悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第三章

詰まってた?

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 アルは視線を感じて眼を開ける。神官服の前神官長ドニと現神官長エリクがじっとこちらを見ていた。

「あの……?」

アルが困惑して声を出した。

「いや、すまんな。……アル殿下は魔法は?」

「生活魔法ならいくつか」

エリクの問いかけにアルは答える。

「ふーむ」

エリクの綺麗な顔がアルに近づく。綺麗な顔が近づいてくるというのは同性でもどぎまぎするものだなとアルはぼんやりと考える。

「眼を大き目に開いて」

アルの瞳をじっとエリクが見つめる。

「いいよ、普通にして。眼をつぶって椅子に体を預けてくれるかな」

エリクの指示にアルは訳が判らないまま従っている。

「ちょっと不愉快だとは思う」

左の胸、上部がぴりっぴりっと弾かれるような痛みがある。アルはかなり長い間我慢している。

「8割は通しました。あとは」

「うむ」

前神官長ドニの声だ。こめかみに手が触れる。今までとは比べ物にならない痛みがぐりっという物理的な感覚を伴ってアルの胸を襲った。

「通ったぞ」

「もう眼を開けていいですよ」

エリクの声と共に眼を開けるともう一人気配があると感じる。何かが今まで決定的に違う。世界の輪郭がいままで以上にはっきりくっきりしているように感じる。

「どんな感じだ?」

やや疲れた顔のドニが訪ねてきたのでアルは答える。

「世界がくっきりした感じがします。もっとぼんやり感じていた何かがクリアになったような?子供の頃に感じてたような……」

「それは魔力が体の中をちゃんと流れたからだ。アルの中で魔力が詰まった状態が続いていたんだ」

グランサニュー公爵が銀の樹の幹にもたれながら言った。

「大叔父様……」

正確に言うと曾祖叔父なのだが、父親、陛下が呼ぶのでアルもそう覚えてそう呼ぶようになっていた。アルは増えた気配は公爵だったかと安心していた。

「魔力はあるのに魔法を教えてなかった状態で飛ばされただろう、アルは」

「ええ、魔法関連の授業より剣術が楽しかったし……」

「当時、学園に入学前だったろ」

「ええ、入学してから初めて触れる学問を残しておきたくて魔法関連のっ授業は全部受けてません」

アルの言葉に公爵は頷く。

「あの年ごろに新鮮な気持ちを持って何かを学んで欲しくて賛成したからな、儂も」

「だから俺は魔法は使えなかった?」

アルを見ながら公爵はつるりと自分の顎を撫でる。

「んー、あの時魔法を教えていたら一発で判ったんだろうが、アルは魔法の為に魔力を体に回す事が出来てなかった。子供の頃儂やドニが見た時には普通に魔力が体中に回っていたから成長途中で詰まったんだろうな」

「はぁ」

そう言う事もあるんだな、とアルは話を聞いている。

「で、ま、ぼちぼち正妃達の取り調べをしててな」

「ええ」

何故その話がこのタイミングで?と思ったアルの疑問はすぐに解消された。

「正妃の言葉では飛ばした時にアルの魔力を追えるようにしたはずなのに追えなかった、と」

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