54 / 212
第二章
エチエンヌとドニ(公爵と前神官長 2)
しおりを挟む
「それとな、強力な認証魔法が欲しいな」
公爵は前神官長にそんなことを頼む。辺境伯同士の個人認証を破ろうとしたらその魔法を破ろうとした本人の血液が微量に手紙に附着するシステムはこの前神官長が作ったものだった。魔法の改良、作成はこの前神官長の趣味であった。
「ちょっとまってろ。3日後また来い。ワインとチーズと奥方が焼いたナッツ入りの固いパンと一緒にな」
前神官長はちゃっかりと報酬を決めた。
「ところでな、ベルティエの所の小娘は古語は読めるのか?」
前神官長が公爵に訊ねる。
「うちのが教えに行ったり、ベルティエ公爵が教えに行ったりしてるがダメらしい。……あの娘は学ぶことに全く向いてないな、頭が」
公爵が真面目な顔で言うので前神官長ドニは笑いどころかどうか悩む。
「……聖女はどうなんだ?」
「わからんが……準男爵の娘というなり代わり元なら古語を使えると思えんし、古語が使えたら黒魔術ももっと精緻な物が使えるはずだしな」
王宮の魔法師団にも黒魔術使いはいくらでもいる。ただ、儀式をしたり悪魔信仰と黒魔術を混ぜてしまっている一派は正妃の母親の一家を中心とした一派だけであった。
お陰で黒魔術のおどろおどろしいイメージが作り上げられてしまい、昨今の魔法師団の黒魔術使いは自分たちを闇魔術使いと言い換えている。それはそれでなにか後ろ暗い感じがするのでもう少し良い言い方はないかと魔法師団は悩んでいるらしい。
「そもそも先祖代々の黒魔術使いだ、うちが黒魔術の祖だって言い出したのが王妃の母親の義父だっけか」
「ああ。平民で学園に入ってきて。ほら、学園にあった黒魔術研究会の過激な一部に感化されてた男がいただろ?」
ドニはエチエンヌから説明を受ける。
「うちの……当時の俺の従者が感化されてあっちに行ってしまったから少しだけ関わってたんだよ」
公爵は結局闇に紛れてしまった幼馴染をほろ苦く思い出す。
「元従者は自分から進んで魔術の生贄になっちまってな」
公爵はふっと溜息を吐いた。
「奴らの本拠地で、血を抜かれて太陽神像に逆さづりの状態で見つかったよ。廃棄された元神殿でな」
「……俺も覚えてるよ。あれはショッキングな事件だったから三文新聞に特集とかされてたな」
二人はぼつぼつ話す。
「その正妃の母親の義父になったやつな」
前神官長がちょっと遠い目になって語る。
「俺、あいつに『同じ名前ですね。仲良くしましょう』って入学の時言われて暫く付きまとわれてたんだよ」
末端の王族出身のドニ、前神官長は誰にも言わなかったことを言う。
「……俺が一応とつく程度でも『王族』だったから利用したかったみたいでな。野心でぎらぎらした奴だったよ、15歳の子供でも」
「それ後いちおう爵位をとれたのも凄いとは思う、あいつ」
公爵は素直に称賛する。
「なんだかんだって言っても俺らは甘ちゃんで坊ちゃんだからな」
前神官長も公爵も顔を見合わせて笑う。
「ああいう野心溢れる男が魅力的にみえるのもわかるよ。……あれを悪用しなかったらなぁ」
「カリスマ性ってのは着けたくて着くものでもないもんな」
元王族二人は顔を見合わせてまた笑う。
「で、あいつがベルティエ領の寡婦と結婚して、そこにいたのが正妃の母親でな。……色んなスキャンダルあったよな、あの時も」
元神官長もふっと溜息をつく。
「母娘同時妊娠だっけか。……娘の子は違う地方で下っ端神官をやってるよ、実家とは縁を切ってる」
神官長が公爵に教える。
「いつの間にかベルティエ前公爵の愛人にあの娘が収まってて驚いたな」
公爵は当時、国内で一番力を持ち、王家を抑え込んでいたベルティエ前公爵があのぼんやりと薄暗い女性を愛人にしたのに驚いていた。どれだけの麗しい女性でも望めたベルティエ前公爵の愛人があの娘か、と失礼な事を考えていたな、と思い出す。
公爵は前神官長にそんなことを頼む。辺境伯同士の個人認証を破ろうとしたらその魔法を破ろうとした本人の血液が微量に手紙に附着するシステムはこの前神官長が作ったものだった。魔法の改良、作成はこの前神官長の趣味であった。
「ちょっとまってろ。3日後また来い。ワインとチーズと奥方が焼いたナッツ入りの固いパンと一緒にな」
前神官長はちゃっかりと報酬を決めた。
「ところでな、ベルティエの所の小娘は古語は読めるのか?」
前神官長が公爵に訊ねる。
「うちのが教えに行ったり、ベルティエ公爵が教えに行ったりしてるがダメらしい。……あの娘は学ぶことに全く向いてないな、頭が」
公爵が真面目な顔で言うので前神官長ドニは笑いどころかどうか悩む。
「……聖女はどうなんだ?」
「わからんが……準男爵の娘というなり代わり元なら古語を使えると思えんし、古語が使えたら黒魔術ももっと精緻な物が使えるはずだしな」
王宮の魔法師団にも黒魔術使いはいくらでもいる。ただ、儀式をしたり悪魔信仰と黒魔術を混ぜてしまっている一派は正妃の母親の一家を中心とした一派だけであった。
お陰で黒魔術のおどろおどろしいイメージが作り上げられてしまい、昨今の魔法師団の黒魔術使いは自分たちを闇魔術使いと言い換えている。それはそれでなにか後ろ暗い感じがするのでもう少し良い言い方はないかと魔法師団は悩んでいるらしい。
「そもそも先祖代々の黒魔術使いだ、うちが黒魔術の祖だって言い出したのが王妃の母親の義父だっけか」
「ああ。平民で学園に入ってきて。ほら、学園にあった黒魔術研究会の過激な一部に感化されてた男がいただろ?」
ドニはエチエンヌから説明を受ける。
「うちの……当時の俺の従者が感化されてあっちに行ってしまったから少しだけ関わってたんだよ」
公爵は結局闇に紛れてしまった幼馴染をほろ苦く思い出す。
「元従者は自分から進んで魔術の生贄になっちまってな」
公爵はふっと溜息を吐いた。
「奴らの本拠地で、血を抜かれて太陽神像に逆さづりの状態で見つかったよ。廃棄された元神殿でな」
「……俺も覚えてるよ。あれはショッキングな事件だったから三文新聞に特集とかされてたな」
二人はぼつぼつ話す。
「その正妃の母親の義父になったやつな」
前神官長がちょっと遠い目になって語る。
「俺、あいつに『同じ名前ですね。仲良くしましょう』って入学の時言われて暫く付きまとわれてたんだよ」
末端の王族出身のドニ、前神官長は誰にも言わなかったことを言う。
「……俺が一応とつく程度でも『王族』だったから利用したかったみたいでな。野心でぎらぎらした奴だったよ、15歳の子供でも」
「それ後いちおう爵位をとれたのも凄いとは思う、あいつ」
公爵は素直に称賛する。
「なんだかんだって言っても俺らは甘ちゃんで坊ちゃんだからな」
前神官長も公爵も顔を見合わせて笑う。
「ああいう野心溢れる男が魅力的にみえるのもわかるよ。……あれを悪用しなかったらなぁ」
「カリスマ性ってのは着けたくて着くものでもないもんな」
元王族二人は顔を見合わせてまた笑う。
「で、あいつがベルティエ領の寡婦と結婚して、そこにいたのが正妃の母親でな。……色んなスキャンダルあったよな、あの時も」
元神官長もふっと溜息をつく。
「母娘同時妊娠だっけか。……娘の子は違う地方で下っ端神官をやってるよ、実家とは縁を切ってる」
神官長が公爵に教える。
「いつの間にかベルティエ前公爵の愛人にあの娘が収まってて驚いたな」
公爵は当時、国内で一番力を持ち、王家を抑え込んでいたベルティエ前公爵があのぼんやりと薄暗い女性を愛人にしたのに驚いていた。どれだけの麗しい女性でも望めたベルティエ前公爵の愛人があの娘か、と失礼な事を考えていたな、と思い出す。
7
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる