悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

文字の大きさ
上 下
52 / 212
第二章

公爵と前神官長 1

しおりを挟む
 小屋全体がかっと光る。


「なんだ、今の」

「最大魔力を込めた。今は戦闘時期でもないし人が運び込まれてこないのでな。魔力をもてあましとったんじゃよ」

元神官長が渡してくれた魔石は最上級品であった。

「エチエンヌ、お前さんが動くって事は王族がらみだろ」

「王族というか、ピンポイントに陛下がらみだな」

「お前の甥っ子前陛下は」

公爵はふーと遠い目になった。

「あいつ、退位と同時にな、病気療養ってことになっとるじゃろ」

「お前の甥だ。……遊び歩いてるんだろ?」

「ご明察。冒険者登録して色んな国に飛んどる。ここ数年は顔みてない」

前神官長はお手上げ、というしぐさをする。

「さすがというべきかな」

「くそ道楽息子だわな。……エクトルには苦労かけてると思う。王太子のころからな……。好いた女を正妃にさせてやれなんだのは残念だ」

赤い酒の香りがふわっと香る。

「今の聖女を認定したのはだれだ?」

前神官長がとある神官の名前を言う。その神官は聖女が認定され正妃の側に着いた夜に亡くなった男だった。亡くなり方も体中の血を抜かれ、主神、太陽神の像に逆さづりにされた状態でみつかったのだ。そう、神殿内で死んでいたのだ。
 神罰だと大騒ぎになったがうやむやのままに事件は緘口令が敷かれもう人の口に上る事もなくなった。
 前神官長が隠棲しここに住みだしたのは事件の後であった。

「あれから刺客は年に数回、か」

公爵の言葉を前神官長は面白そうに聞いている。

「俺は釣り餌だもんな」

「そういうなよ。……おれもある筋から指示をうけててな」

神官長はじっと公爵を見る。

「エチエンヌ、それはエクトル陛下ではなかろう?」

「ああ……、陛下の知人ではあるかな」

精霊を知人と呼んでいいものか、と公爵は考える。

「知人、ね。……ま、大体なにかは知ってる。神殿に伝承も残ってるからな」

「……全ての神官が読めるのか?」

公爵はあからさまに警戒した。前神官長は肩をすくめる。

「神官長かつ素養がないと読めない。古語で書かれてるからな」

公爵は安心した顔になった。

「かつ本を開けるだけの魔力がないとな。今の神官長は無理だろうな」

今の神官長は古語が読めないので、古語の書類は王族出身の副神官の下に着いている神官
が現代語に翻訳して渡しているらしい。

「あの子は元気でやってるのかな?」

公爵の問いに前神官長は首を傾げる。

「……教会の書類がかりになっとるね。そういう素養ある人間を集めて書記部を作るべきかって副神官長が悩んでるよ」

「そうか、古語か。そうだな、古語を使えばいけるな」

「なにが?」

「とある人と連絡を取るためにギルドを通さないと届けられなくてな」

「ギルド?」

神官長が怪訝な顔で訊ねる。

「冒険者ギルド。間にいる人間を信じ切れなくてな」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...