悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
91 / 212
第二章

渾身の一撃

しおりを挟む
 女将は薄くて耳の部分がぷくぷく膨らんだ丸い物、赤くて黄色くて海産物がたっぷり乗った物とたっぷりの柑橘物のスライスをはちみつで浸けたもの、その酸味の強い果汁、そして炭酸水を持ってきた。果汁にスライスと蜜を入れ、氷魔法で出した氷をグラスに入れ、そこに炭酸を注ぐ。

「さらっと混ぜてから飲んでね」

それはさわやかで甘くて冷たかった。女将が持ってきた食べ物、女将はピッツアと呼んでいた、は慣れ親しんだものの組み合わせにたっぷりと魚介のうまみが組み合わさって大変に美味しいものだった。二人は無言で食べて飲んで少し落ち着いた気持ちになった。

「ロゼはどうする?ここで降りる?……この後は大陸が変わるから帰りづらくなるし」

「んー。嫁いだ姉がディアーヌ王国だっけ、そこにいるから姉の所に身を寄せてもいいし、エディの言う通り冒険者自治区でいい男見つけるかもしれないし」

ロゼが強がる。

「でも、エディが良いんでしょ」

マドレーヌの言葉にロゼは笑い、マドレーヌのおでこを弾いた。

「初恋も未だなのにいっぱしの事言うんじゃありません」

そしてロゼは自分が弾いたマドレーヌの額を優しくなでる。

「あんたくらい綺麗ならエディも私を見たかな、モイラくらい可愛ければとかよく考えるんだよ」

マドレーヌはいつも強気のロゼの意外な一面に驚く。しかし思わず口にした言葉にロゼはにんまりと猫の様に笑った。

「エディ、全く私にそんな風な興味、持った事無いと思う。そういう視線は感じたことない」

マドレーヌは男性のそういう欲望のこもった視線には慣れていた。今までアル、エド、エディといてそういう『欲望』を感じたことはなかった。ただし異性からのほのかな憧れの視線にはとんとうとかった。同性からの憧れの視線はいつものこと、という対応になっていた。

「そうね。マドレーヌが好みならなにかしら表に出るわね、エディなら」

ロゼはそこにあったスライスしたレモンを口にする。蜜に浸かったレモンは甘くて酸っぱかった。

「だから、エディなの?」

マドレーヌが訊ねロゼは少し首を傾げて目を伏せる。長いまつ毛がロゼの頬に影を作る。

「そう、なのよね。エディの嘘の付けないところが好きなんだと思う。それと魅了の声なんかもってるから、国にいるとなにかと不自由でね。神殿にも締め付けられるし。モイラもリュカも神殿に誓った体だからあの地を離れられないのよね。あの土地の聖女って事になってるから」

「そういうのがあるんだ。うちの国ならあの位置だと辺境認定で専任の貴族が置かれるの。うちと東の辺境は国全体の瘴気のコントロールの為の場所で瘴気だまりが出来ててね。そこが原因の魔獣退治をしてるわ。北と南は敵の侵攻もあるから大変。ダンジョンがあるのは南かな。モンスター津波対策なんかもしてると思う」

ロゼはマドレーヌの気を紛らわそうとする気持ちは受け取った。そしてこの娘は魔獣退治
にしか興味を持ってこなかったのだなと改めて思った。



 「エドとモイラに皆からって結婚祝い送っといた」

マドレーヌとロゼが店に戻ってきて開口一番に言ったのはそれだった。

「何送ったんだ?」

エディが聞いてきてロゼが答える。

「敷物。子の国の名産だからね」

「そっか」

ロゼはにこっと笑うとエディのお腹に渾身のパンチを打ち込んだ。さすがのエディでもうずくまる。

「さっきの侮辱へのお返し。……改めてよろしくね」

ロゼとエディの犬も食わない喧嘩は収まった。4人は冒険者自治区を目指す。帰国までまた一歩、進んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

処理中です...