悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
76 / 212
第二章

ウージェーヌと公爵は出番がない

しおりを挟む
 家の中の青い炎が揺れると家自身が震える。そう、バスティエ公爵の領地の館で神官長が前バスティエ公爵の半死骸化を治しきった直後だった。ウージェーヌと公爵はわかっていなかったが前神官長とルカは判っていたようで二人が無言で家の方へ行ったので慌ててウージェーヌと公爵もついていった。

 ルカと前神官長が家の外にずぶずぶと杭を刺していく。家が一回り、杭で囲まれた時に前神官長がいう。

「これで暫く結界の外には出れないからな?」

「暫く?」

グランサニュー公爵の問いに答えが帰る。

「俺とルカが死ぬか、中の死体を何とかするかだな」

前神官長は縁起でもない事を落ち着いて言う。

「ま、荒事になったら俺と振グランサニューのおっちゃんの担当ってことかな」

ウージェーヌは落ち着いている。公爵ははぁと溜息をつく。

「そうだよな、ウジェはそう言うやつだ」

ルカと前神官長は笑う。

「ウジェに緊張感求めても無駄ですよ」

ルカが言い前神官長も付け加える。

「グランジエの血には緊張感はないな」

「……知ってた」

グランサニュー公爵も少しほぐれたようだった。公爵は前神官長に申告する。

「アンデット退治の経験は俺ないぞ、ドニ」

「何事も初体験はあるものだよ」

妙に悟った顔で前神官長が発言し皆で笑う。

「ま、入るか」

「入らないと始まらんな」

ルカがにこっとしたあと扉をノックした。

「お邪魔しまーす」

ウージェーヌが小さな声でいうと前神官長が少し吹き出し、小さな声で呟く。

「ほう、ちゃんと死骸のぶりをしてくれてるな」

ぼぅっと光った前ベルティエ公爵の愛人の『死骸』は先ほどの位置ではなく奥のベッドに横たわっている。

「奥さーん、寝たふりしなくていいですよ」

ウージェーヌの声を無視するかのように横たわったままであったが、ルカと前神官長が同時に部屋中に聖水を撒きはじめ、二人が朗々と聖句を唱え始めた瞬間、ぐわっと口を開いて起き上がった。

「本人の死骸化かな?」

「本人?」

「この女性がネクロマンサーじゃないの?」

ウージェーヌが公爵に言う。結界の外で戦闘が始まった気配がする。

「ありゃ、結界の外にいたか」

「のようだな」

ウージェーヌとグランサニュー公爵は手持ちぶさたそうであった。この二人はこの女性が眷属とした死体対策で前神官長とルカに着いてきていたのだ。

「お、ベッドの上に行動範囲を限定したな」

公爵が珍しそうに見ている。床はほぼ全て聖水で濡れているし、力のある人間の聖句で死骸は動きが鈍い。

「よし」

死骸は人の言葉を話さなかった。話せないのか話さないのかはわからない。

「やっぱあの女と似てるな」

「正妃か?」

ウージェーヌが腑に落ちた表情になった。

「あ、正妃にも似てるのか。いや、うちの娘が遠くに行った原因の子。バスチエ男爵の娘。リディとか言ったかな。事件があった後、バスチエ男爵の家に見に行った。その時に誰かに似てるって悩んだんだけどね」

「領地に帰ったらさっそく調べるか」

グランサニュー公爵の表情が厳しくなった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結

処理中です...