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第一章
何故ここにいるのだろう?
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「あなたは刺繍が得意なのね?」
アルノー家の奥方はマリアンヌに確認する。
「得意というか、好きです」
「なら、手伝って下さらない?」
そこは奥方の仕事部屋で、孤児院のバザーに出すハンカチや小物を作っていた。
「可愛らしい小さな刺繍をお願いしたいの。本当にワンポイントでいいの。急がないけど教会のバザーにはいつも出すからストックを作っておくの」
マリアンヌは一心不乱に奥方を手伝った。奥方の仕事を手伝っているので心苦しさも減る。
「あとでお兄様達に持って行きなさい。10時のお茶くらいの時に。今日は裏庭の畑作りを手伝ってるはずよ」
奥方がバスケットをマリアンヌに渡す。
あっという間に時間になり、マリアンヌは奥方に言われバスケットを持って兄達がいる
という裏庭に小走りで向かった。
「お兄様、奥方様から差し入れ」
他の下男や庭師の所にも同じバスケットが配られている。兄二人は意外と平気そうであった。
「サンドイッチ、術で冷たくしたレモネード、一口アップルパイ」
おどけるように次兄は口にする。
「兄様……、つらい?」
兄たち二人はにやりと口元を曲げる。
「いんや。ま、しょうにあってるよ、体を使うのは」
マリアンヌは兄たちが冒険者のような生活を送っているのを知っていた。あののりでやり過ごしてるんだな、と理解した。実際、下男の中のヒエラルキーは単純に『力』であり、殴られたら殴り返す、そういう世界であった。貴族令息だと聞いてなめてかかった下男たちだったが鍛え方が違った。二人はそれを見せつけ、ほかの下男たちも一目置くようになっていた。
兄達の元気な顔も見ることができてマリアンヌは気分も良く奥方の元に戻る。バスケットは使用人の人が集めて持って行くというのでおいて来た。
「お前がマリアンヌか」
何故かアルノー家の廊下にネイサン王子がいた。マリアンヌは王都でマドレーヌとお茶をしている時に顔を見ている。どうもその時のことは覚えてないらしい。マリアンヌは『あ、やっぱり記憶力もお粗末なんだ』と思った。
その時は人目もはばからず『側妃に』と店の中でせまり、さすがにとお付きの子息達に止められていた。マドレーヌの顔が凍り付いていたのも記憶に鮮やかだ。
「ふーん」
マリアンヌは廊下の壁に追い詰められていた。
「金茶の髪に青い目、平凡な色合いだけど姉妹だけあってマドレーヌと似てるな」
ネイサンは片手を壁に着いてマリアンヌの顎を持ち上げている。そこに真っ赤な騎士服の人物が廊下を走ってきて左腕でネイサンの頭を薙ぎ払った。マリアンヌは何が起こったのかわかっていなかったがネイサンから離れられたことは悟った。
「殿下っ、見つけましたよ。王宮から消えたと思ったら他所の家で何してるんですか」
声を聞いてそれが女性だとわかったが見た目は美貌の少年にみえた。
「ロクサーヌ様……」
ロクサーヌ・ペルティエ公爵令嬢はネイサンの婚約者でお世話係と呼ばれている令嬢だった。その名の通り、明け方の空のような赤毛にペリドットの色の瞳のきりっとした美貌の令嬢であった。ドレス姿も美しいだろうにいつも真っ赤な騎士服を着ている。本人曰く『ネイサンの世話をするなら動きやすくないと』との事。ロクサーヌはマリアンヌににっこり笑うと顎で早く行けと指示をする。マリアンヌは頭を下げると走らない程度のスピードで奥方の部屋に向かった。急ぐマドレーヌの後ろからはロクサーヌの
「ねぇ、浮気は許さないって言ったよね?」
などという言葉と共にネイサンの情けない
「痛い、痛い、痛い」
という悲鳴が聞こえてきていた。
アルノー家の奥方はマリアンヌに確認する。
「得意というか、好きです」
「なら、手伝って下さらない?」
そこは奥方の仕事部屋で、孤児院のバザーに出すハンカチや小物を作っていた。
「可愛らしい小さな刺繍をお願いしたいの。本当にワンポイントでいいの。急がないけど教会のバザーにはいつも出すからストックを作っておくの」
マリアンヌは一心不乱に奥方を手伝った。奥方の仕事を手伝っているので心苦しさも減る。
「あとでお兄様達に持って行きなさい。10時のお茶くらいの時に。今日は裏庭の畑作りを手伝ってるはずよ」
奥方がバスケットをマリアンヌに渡す。
あっという間に時間になり、マリアンヌは奥方に言われバスケットを持って兄達がいる
という裏庭に小走りで向かった。
「お兄様、奥方様から差し入れ」
他の下男や庭師の所にも同じバスケットが配られている。兄二人は意外と平気そうであった。
「サンドイッチ、術で冷たくしたレモネード、一口アップルパイ」
おどけるように次兄は口にする。
「兄様……、つらい?」
兄たち二人はにやりと口元を曲げる。
「いんや。ま、しょうにあってるよ、体を使うのは」
マリアンヌは兄たちが冒険者のような生活を送っているのを知っていた。あののりでやり過ごしてるんだな、と理解した。実際、下男の中のヒエラルキーは単純に『力』であり、殴られたら殴り返す、そういう世界であった。貴族令息だと聞いてなめてかかった下男たちだったが鍛え方が違った。二人はそれを見せつけ、ほかの下男たちも一目置くようになっていた。
兄達の元気な顔も見ることができてマリアンヌは気分も良く奥方の元に戻る。バスケットは使用人の人が集めて持って行くというのでおいて来た。
「お前がマリアンヌか」
何故かアルノー家の廊下にネイサン王子がいた。マリアンヌは王都でマドレーヌとお茶をしている時に顔を見ている。どうもその時のことは覚えてないらしい。マリアンヌは『あ、やっぱり記憶力もお粗末なんだ』と思った。
その時は人目もはばからず『側妃に』と店の中でせまり、さすがにとお付きの子息達に止められていた。マドレーヌの顔が凍り付いていたのも記憶に鮮やかだ。
「ふーん」
マリアンヌは廊下の壁に追い詰められていた。
「金茶の髪に青い目、平凡な色合いだけど姉妹だけあってマドレーヌと似てるな」
ネイサンは片手を壁に着いてマリアンヌの顎を持ち上げている。そこに真っ赤な騎士服の人物が廊下を走ってきて左腕でネイサンの頭を薙ぎ払った。マリアンヌは何が起こったのかわかっていなかったがネイサンから離れられたことは悟った。
「殿下っ、見つけましたよ。王宮から消えたと思ったら他所の家で何してるんですか」
声を聞いてそれが女性だとわかったが見た目は美貌の少年にみえた。
「ロクサーヌ様……」
ロクサーヌ・ペルティエ公爵令嬢はネイサンの婚約者でお世話係と呼ばれている令嬢だった。その名の通り、明け方の空のような赤毛にペリドットの色の瞳のきりっとした美貌の令嬢であった。ドレス姿も美しいだろうにいつも真っ赤な騎士服を着ている。本人曰く『ネイサンの世話をするなら動きやすくないと』との事。ロクサーヌはマリアンヌににっこり笑うと顎で早く行けと指示をする。マリアンヌは頭を下げると走らない程度のスピードで奥方の部屋に向かった。急ぐマドレーヌの後ろからはロクサーヌの
「ねぇ、浮気は許さないって言ったよね?」
などという言葉と共にネイサンの情けない
「痛い、痛い、痛い」
という悲鳴が聞こえてきていた。
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