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丁々発止

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 そう、解かれているのは『介添えの乙女』の呪いである。王子の呪いを解く儀式はまた別なのだがそれもアーサーは知らないのだろうとイゾルデは思った。

「で、何の用なんですが、殿下」

「お前が学園に行くと聞き及んだ。俺を指しおいて特進クラスだとも」

イゾルデはしらっと答える。

「受験した結果ですわ」

殿下が平民や下位貴族の多い普通科なのは殿下の努力不足でしょうに、という言葉をイゾルデは紅茶とともに流し込んだ。その間もランスロットは蠱惑的な笑みを浮かべている。

「じゃあ、なんでこのけだものがこの場所でひとがましく茶を飲んでいる」

「信頼する従兄ですから、報告の為お茶にお招きしたのですが?」

イゾルデは挑発的にほほ笑む。ランスロットは正妃の教育は行き届いてるな、罵詈雑言の言葉は彼にしては語彙がある、とアーサーを眺めている。けだものの子である事は否定しないが君の行動こそ獣欲まみれのけだものに失礼なくらい理性がない行動だよな、とアーサーの行儀をみてランスロットは思った。がつがつと机の上の菓子や軽食をほおばりながらご高説を垂れ流すアーサーはいっそ見世物的であった。

「ともかくお前は俺の第一夫人なのだからお前は俺を満足させる義務があるだろう?」

イゾルデは片眉をあげてアーサーを見る。

「義務は権利と表裏一体ですわね」

イゾルデはそう告げるにとどめる。儀式として夫となったこの従兄に改めて通われるなんてぞっとする、とイゾルデは思っていた。たった一度義務として肌を合わせたが二度とごめんだとおもっている相手である。

「女なんて抱かれてばいいんだよ。女には権利なんてないんだから」

ランスロットはたまりかねて呟いた。

「ダメだ、……なんとかしないと」

「何がダメなんだ」

アーサーはギロリと睨む。

「こちらの話だ。思い当たる節でも?」

ランスロットはしれっと返した。アーサーはイラっとした顔をしつつイゾルデに向き直る。

「とにかく、お前が学園に来るのは認めない」

「陛下が御認めになったのです。私は通います」

言い返すイゾルデにアーサーがあざ笑うように言う。

「父上が女に学問なぞ認める訳がない。」

ランスロットは興味を覚えてアーサーに訊ねた。

「何故そう思うんだ?」

アーサーは何を当たり前の事を訊くのだという。

「父上は女を人扱いしてないだろう。俺の母もお前の母親に対しても。女は愛玩されていればいいと思ってるんだろ、あれは。我が母は可愛げも魅力もない。お前の母親はあの父上の性欲の為にだけ存在を許されてるんだろう」

ランスロットはアーサーの意外な言葉に驚いていた。聡明な所を今まで見た事がなかったからだ。ランスロットはだからこそ、なんとかしなっければと心新たに決心する。

「俺はお前を愛玩する気はこれっぽっちもないからな。ただしほんの少しでも疑いがあったら不貞の女として王都中引きずりまわしてやる。とにかく学園へは来るな」

アーサーは自分の要求だけ突きつけてのしのしと出て行った。

「……なんで従者の一人もいないんでしょう」

イゾルデが当たり前の疑問を口にした。

「ここに内密で来たかったか……、イゾルデの元に通ってきたか。今日はこのところの最愛とか言ってたグラス子爵令嬢をみなかったからね」

「愛想つかされたのかしら」

ランスロットはイゾルデの言葉にふふっと笑った。

「さて、お従兄様、説明を求めても?」


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