上 下
44 / 61

44

しおりを挟む
 暫くして男子集団がどやどやと入ってきた。王太子の皮鎧の色を打合せ、その流れで普段使いの狩猟用の手袋や胸当ても依頼し、エリクやアラン運動部副代表も希望のものを頼めたようだ。
 アランは

「さすがに魔獣の皮は予算が無理だったな」

「私は普段用のもっと手入れのしやすい鹿皮のトラウザも頼んだ」

なんとなく男子たちは興奮して戦利品報告を女子たちにしている。一番最初にアランが気が付く。

「あれ?ジャックは?」

「礼拝堂に行ったはず」

クレマンが答える。王太子はちゃっかり菫姫とリーゼの間に座って新しくお茶と小腹を満たすものを持ってこさせる。

「すみません、武骨なものしかなくて」

と持ってこられたのはパンにバターを塗っただけのタルティーヌだった。それと焼いたソーセージ。

「今、料理人がちょうど休憩してたので………、我々が食べるおやつです」

これを持ってきた騎士が説明する。王太子たちはそれでも嬉しそうで、そっけないバターが塗られたパンにソーセージをはさんでぱくつく。

「ドルパック伯のところでは、皮と革と鎧の話で何か食べること忘れてたんで」

エリクは説明する。リリゼットはリーゼに耳打ちして、一礼をし部屋から出て行った。


 宿舎に戻ると、メイドに声をかける。

「ルイになにかおやつとか」

「殿下たちが帰られてすぐにユーグ様と一緒にお昼を」

「それまで朝から何も取ってなかった?」

メイドは頷いた。ユーグの悪い癖だった。興が乗ってくると寝食を忘れる。今回はそれにルイを巻き込んだようだった。

 「お父様」

リリゼットの雷が落ちそうなのをユーグは悟った。

「まて、いい質の皮があるからルイと一緒に」

「お父様、貴方は孫をひもじい思いさせていいとお思い?」

ルイは気を付けて食べさせないとあっという間に痩せてしまう。一度に食べる量が成長に追いつかないのでちゃんと10時3時のおやつはかかせないのだ。

「一日くらい、ならいいですけどお父様にまかせるとここにいる間にがりがりになっちゃいます」

リリゼットはルイに向き直った。

「ルイ、あなたもちゃんと10時15時のおやつもお昼ご飯も食べるようにしなさい。あとルイがお父様に声をかけてあげて。一度声をかけてだめならほっといていいから。ルイはここから食堂に一人でいける?行けなかったら」

ルイは

「行ける。そこまで子供じゃないよ」

と答えた。

「じゃ、夕食はちゃんと食堂に来てね、ルイ。………お父様もね」

ユーグは不承不承頷いた。食堂で食べるとダンテス公爵と同席になるので会話に苦しむのだ。それが嫌で時間をずらしたりしても公爵が待ち構えていたりもする。
 ダンテス公爵は、休暇を満喫していた。魔道騎士たちと一緒に魔獣狩りをしたりユーグの作業場ですっと作業を見たり。リリゼットは礼拝堂で侯爵と話し込む陛下を見てそっと扉を閉じたこともあった。
 誰かに話すべきかとも考えたが、リリゼットは話さなかった。陛下が秘密裡にこちらに来ていた事を知っているのは偶然みたリリゼット、理由を知ってるエドアールとダンテス公爵だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく

竹桜
ファンタジー
 神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。  巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。  千年間も。  それなのに主人公は鍛錬をする。  1つのことだけを。  やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。  これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。  そして、主人公は至った力を存分に振るう。

家族で異世界転生!!

arice
ファンタジー
普通の高校生が神のミスで死亡し異世界へ シリアス?あるわけ無い! ギャグ?面白い訳が無い! テンプレ?ぶっ壊してやる! テンプレ破壊ワールドで無双するかもしれない主人公をよろしく! ------------------------------------------ 縦書きの方が、文章がスッキリして読みやすいと思うので縦書きで読むことをお勧めします。 エブリスタから、移行した作品でございます! 読みやすいようにはしますが、いかんせん文章力が欠如してるので読みにくいかもです。 エブリスタ用で書いたので、短めにはなりますが楽しんで頂ければ幸いです。 挿絵等、書いてくれると嬉しいです!挿絵、表紙、応援イラストなどはこちらまで→@Alpha_arice フォロー等もお願いします!

外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーし俺を閉じ込め高見の見物をしている奴を殴り飛ばす~

うみ
ファンタジー
 港で荷物の上げ下ろしをしたり冒険者稼業をして暮らしていたウィレムは、女冒険者の前でいい顔をできなかった仲間の男に嫉妬され突き飛ばされる。  落とし穴に落ちたかと思ったら、彼は見たことのない小屋に転移していた。  そこはとんでもない場所で、強力なモンスターがひしめく魔窟の真っただ中だったのだ。 幸い修行をする時間があったウィレムはそこで出会った火の玉と共に厳しい修行をする。  その結果たった一つの動作をコピーするだけだった外れスキル「トレース」が、とんでもないスキルに変貌したのだった。  どんな動作でも記憶し、実行できるように進化したトレーススキルは、他のスキルの必殺技でさえ記憶し実行することができてしまう。  彼はあれもこれもコピーし、迫りくるモンスターを全て打ち倒していく。  自分をここに送った首謀者を殴り飛ばすと心の中に秘めながら。    脱出して街に戻り、待っている妹と郊外に一軒家を買う。  ささやかな夢を目標にウィレムは進む。   ※以前書いた作品のスキル設定を使った作品となります。内容は全くの別物となっております。

【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?

長船凪
ファンタジー
サーシャは意地悪な義理の姉に足をかけられて、ある日階段から転落した。 その衝撃で前世を思い出す。 社畜で過労死した日本人女性だった。 果穂は伯爵令嬢サーシャとして異世界転生していたが、こちらでもろくでもない人生だった。 父親と母親は家同士が決めた政略結婚で愛が無かった。 正妻の母が亡くなった途端に継母と義理の姉を家に招いた父親。 家族の虐待を受ける日々に嫌気がさして、サーシャは一度は修道院に逃げ出すも、見つかり、呪われた辺境伯の元に、生け贄のように嫁ぐはめになった。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界召喚に巻き込まれたエステティシャンはスキル【手】と【種】でスローライフを満喫します

白雪の雫
ファンタジー
以前に投稿した話をベースにしたもので主人公の名前と年齢が変わっています。 エステティックで働いている霧沢 奈緒美(24)は、擦れ違った数人の女子高生と共に何の前触れもなく異世界に召喚された。 そんな奈緒美に付与されたスキルは【手】と【種】 異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された奈緒美は宮殿から追い出されてしまう。 だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。 設定はガバガバ+矛盾がある+ご都合主義+深く考えたら負けである事だけは先に言っておきます。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...