悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
72 / 212
第二章

前公爵は半分死んでいる

しおりを挟む
 「かなりやばいか」

エリクは慣れている様でシーツを一気に剥ぐ。シルクのシーツに肉や皮膚がこびりつき足の一部が骨が見えている。

「ヴ……」

この世の物とも思えぬ声で父親が呻くのをジェラールは見ているしかできなかった。

「伯父上は麻薬で痛みが判らなくなってるんだ」

エリクが解説する。

「まずは足を治す。足元から術をかけられているようだからね」

エリクがぶつぶつ言い出した。

「そうか、ドニ様はこれが見えてたな」

エリクは聖水で足の裏を洗う、腐ったようにみえた足の裏はびっしりなにかが刻まれていた。

「これが死骸化の術式。死体じゃないものを死骸化して操るためにネクロマンサーが使う術の一つだね」

エリクはあくまで冷静だった。

「……これは王宮の聖女の血ともう一つ、多分一緒に死んでた女の血だな、が混じったもので彫り混まれているな。ってことはネクロマンサーも……」

エリクは詳細にその刻まれた陣を紙に書き写し、紙の周りを聖水を指に着けなぞる。

「これで外からは干渉できなくなった」

エリクは外にいる騎士を呼び、その紙を前神官長に届けるように、と頼んだ。時折身をよじるように動く紙を気持ち悪そうにもった騎士は急いで前神官長に届けに行った。

「他には……首の後ろか」

今にも崩れ落ちそうな前公爵の体をひっくりかえしながらその首の後ろに刻まれた陣をまた描き写し聖水で紙をなぞった。

「両手首と太ももの内側もある」

むっとした顔で前神官長が入って来た。

「では私はふともの修復をします」

前神官長が頷きこの部屋に聖魔法で結界をはる。途端前公爵は苦しそうに呻き始めた。

「やはりか。……元に戻せるか?」

エリクは首を傾げる。

「『元』は無理ですね。屋敷内の移動が問題ない程度、最悪寝た切りです」

エリクは冷静に見立てる。

「また利用されたら嫌なんでうちの実家で預かりますよ。ジェラールもいいね。我が家には義兄上がいますから」

不世出の聖騎士と呼ばれた男はミシェル妃とエリクの姉の夫で、将来は侯爵家を継ぐ姉と一緒に侯爵家に住んでいる。

「どうやって連れて行くんだ」

ジェラールが訊ねると

「この家の一番いい馬車で連れて帰る。幸いうちは王都の端っこだからね」

「はよう術式をけしてしまわないと。結界に干渉がある」

エリクの言葉を前神官長はさえぎり、まだ肉が残っている手首の刺青された陣を描きうつしている。エリクよりも前神官長の手は早かった。

「右太もも修復終わり」

エリクが淡々と告げる。ジェラールが見ると脇机の上の紙はぐねっと時々波打っている。前神官長の額には汗が浮かんでいる。が手は止まらない。神官長はふぅと息を継ぎ、アイスペールから聖水を飲む。

「あの……不味くないですか?」

「聖水に味や匂いはない」

前神官長とエリクから同時に声が上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

処理中です...