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幕開け
プロローグ
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「貴様は俺のリディを傷つけた。制服のスカートを汚したり、ノートを破いたり、やり口が低劣だ」
アルノー伯爵次男アランは バスチエ男爵の妾腹の娘リディの腰を抱いている。婚約者のマドレーヌ・グランジェ伯爵令嬢に指を突きつけている。学期終わりの生徒だけの夜会である。
「あの?藪から棒に何の話ですか?」
辺境に位置するグランジェ家は伯爵と言っても陞爵したばかりで少し前までは子爵であった。対してアルノー家は古い伯爵家で、格式も高くマドレーヌの家と比べて格上であった。そしてバスチエ男爵家は近頃領地のワインが王都で評判になり株が上がっている男爵家である。
マドレーヌはアランとは完全に政略で王命による婚約だったのでこの婚約破棄の後始末が面倒な事になりそうだな、と考えていた。
「婚約の『解消』は受け入れます。ただ、私たちの婚約は陛下からのお話なので……そちらの許可は」
「ふん、そんなもの僕がパパに言ってどうとでもしてやる」
ここで正妃唯一の王子、ネイサンが出てきた。ネイサン王子は嫌われ者であった。マドレーヌは何度もこの王子に『側妃になれ』と言われては手ひどく振っている。『お妃様を迎えていないのに側妃はもてません』と何度も言うのだが、鳥頭のこの王子はすぐに忘れるのだ。
「これでお前は傷物令嬢だからまともな縁談も来ない。俺のものになるしかないだろう」
マドレーヌはネイサン王子にしたら頭をつかったな、と思った。淡い金の髪に大きな紫がかった青い瞳のマドレーヌの外見は儚い。が、これでも魔獣の出る辺境で育ち、子供の頃から魔獣退治に連れて行かれ鍛えられてきた令嬢であった。
「……が、ただ俺のものにするにはアランもリディも気がおさまらないだろう。国の端に飛ばしてやる。ここまで自力で戻って来ること。命令だ」
あ、やはりネイサンは馬鹿だと思った。国の端、東西南北の辺境を収める貴族は爵位に関係なく協力体制を敷いており辺境のどこかなら、どうにでもなるとマドレーヌは踏んでいた。
一人の宮廷魔術師が陣を呼び出し呪文を唱える。マドレーヌはその間、騎士に抑えられ、ネイサンが手ずから首に張り付く魔力封じのチョーカーをとりつけた。
「さて、良い旅を」
魔術師が最後の呪文を唱えて、そう言った。
「まて、それやばい。方角と距離がおかしい」
そこにいた生徒の一人が叫んだが、マドレーヌは呪文に巻き込まれた。
アルノー伯爵次男アランは バスチエ男爵の妾腹の娘リディの腰を抱いている。婚約者のマドレーヌ・グランジェ伯爵令嬢に指を突きつけている。学期終わりの生徒だけの夜会である。
「あの?藪から棒に何の話ですか?」
辺境に位置するグランジェ家は伯爵と言っても陞爵したばかりで少し前までは子爵であった。対してアルノー家は古い伯爵家で、格式も高くマドレーヌの家と比べて格上であった。そしてバスチエ男爵家は近頃領地のワインが王都で評判になり株が上がっている男爵家である。
マドレーヌはアランとは完全に政略で王命による婚約だったのでこの婚約破棄の後始末が面倒な事になりそうだな、と考えていた。
「婚約の『解消』は受け入れます。ただ、私たちの婚約は陛下からのお話なので……そちらの許可は」
「ふん、そんなもの僕がパパに言ってどうとでもしてやる」
ここで正妃唯一の王子、ネイサンが出てきた。ネイサン王子は嫌われ者であった。マドレーヌは何度もこの王子に『側妃になれ』と言われては手ひどく振っている。『お妃様を迎えていないのに側妃はもてません』と何度も言うのだが、鳥頭のこの王子はすぐに忘れるのだ。
「これでお前は傷物令嬢だからまともな縁談も来ない。俺のものになるしかないだろう」
マドレーヌはネイサン王子にしたら頭をつかったな、と思った。淡い金の髪に大きな紫がかった青い瞳のマドレーヌの外見は儚い。が、これでも魔獣の出る辺境で育ち、子供の頃から魔獣退治に連れて行かれ鍛えられてきた令嬢であった。
「……が、ただ俺のものにするにはアランもリディも気がおさまらないだろう。国の端に飛ばしてやる。ここまで自力で戻って来ること。命令だ」
あ、やはりネイサンは馬鹿だと思った。国の端、東西南北の辺境を収める貴族は爵位に関係なく協力体制を敷いており辺境のどこかなら、どうにでもなるとマドレーヌは踏んでいた。
一人の宮廷魔術師が陣を呼び出し呪文を唱える。マドレーヌはその間、騎士に抑えられ、ネイサンが手ずから首に張り付く魔力封じのチョーカーをとりつけた。
「さて、良い旅を」
魔術師が最後の呪文を唱えて、そう言った。
「まて、それやばい。方角と距離がおかしい」
そこにいた生徒の一人が叫んだが、マドレーヌは呪文に巻き込まれた。
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