10 / 212
第一章
ドロテアの本音
しおりを挟む「拙者、アカツキと申す。実は先日、こちらの近くに住む巫女の女性と、お見合いをしたのでござる」
聞けば、相手の機嫌を損ねてしまったとのことです。
どうやら、ソナエさんのお見合いの相手とは、アカツキさんのようですね。
隣のソナエさんを、確認します。
あー、怒っていますねぇ。
わたしたちは暗がりにいるのですが、ソナエさんの青筋がくっきりと見えますよ。
ソナエさんの腕を、ヒジで小突きます。
態度で示すと、相手にも伝わっちゃいますよ。
ダメですね、これは。話す気がない模様です。
ソナエさんがここまで立腹している姿は、初めて見ました。
よほど、腹にすえかねる物言いをされたのでしょう。
「何を話されたんですか?」
「他愛のない話です。どのような酒を好むか、あてはどれか。拙者は、トマトやチーズだけでも楽しめるというと、相手はたいそう喜んでくださいましたぞ。食事の好みも、ほぼ同じだったので、大丈夫だと思うていたのです」
よかったじゃないですか。なにが不満だったのでしょう?
「発言に失礼があったか、心当たりはありますか?」
「無礼だったのは、両親です」
初対面だというのに、お母様がやたらとソナエさんに小言を言ってきたとか。
相手方の両親ができた人で、そのままことなきを得たと言います。
お父様まで叱り飛ばしたくらいだとか。
「あなたご自身に、問題があったとのお考えは?」
「思い当たるフシが、何も。おそらく、それも怒らせた原因だったのでござろう。なんてことのない会話で、憤慨されたのでしょう」
反省は、しているようですが。
あー、もう。
ソナエさんブチギレじゃないですか。
これは、早く解決せねば。
「何を話したか、再現はできますか」
「毎朝、あなたの味噌汁が飲みたいと」
「……あー」
これは、罪深い。
ダメですね。ダメダメです。これはギルティというしかありません。
実に罪な発言ですよ、これは。
「おサムライさん。あなたは首をハネられても文句が言えません」
「そこまででござるか!?」
「あなたの中では、朝は眠いのにお味噌汁を作るのは、女性だけなのですね」
まだわかっていないのか、アカツキさんは黙り込みます。
「あなたは、炊事などの家事を奥様一人に押し付けるおつもりで?」
「……っ!」
アカツキさんが、ハッと息を呑みました。
わたしの言わんとしていることが、ようやく飲み込めたようで。
「失念していた。これでは、母と同じではないか!」
「では、その旨をお伝えください。きっと、わかり合えるはずですから」
シスター・エマと一緒に、お粥のお店で休憩をします。
「とにかく、指示に従えって注文が多いんだよ。武家だからかねえ」
わたしは、とかくその「武家」なるワードがひっかかりました。
どうもブケというのは、こちらでいう「騎士団」のような役職だそうで。
「ブケ、という家系は、そんなにめんどくさいの?」
エマからの質問に、ソナエさんは「うんうん」とブンブン首を振ります。
「しきたりには、うるさいかな? 考え方が古いから」
こちらも、騎士や貴族の中には柔軟な考えの人は少ないかも知れません。
「謎マナーが多いぜ。箸の持ちからや食べ方まで、指図してきやがる」
めんどうな方みたいですね。
「ですが、お料理が上手じゃないですか。結婚のご意思自体はあるのでは?」
「あたしが食べたいから、料理が勝手にうまくなったんだ。伴侶なんて、考えたこともないさ」
自分がおいしい晩酌を楽しみたいから、料理の腕を磨いたとのこと。
なるほど、自分のためならいくらでもおいしいものを作るけど、他人のためとなると話は別だと。
休憩を終えて、再度ザンゲ室へ。
今度の方は、お歳をめしたおばあさまのようで。
「実は先日、息子の見合い相手にきつくあたりすぎてしまって」
へ?
今度は、お見合い相手のお母様がいらっしゃったと?
聞けば、相手の機嫌を損ねてしまったとのことです。
どうやら、ソナエさんのお見合いの相手とは、アカツキさんのようですね。
隣のソナエさんを、確認します。
あー、怒っていますねぇ。
わたしたちは暗がりにいるのですが、ソナエさんの青筋がくっきりと見えますよ。
ソナエさんの腕を、ヒジで小突きます。
態度で示すと、相手にも伝わっちゃいますよ。
ダメですね、これは。話す気がない模様です。
ソナエさんがここまで立腹している姿は、初めて見ました。
よほど、腹にすえかねる物言いをされたのでしょう。
「何を話されたんですか?」
「他愛のない話です。どのような酒を好むか、あてはどれか。拙者は、トマトやチーズだけでも楽しめるというと、相手はたいそう喜んでくださいましたぞ。食事の好みも、ほぼ同じだったので、大丈夫だと思うていたのです」
よかったじゃないですか。なにが不満だったのでしょう?
「発言に失礼があったか、心当たりはありますか?」
「無礼だったのは、両親です」
初対面だというのに、お母様がやたらとソナエさんに小言を言ってきたとか。
相手方の両親ができた人で、そのままことなきを得たと言います。
お父様まで叱り飛ばしたくらいだとか。
「あなたご自身に、問題があったとのお考えは?」
「思い当たるフシが、何も。おそらく、それも怒らせた原因だったのでござろう。なんてことのない会話で、憤慨されたのでしょう」
反省は、しているようですが。
あー、もう。
ソナエさんブチギレじゃないですか。
これは、早く解決せねば。
「何を話したか、再現はできますか」
「毎朝、あなたの味噌汁が飲みたいと」
「……あー」
これは、罪深い。
ダメですね。ダメダメです。これはギルティというしかありません。
実に罪な発言ですよ、これは。
「おサムライさん。あなたは首をハネられても文句が言えません」
「そこまででござるか!?」
「あなたの中では、朝は眠いのにお味噌汁を作るのは、女性だけなのですね」
まだわかっていないのか、アカツキさんは黙り込みます。
「あなたは、炊事などの家事を奥様一人に押し付けるおつもりで?」
「……っ!」
アカツキさんが、ハッと息を呑みました。
わたしの言わんとしていることが、ようやく飲み込めたようで。
「失念していた。これでは、母と同じではないか!」
「では、その旨をお伝えください。きっと、わかり合えるはずですから」
シスター・エマと一緒に、お粥のお店で休憩をします。
「とにかく、指示に従えって注文が多いんだよ。武家だからかねえ」
わたしは、とかくその「武家」なるワードがひっかかりました。
どうもブケというのは、こちらでいう「騎士団」のような役職だそうで。
「ブケ、という家系は、そんなにめんどくさいの?」
エマからの質問に、ソナエさんは「うんうん」とブンブン首を振ります。
「しきたりには、うるさいかな? 考え方が古いから」
こちらも、騎士や貴族の中には柔軟な考えの人は少ないかも知れません。
「謎マナーが多いぜ。箸の持ちからや食べ方まで、指図してきやがる」
めんどうな方みたいですね。
「ですが、お料理が上手じゃないですか。結婚のご意思自体はあるのでは?」
「あたしが食べたいから、料理が勝手にうまくなったんだ。伴侶なんて、考えたこともないさ」
自分がおいしい晩酌を楽しみたいから、料理の腕を磨いたとのこと。
なるほど、自分のためならいくらでもおいしいものを作るけど、他人のためとなると話は別だと。
休憩を終えて、再度ザンゲ室へ。
今度の方は、お歳をめしたおばあさまのようで。
「実は先日、息子の見合い相手にきつくあたりすぎてしまって」
へ?
今度は、お見合い相手のお母様がいらっしゃったと?
7
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。
音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日……
*体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる