聖女は断罪する

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129. 勝ち筋は一つもないのだ

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 代行一家は捕縛後、ヴィヴィアンヌの転移によって北の端の館に移った。捕縛後のドゥエスタンの本邸はオーエンが指揮する第一騎士団のうちの半分の人間での捜索が行われた。これにはクリスとセドリックがレイラの代理として立ち会っている。



 「本家様になったつもりだったか、ブリス」

北の端の家では代行の父親が鬼の顔で待っていた。シルヴィが無くなってから我慢していた感情が音を立てて噴き出しそうであった。ブリスの兄も厳しい顔で立っていた。

「頭が悪いんだからお飾りを大人しくやっておけばよかったんだよ、ブリス」

それでもこの二人は代行の身内だけあって愛情も見え隠れする。

「おじい様とおじ様なのね」

メイの抜けた声がする。メイはハナにどういわれたかわからないが、大きく開いた胸の部分をスカーフを上手く使って隠すようにしてあり、痩せた胸が隠れたことで少し元気そうに見えるとレイラは思った。よく見ると化粧もデコラティヴではない、シンプルで似合うものに変わっている。今までごてごてと飾ってる顔しか知らないレイラはメイがブリスと似てる事に気が付いた。

「あなたどういうことなの」

愛人に説明を求められてもレイラは愛人の存在を完全に無視している。そこにテオと陛下が転移してきた。メイと愛人の顔がぱああと明るくなる。

「陛下、エマですわ、ほら何度も」

そこまで言った時にヴィヴィアンヌがエマの周りに静音の結界を張った。

「アルバート王太子の情事の話は聞きたくない」

ヴィヴィアンヌが片眉をあげて呟く。陛下は少々罰が悪そうだった。

「さて、ブリス・ドゥエスタン、そちはレイラの成人時点でドゥエスタンの本家からの放逐が決定していた。ドゥエスタン長老会と前当主の決定だった。ブリス一家が普通にレイラを大事にしていたら本家からの放逐もなかったのだがな」

陛下にそう言われブリスが憎々し気にレイラを睨む。その横で愛人が身振り手振りで必死に陛下を振り向かせようとしている。

「目にもうるさい女だな」

テオが暗闇で愛人を包もうとした時に陛下が愛人を突き放した。

「私は媚薬を使って私を嵌めた女を一生許さない。今ここで命があるのはレイラの温情だ。それすら要らぬというならさっくりころしてやる。……仲間の手でな。ハナ、好きにしていいぞ」

ハナは嬉しそうな顔で愛人に近寄った。愛人が金切声を上げているようだが静音の結界は
これっぽっちも音を漏らさなかった。『よらないで』と叫んでいるのはわかるなぁとレイ
ラは愛人を目の端におきながら思った。何故かメイは母親のそれを見ても反応しない。ば
かりかにこにこと見ている。

「ブリス、書類にサインを」

「なんの書類ですか」

父親が出した書類を読みながら顔を顰める。古語で書かれているので単語単語しかわから
ないのだ。書類の関連は古語が慣例なのだがブリスがわからないので今までは本館でクリ
スが処理をしていた。

「読めないならそのままサインをしたらいい」

感情が籠らない陛下の声はブリスには恐ろしく聞こえたようだった。そんなことをしてい
る時に愛人は庭の隅までハナの追い込まれたようだった。

 代行が己の軟禁に許可を己が手で与えた。

「伯爵様、ここからは家族で……話す時間をもらっても?」

「ええ、後を頼んでも?」

レイラの言葉にブリスの父親は力強く頷いた。

「私が見届けるよ。テオは陛下とレイラを連れて帰ってくれる?騎士数人は残しててね。……国に戻す子もいるんだろ?」

テオは頷いた。この沙汰は隣国の影の後始末でもあるのだ。最後の毒出しの一つであった。影がどういう始末をつけるかはレイラやテオが知る必要がない事であった。
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