悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
123 / 212
第三章

みえる二人

しおりを挟む
 エリクはふーと息を吐いた。フロランと並んで歩く。

「もしかしてあのさっき来た人苦手ですか?」

「得意とは言い難いな」

フロランは不思議そうだった。

「貴方はそういうの気軽にいなす人かと思ってた」

フロランの不思議そうな顔にエリクは苦笑いで答えた。

「どうにもウマが合わない人間はいるのさ。学園に居た頃は陛下の恋人、あ、本物のね、があいつが原因で別れたりとかあったよ。学園の間だけは本気のつもりの子供の恋愛で俺達がその子の親と話して対処しようと思って見守ってたけど……。あいつは陛下にも平気でずけずけ言ってさ」

ここで図書室に着きふたりはぐるっと図書室を見回す。お互い何も言わず。7冊の本を持ってきた紙で巻く。黒くてところどころ赤かったり桃色だったりする独特の靄が本にまとわりついているのだ。

「紙で巻く時は本の開く方に紙の真ん中を当ててな、一応」

エリクがやってみせながら指示をした。

 図書室の中はこの七冊以外に怪しい本はなかった。

「他にもある感じだね、この枚数見ると」

 フロランとエリクが色々な部屋を走り回る。使用人の部屋には怪しいものはなかったがアレンやアランが泊まった部屋や食堂、また厨房など雑多な所、雑多な小物に夢魔の痕跡があった。

「あいつら兄弟改造されてたって?」

「うん。呪いとかに耐性が強くてそういう悪いものを運べるように、ね。その辺りを祖父の代から続けてたみたいだね。ただアレンは現伯爵が妻の目を盗んでそうしてたから偽の記憶を沢山植え付けられてるかもしれない。……解明は明日以降だな。アランはあの家では不憫な子扱いだったけど……、家から離れてる間がもっと不憫だったようだよ。乳母に幼児の頃から性的に『仕込まれ』てたみたいだしね。……一、二度アランと遊んだ事ある元令嬢の修道女とか見習いの子なんかの聞き取りだと性技が上手かったらしい」

こんな雑談をしながら本丸のマリアンヌの部屋に着く。マリアンヌは意識を取り戻しているようだった。

「ヒールは良く効いたようだね」

エリクがそう言ってる間にフロランは部屋を見渡す。小物がかなりある。暫く考えていたが母親に声をかける。

「母さん、この紙でいつもの箱折って」

「……いいけど」

ジョアンは不思議そうな顔で箱を折る。

「あと、魔法師団長が来てるよ」

「え。大変。……マリアンヌ、少し外しますね。お義母さま、マドレーヌよろしくお願い」

マドレーヌの祖母とマドレーヌは頷いた。

「マドレーヌ嬢、クッションを多めにメイドに頼んで持ってきてもらっていいかな」

エリクがにこやかに言う。美形のエリクのこういう問いかけに大抵の令嬢は顔を赤くし恥じらったりするがマドレーヌは顔色一つかえない。そう、父親のウージェーヌが同じレベルで美しい分慣れてしまっているのだ。それはマリアンヌも同じだった。

「体を起こせるまで、ヒールをかけるね。どこか熱いとか痛い所があったら教えてね」

エリクはマドレーヌの腹部に癒しの力を這わせる。そして徐々に体の中に力を伸ばしていく。エリクは少し安心したが頭部と腹部はかなり夢魔に侵されていた。頭部、心を侵されているという事はその事しか考えられなくするため、だった。

エリクは『間一髪だったかも』と考えながらマリアンヌの体から夢魔の痕跡を抜いていく。淫魔とはよく言ったものだ、とエリクは自分の中に夢魔の痕跡を溜めている。フロランが精霊になにか言われたようで祖母に持っていた紙で蓋つきの箱を折って貰っている。この間にマドレーヌとメイドは部屋の小テーブルにこんもりとおかれていた。

 「あんたが手に入れたそれ、あの箱なら保持できるって。精霊が言ってる」

エリクは試しにその箱に少し『痕跡』を落すと箱の中でそれは蠢いているが箱の外には出られないようなのでマリアンヌの中にあった夢魔の痕跡を全て箱の中に落とした。そして息を吐いた。フロランがそっとその箱に蓋をし、紐で箱を潰さない程度に縛る。

「これは全てアレンにもらったもの?」

エリクがフロランがもっていた箱を見て頷いた。その中に紙でぐるぐる巻きにされている棒状の物と手のひらサイズの日記帳が入っていた。

「それ……は」

クッションを使って体を起こしたマリアンヌは恥じらいと嫌悪の表情だった。

「これはアレンがくれたんだね?」

「ええ。……その日記もそれも、です。日記はその……交換日記で」

マリアンヌはぎゅっと目を瞑る。

「ソレはその……中にいれて着けておいて……自分の事考えててって」

マリアンヌは自分のしていた事を思い出し俯いていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

処理中です...