほど前に最後の子供を流した時に……子供が産めなくなったと医療神官がはっきりと」

「そうか……。立ち入った事をすまん」

公爵は謝った。そして小さく呟く。

「ほんの数か月前は穏やかだったのにな」

北の侯爵も頷く。

「あの樹が来てからおかしくなった」

北の侯爵は溜息と共に吐き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

処理中です...