悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第二章

エチエンヌとドニ(公爵と前神官長 2)

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 「それとな、強力な認証魔法が欲しいな」

公爵は前神官長にそんなことを頼む。辺境伯同士の個人認証を破ろうとしたらその魔法を破ろうとした本人の血液が微量に手紙に附着するシステムはこの前神官長が作ったものだった。魔法の改良、作成はこの前神官長の趣味であった。

「ちょっとまってろ。3日後また来い。ワインとチーズと奥方が焼いたナッツ入りの固いパンと一緒にな」

前神官長はちゃっかりと報酬を決めた。

「ところでな、ベルティエの所の小娘は古語は読めるのか?」

前神官長が公爵に訊ねる。

「うちのが教えに行ったり、ベルティエ公爵小僧が教えに行ったりしてるがダメらしい。……あの娘正妃は学ぶことに全く向いてないな、頭が」

公爵が真面目な顔で言うので前神官長ドニは笑いどころかどうか悩む。

「……聖女はどうなんだ?」

「わからんが……準男爵の娘というなり代わり元なら古語を使えると思えんし、古語が使えたら黒魔術ももっと精緻な物が使えるはずだしな」

 王宮の魔法師団にも黒魔術使いはいくらでもいる。ただ、儀式をしたり悪魔信仰と黒魔術を混ぜてしまっている一派は正妃の母親の一家を中心とした一派だけであった。
 お陰で黒魔術のおどろおどろしいイメージが作り上げられてしまい、昨今の魔法師団の黒魔術使いは自分たちを闇魔術使いと言い換えている。それはそれでなにか後ろ暗い感じがするのでもう少し良い言い方はないかと魔法師団は悩んでいるらしい。

「そもそも先祖代々の黒魔術使いだ、うちが黒魔術の祖だって言い出したのが王妃の母親の義父だっけか」

「ああ。平民で学園に入ってきて。ほら、学園にあった黒魔術研究会の過激な一部に感化されてた男がいただろ?」

ドニはエチエンヌから説明を受ける。

「うちの……当時の俺の従者が感化されてあっちに行ってしまったから少しだけ関わってたんだよ」

公爵は結局闇に紛れてしまった幼馴染をほろ苦く思い出す。

「元従者は自分から進んで魔術の生贄になっちまってな」

公爵はふっと溜息を吐いた。

「奴らの本拠地で、血を抜かれて太陽神像に逆さづりの状態で見つかったよ。廃棄された元神殿でな」

「……俺も覚えてるよ。あれはショッキングな事件だったから三文新聞に特集とかされてたな」

 二人はぼつぼつ話す。

「その正妃の母親の義父になったやつな」

前神官長がちょっと遠い目になって語る。

「俺、あいつに『同じ名前ですね。仲良くしましょう』って入学の時言われて暫く付きまとわれてたんだよ」

 末端の王族出身のドニ、前神官長は誰にも言わなかったことを言う。

「……俺が一応とつく程度でも『王族』だったから利用したかったみたいでな。野心でぎらぎらした奴だったよ、15歳の子供でも」

「それ後いちおう爵位をとれたのも凄いとは思う、あいつ」

公爵は素直に称賛する。

「なんだかんだって言っても俺らは甘ちゃんで坊ちゃんだからな」

前神官長も公爵も顔を見合わせて笑う。

「ああいう野心溢れる男が魅力的にみえるのもわかるよ。……あれを悪用しなかったらなぁ」

「カリスマ性ってのは着けたくて着くものでもないもんな」

元王族二人は顔を見合わせてまた笑う。

「で、あいつがベルティエ領の寡婦と結婚して、そこにいたのが正妃の母親でな。……色んなスキャンダルあったよな、あの時も」

元神官長もふっと溜息をつく。

「母娘同時妊娠だっけか。……娘の子は違う地方で下っ端神官をやってるよ、実家とは縁を切ってる」

神官長が公爵に教える。

「いつの間にかベルティエ前公爵の愛人にあの娘が収まってて驚いたな」

公爵は当時、国内で一番力を持ち、王家を抑え込んでいたベルティエ前公爵があのぼんやりと薄暗い女性を愛人にしたのに驚いていた。どれだけの麗しい女性でも望めたベルティエ前公爵の愛人があの娘か、と失礼な事を考えていたな、と思い出す。

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