聖女は断罪する

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117. レイラ、頼まれる

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 「昨日は大変だったようだね」

メルヴィンがにやっと笑う。

「……なんか魔獣の群れに投げ込まれた肉になった気持ちだった」

ペールが遠い目になる。王子達の婚約がまだなので王子達の世代の子供の婚約事情は芳しくなかった。兄や姉の世代は高等部に上がる時には既に婚約者が決まっている事が殆どだったので親や兄弟のプレッシャーが酷いという令嬢も多かった。そんな令嬢達が二人や他の令息に群がっていた。メルヴィンとレイラがくすくす笑う。
 最近クラスではメルヴィンとレイラがいい仲でペールとロランはメルヴィンと一緒にいるからレイラともいる、と思う令嬢が増えていた。それでもレイラの外見の幼さが令嬢達が仲良くするには抵抗感を産んでいた。
 またレイラも割合と忙しく授業を詰めているので令嬢達が大抵10時前後の休憩を延長して皆でお茶をしているのに参加せず会話をする機会はなかった。クラスではレイラと貧乏侯爵令嬢で有名なバルビエ侯爵令嬢と裕福な平民の子女のサラの三人は10時のお茶には参加しなかった。ルシアのクラスは昼休みに令嬢で集まって、という事をしていたがシャルロットが率いる下位貴族令嬢達は王家の部屋で昼を過ごすしルシアも公爵家用の部屋に行くので賑やかとはいいがたいらしい。



 「レイラ様相談があるのですが」

クロエ・バルビエ侯爵令嬢が話しかけてきた。レイラは目をぱちくりさせたがにっこりとし頷いた。二人は中庭にある四阿に陣取った。伸ばし始めたレイラの髪はやっと肩を越した。短いがもうまとめられる長さではあるので校則にのっとってハーフアップにしていて髪飾りを着けている。その髪飾りを触るふりで魔力を通す。これはエミールが作った魔道具で周りの音を集めて録音することができるのだ。
 レイラは最近習って作ったストレージに入れてある陶器のピッチャーと木のカップを出す。シンプルな木のカップはレイラの手彫りで作ったものだった。幼いころにテオに習って小さな工具と彫刻刀で作ったものだ。

「ストレージ持ちなんですか?」

「ええ。……と言っても最近習って作ったものです。空間魔法には属性がないのでどの属性の方でも作れるということです。魔力量次第だとか」

「魔力量ですか……」

「3年次の魔術の授業で作るからその実験台にされてるんです」

レイラの言葉にクロエは喜んだ。

「それなら私も教えて頂けるのね」

レイラはにっこり笑って頷いた。

「それでお話って?」

「あの、ですね」

クロエはどう話すかかなり考えていたがおもむろに口を開いた。

「うちは貧乏で、領地の植物の生育も今一つなんです。……税も収めきれなくて、国に対する借金がかさむばかりで。多分植物全般が育たないから土が良くないのだと思うのですが、レイラ様、なにか良い肥料とか方法を知りません?」

レイラはいきなりな相談に驚いた。

「……なぜ私に?」

「相談料とか……払えないのと、放課後、皆で畑仕事してられるから何か知らないかと思って」

レイラは真面目に答える。

「私にはそういう知識はないので、相談に乗れる方がいるか訊ねてみますね。私が出来るのはそういう事なんですがそれでいいですか?」

「ええ。私も色々調べておりますがどうも今一つわからないので。よろしくお願いします」

クロエは頭を下げた。
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