聖女は断罪する

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127. デビュタント

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 ライン公爵の控室が王宮にある。レイラもそこにお邪魔させてもらっている。
レイラ自身は伯爵家レベルの子女の部屋へ行くつもりだったが、ヴィヴィアンヌとライン公爵に

『教皇のエスコートで出るんだから伯爵位の子女の部屋はダメ』

と言い含められた。ライン公爵が珍しく真剣にレイラにいう。

「慣れてない令嬢の前に正装の教皇なんか至近距離に出しちゃだめ」

ライン公爵はテオ並みの美貌はルシアの持つ魅了の魔力なぞ凌駕する、暴力といっていい力だと考えていた。それが正装するんだから飛び道具だというのがライン公爵の言い分だった。

 部屋に入って来たテオは確かに飛び道具だった。ライン公爵は白のシンプルな燕尾服にルシアの髪色に合わせた銀糸で家紋を入れたポケットチーフ、鮮やかな蒼の石のタイピンとカフスボタンを着けている。その蒼の石はルシアのやっている砂糖菓子の新作のジュエルキャンディで作られている。もちろん、今回は体温や外気温に影響を受けないように魔法で護られているものだった。娘にはとことん甘い父親である。
 テオも白の燕尾服でポケットチーフはルシアの瞳の色のラピスラズリの色でルシア自身の紋、シルヴィが選んだものだった、を刺したものを着けている。伸ばし始めた髪は無造作にまとめられている。
 どちらのポケットチーフもルシアの母が刺したものだった。レイラもルシアも刺繍の腕が壊滅的なのでこの秋祭りの季節が終わってから二人はマリアに特訓されることが決まっている。

「お嬢様方、まいりますよ」

ライン公爵の言葉にルシアとレイラが頷く。爵位通りに並ぶ。ここからは暫くレイラとルシアは離れ離れだ。二人とも小さく手を振って別れる。今年は20人前後の少女が付添人と一緒に並んでいる。レイラとルシアの間に一人、全身真っ赤なドレスの少女がいた。筆頭伯爵家の少女だった。白一色の中悪目立ちする少女だ。周りを見回すとととと、とレイラの方へ来た。

「あなた、私をエスコートしなさい」

少女はテオに命令する。テオはにこやかに断る。

「私はレイラ嬢のエスコートですから」

「あらそのち……ちんけな女には私の兄を上げますわ。私の美貌にはあなたがふさわしい」

テオが誰かわかっている少女たちは声にならない悲鳴を上げる。そこにつかつかつかと黒髪の青年がやって来て赤いドレスの少女の頭を後ろからひっぱたいた。

「すみません、教皇ボス。うちのアホがご迷惑をかけて」

「……せめて人並みのマナーを躾けてから外に出さないと」

テオと青年は知り合いのようだった。細身の青年は意外と力が強く妹を引きずって列に戻っていった。

「あれ隠密の子」

テオがこそっとレイラに耳打ちをする。周りの少女たちは何を話しているのかわからないがテオとレイラの内緒話にこっそり溜息をつく。

「相変わらずだな。テオドール」

二つ後ろの少女の付き添いが声をかけてきた。

「久しぶりだな、シン。結局」

「あのままだよ」

列にはテオの同級生なども多いらしくレイラは色々な人がテオの所に来るなぁとのんびり眺めている。来る人来る人に挨拶だけして大人しく過ごしている。
 それは中に入ってもそうだった。レイラは大人しく挨拶をし、また幾人かには『シルヴィそっくり』と涙ぐまれたりした。
 テオとレイラはかなり奥まったところに立っていたのだがそこに赤い女の子が突撃して
きた。そして長い手袋を手から外しと、レイラに投げつける。

「決闘」

までいうと後ろから来た兄に引きずり倒された。

「衛兵、教皇に対する暴漢だ。速やかな排除を」

「お兄様ぁつ」

「我が家の恥をさらすな、金輪際領地から出さんからな」

レイラは嵐のように去っていった兄妹をぽかんと見ているだけだった。そして女性の場合も暴漢っていうの?と疑問が浮かんで消えなかった。
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