悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第二章

前神官長と現新艦長の訳のわからない会話

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 「ドニ様が僕を呼んだのはそっちの対応がメインでしょう」

現神官長、エリクがいう。エリクはミシェルの弟でジェラールの従兄弟の一人でもあった。

「有体にいえばそうだな」

エリクは癒しの手と呼ばれる御業を得意とし、本来なら失われそうな命も繋ぎとめる奇跡の手の持ち主と言われていて、政治的な問題で割合と若いうちにさっさと神官長に押し上げられた人間だった。どの派閥でもなく、実績だけがあって、出自は侯爵家の筋の良さと世間知らず故の純粋さで神殿内政治とは無縁であり、エリクの下で政治でじたばたして次を用意できなかった敵対派閥たちが『次』を用意するまでのつなぎとしてエリクを担ぎだし満場一致でエリクが神官長となったのだ。今は対立派閥同士水面下の死闘になっているとか。
 現在、各派閥から1人ずつ、3人の副神官が着いているらしい。エリクに言わせると皆高位貴族の子息で、高位貴族のご婦人の相手を頼みやすいので自分は仕事に専任出来て楽だとニコニコしている。ミシェル妃の弟だけあって端正な美貌を誇る。今日はウージェーヌと一緒にギルドに降り立った時に数人の女性職員が呆けて仕事にならなくなっていたらしい。ウージェーヌとエリクのツーショットを見た男性職員は多少気まずそうに目をそらしたが女性職員が呆けていることは、仕方ないと呟いたとか。



 「さて伯父上の所に案内お願いします」

ジェラールはエリクを連れて行こうとしたが、前神官長が止める。

「聖水ももってけ」

領主の館を取り仕切る執事を前神官長は胡散臭げに見る。

「そうだな、お主自身が素手で銀のワインクーラーを持ってきなさい。……銀のやつをな」

その執事はわなわなと震えるだけで動かない。

「後で話を聞くから拘束を」

グランサニュー公爵お付きの騎士が動こうとした時、執事は何事か叫びながらエリクの方、出口の方向へ走った。エリクを狙ったのかと思ったがエリクではなく出口を目指したようだった。
 目の前に体格の良い執事が来た時エリクがひょいと足をだし、執事はつんのめり顔から廊下へ落ちて行った。びたん、という音とぐしゃりとなにかが潰れた音がした。急ぎお付きの騎士が捕縛し、執事を持ち上げた。

「あ、失礼した」

エリクは執事の様子を見る。

「廊下に歯が落ちてないかな?」

かなり離れたところで下っ端の騎士が見つけて来た。

「これを手に持たせて、と」

エリクがまったく無詠唱で力を使う。金色の光と共に執事の顔は血まみれではあったが潰れた鼻と折れた歯が元に戻った。まだ意識はないようだった。

「地下牢の……真ん中くらいの所に入れておけ」

ジェラールの指示でこの家にいる私兵とお付きの騎士がその執事を牢に連れて行った。

「地下牢って一番手前にはよくいれられたなぁ」

のんびりとエリクは言う。ウージェーヌも笑って同意する。

「ジェラール、お前はどうなんだ?」

「ウジェに巻き込まれて二回ですかね」

グランサニュー公爵の問いにジェラールは憮然と答えた。ジェラールはウジェとエリクが揃うとなにかと騒動が起きていたな、と思い出す。
 まだ元気でまともだった前ベルティエ公爵もこの二人をとっ捕まえてこの館の地下牢で一晩過ごさせたりしていた。

「じゃ、伯父上の」

「だから聖水をもっていけ」

「それは予兆ですか?」

「ああ。いるだろうと思ってあの量作ったんじゃ。半分はいらんな。ワインクーラー5つ分位は持って行っとけ。半死骸化がおこっとるならいるじゃろ」

前神官長とエリクが訳の判らない会話をしている。その場で頷いているのはルカだけであった。


 「……匂いが凄いな」

「ああ。父を連れて来た騎士が『肉が腐って柔らかくなってて』と運ぶのも困ってしまったらしい」

「そうか」

ジェラールとエリクは部屋に入った。ジェラールはシーツに滲む体液に息をのんだ。
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