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幕間
正妃と側妃と 1
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本来ならセイラ妃は神殿に入り、国家と王家の安寧を祈る存在、聖女となるべき女性であった。10歳になる前から神殿に入り日々の研鑽を積んでいた。そんな彼女が神殿の敷地内で暴漢にあい、体をけがされて神の花嫁になる資格を失った。
地方の裕福でもなく貧乏でもない伯爵家に戻り後妻から針の筵の扱いを受けつつ下働きのような生活を強いられていた。
セイラ妃の父親はそんな娘の様子をみかねて前陛下を頼った。自分の家にいて後妻に苛まれるよりはどこか勤め先はないか、と。セイラ妃は王宮で幼い姫たちの基礎的な淑女教育と刺繍を教える、という事になった。今は有力貴族や他国に嫁いだ12人の姫はセイラを慕った。セイラ妃なら甘えても、他の妃や自分の母親が五月蠅くなかったからだ、色んな妃が誰がセイラを取り込むかでバチバチやっている時に王太子、現陛下の手が着いた。
陛下は婚約者との関係に疲弊していた。政治的な話でアグネスを娶らざるを得ないので二人は契約をする。嫁して来るときは腹の中を空にしている事。(私生児を産んでるならその始末は公爵家がする事)、先ず半年妊娠していない確認を取る。その間に妊娠したら離縁と公爵家にペナルティ。
半年で確証が得られたら1年間は子作りをする。第一子の妊娠出産後は大きなへまをしない限り正妃の座はアグネスのものである事。第一子妊娠後、出産に至ればお互い干渉せず、と。
ネイサンより3か月早くロクサーヌが生まれた。アグネスの出産に合わせ貴族達は……出産しなかった。ネイサンのお友達候補は居なかったのだ。育児をする気がないアグネスは自分の母親に預けると言い出した。母親を王宮に呼ぶ、と。
王宮のマナー講師ははっきりと言った。
「アグネス様のお母様、公爵家の奥様はもう亡くなってます。よって呼ぶことはできません。正妃様の乳母をしていたらしい準男爵家の女性は王宮に上がるだけのマナーを知りませんからいらっしゃる事はできません」
この話は陛下の耳に入り、ベルティエ公爵家にも伝わった。前ベルティエ公爵は前陛下からの叱責があり、公爵を退きジェラールに公爵の座を移す事となった。
そしてネイサンはベルティエ公爵家で5歳まで生育される事となった。それは公爵邸ならアグネスも顔を出しやすいであろうという前陛下の配慮であった。
こうやってロクサーヌとネイサンは5年間一緒に過ごす事になった。アレンとロクサーヌとネイサンははじめての顔合わせの時にネイサンのロクサーヌを取られるという焦りから「お前なんか嫌いだ」の絶叫で終わったらしい。
アレンもロクサーヌもネイサンもそんなことは覚えていなかった。
ネイサンが3才の頃、アグネスは陛下が数人の側妃を囲っている事にやっと気が付いた。そのうちの一人の子供はネイサンよりも随分大きい子供だった。陛下ともセイラ妃とも似ていない黒髪黒目の子供はとても利発そうだった。(アルの瞳と髪は前王妃の兄と同じであった)ここではじめてアグネスはネイサンが王太子というわけではないと気が付いた。
その日、アグネスは陛下の閨に押し入った。そこにいたのはアグネスの上位互換の従妹のミシェル・マルタ侯爵令嬢であった。アグネスも美しくはあったがどこか下卑た野趣に富む美しさであったが、ミシェルはアグネスの美点を正しく磨き上げた令嬢らしい美しさだった。
「このドロボゥ猫っ」
アグネスの叫びにミシェルは先刻まで陛下と睦あった豊かな体を一糸まとわぬ肢体でアグネスに見せつける。
「あら、私も王家からの要請でここにいるのですわ。出来る事なら王子を身ごもるために励んでおりますの。お役御免の出汁がらは閨に上がるなんて無理でしょ?」
アグネスの従妹はあくまで引く気はなかった。
「あなたがやらかした尻ぬぐいで私は後宮にはいりました。貴方の兄との婚約を解消させられてね。それは陛下も知ってます」
冷たい目でアグネスを見ていた陛下はそのまま頷いた。
「後宮にも社交界にも貴方の居場所はないんですよ、準男爵の令嬢から産まれた貴方を正妃で置いておくためにベルティエ公爵家とその関係者がどれだけ犠牲を払ってるかなんて知らないくせに。一生お飾りでいるがいいわ」
「ミシェル、……辛い思いをさせてすまん」
陛下はアグネスが聞いた事もない優しい声で波打つ金髪を抱き寄せ撫でた。
地方の裕福でもなく貧乏でもない伯爵家に戻り後妻から針の筵の扱いを受けつつ下働きのような生活を強いられていた。
セイラ妃の父親はそんな娘の様子をみかねて前陛下を頼った。自分の家にいて後妻に苛まれるよりはどこか勤め先はないか、と。セイラ妃は王宮で幼い姫たちの基礎的な淑女教育と刺繍を教える、という事になった。今は有力貴族や他国に嫁いだ12人の姫はセイラを慕った。セイラ妃なら甘えても、他の妃や自分の母親が五月蠅くなかったからだ、色んな妃が誰がセイラを取り込むかでバチバチやっている時に王太子、現陛下の手が着いた。
陛下は婚約者との関係に疲弊していた。政治的な話でアグネスを娶らざるを得ないので二人は契約をする。嫁して来るときは腹の中を空にしている事。(私生児を産んでるならその始末は公爵家がする事)、先ず半年妊娠していない確認を取る。その間に妊娠したら離縁と公爵家にペナルティ。
半年で確証が得られたら1年間は子作りをする。第一子の妊娠出産後は大きなへまをしない限り正妃の座はアグネスのものである事。第一子妊娠後、出産に至ればお互い干渉せず、と。
ネイサンより3か月早くロクサーヌが生まれた。アグネスの出産に合わせ貴族達は……出産しなかった。ネイサンのお友達候補は居なかったのだ。育児をする気がないアグネスは自分の母親に預けると言い出した。母親を王宮に呼ぶ、と。
王宮のマナー講師ははっきりと言った。
「アグネス様のお母様、公爵家の奥様はもう亡くなってます。よって呼ぶことはできません。正妃様の乳母をしていたらしい準男爵家の女性は王宮に上がるだけのマナーを知りませんからいらっしゃる事はできません」
この話は陛下の耳に入り、ベルティエ公爵家にも伝わった。前ベルティエ公爵は前陛下からの叱責があり、公爵を退きジェラールに公爵の座を移す事となった。
そしてネイサンはベルティエ公爵家で5歳まで生育される事となった。それは公爵邸ならアグネスも顔を出しやすいであろうという前陛下の配慮であった。
こうやってロクサーヌとネイサンは5年間一緒に過ごす事になった。アレンとロクサーヌとネイサンははじめての顔合わせの時にネイサンのロクサーヌを取られるという焦りから「お前なんか嫌いだ」の絶叫で終わったらしい。
アレンもロクサーヌもネイサンもそんなことは覚えていなかった。
ネイサンが3才の頃、アグネスは陛下が数人の側妃を囲っている事にやっと気が付いた。そのうちの一人の子供はネイサンよりも随分大きい子供だった。陛下ともセイラ妃とも似ていない黒髪黒目の子供はとても利発そうだった。(アルの瞳と髪は前王妃の兄と同じであった)ここではじめてアグネスはネイサンが王太子というわけではないと気が付いた。
その日、アグネスは陛下の閨に押し入った。そこにいたのはアグネスの上位互換の従妹のミシェル・マルタ侯爵令嬢であった。アグネスも美しくはあったがどこか下卑た野趣に富む美しさであったが、ミシェルはアグネスの美点を正しく磨き上げた令嬢らしい美しさだった。
「このドロボゥ猫っ」
アグネスの叫びにミシェルは先刻まで陛下と睦あった豊かな体を一糸まとわぬ肢体でアグネスに見せつける。
「あら、私も王家からの要請でここにいるのですわ。出来る事なら王子を身ごもるために励んでおりますの。お役御免の出汁がらは閨に上がるなんて無理でしょ?」
アグネスの従妹はあくまで引く気はなかった。
「あなたがやらかした尻ぬぐいで私は後宮にはいりました。貴方の兄との婚約を解消させられてね。それは陛下も知ってます」
冷たい目でアグネスを見ていた陛下はそのまま頷いた。
「後宮にも社交界にも貴方の居場所はないんですよ、準男爵の令嬢から産まれた貴方を正妃で置いておくためにベルティエ公爵家とその関係者がどれだけ犠牲を払ってるかなんて知らないくせに。一生お飾りでいるがいいわ」
「ミシェル、……辛い思いをさせてすまん」
陛下はアグネスが聞いた事もない優しい声で波打つ金髪を抱き寄せ撫でた。
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