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115. 日常に戻る
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最近のライン公爵家用の学食内個室は王家用かと見まごうばかりであった。クリストフとジュリオ、エドワードも毎日ライン公爵家用の部屋に来る。
王家用の個室はアルマンとマルガリータの為に明け渡している。マルガリータやシャルロットの取り巻きから逃げる為にクリストフ達はライン公爵家の部屋に逃げてきているのだ。
「令嬢達も妙に現実的で」
エドワードが苦笑する。
「側妃候補として売り込んでくるんだよ」
ジュリオが呆れた顔だ。そしてジュリオはルシアと仲良くなるため、という目的もあった。ルシアはふわふわと捉えどころがないが妙に現実的な冷静さがあってそう言うところにジュリオは興味を持っていた。親石はあえてジュリオにはルシアが王への鍵だと伝えていない。クリストフは今は王位を得たいと思っていない。のでルシアにはあまり近づいていなかった。クリストフとエドワードはレイラと話す事を楽しんでいた、というかレイラを中心にクリストフ、エドワード、ペール、ロランが魔法の話を色々している。
ジュリオとルシアはレイラに対して興味があるくせにそれ以上を考えない少年たちをほほえましく眺めていた。また授業が終わると皆エミールの家に行く。
そこではメルヴィンやエミールもいてわいわいと楽し気ではあるが、真剣にあの『魔草』の解毒剤や有効利用の研究をしている。
もう命が短いと言われているフィールズ前侯爵が実験体となって実から取れる樹脂以外の睡眠の香や薬剤の研究を始めている。土魔法を得意とするメルヴィンは植物を育てる事も得意で、今現在国に接収されている前フィールズ侯爵邸の地下室で育てられた光を当てない魔草からしか取れないと思われていた睡眠薬をもっと普通に育てた魔草から作れるようにしたのだ。地下で厳重に育てなくとも直接日光にさらさない、日陰で育てた実からも出来ることが分かったのだ。3世代を越したから出来るようになったのだろうと色々エミールが試していた。初代のものの株わけしたものではやはり日の光の下で育った実ではだめであったが二代目からの株わけでは睡眠薬に使える成分が少し取れるようになっていた。三代目で実用的なものになったので今は4代目の実を育てているところだった。
また実生の魔草を今はかなりの量育てている。
フィールズ前侯爵は差し入れられる香を好んで炊いていた。ミレーユが安らかに眠れるように、と。差し入れられる睡眠薬は最初は固辞していたのだがジークに
『その薬に耐性が出来ているのは前侯爵くらいのもんなんで、実験に付き合ってください』
とはっきり言われ、また睡眠薬を使用し眠れているようだった。
『魔草で精製される薬の実験にあなたは適してるのでせいぜい協力してください、囚人として』
ジークの歯に着せぬ物言いをフィールズ前侯爵はいたく気に入ったようだった。
「ならば実験体としてこの余命いくばくもない体を提供しよう」
フィールズ老は約束した。ジークは
『そのお体が必要なうちは教皇が無理にでも生き残らせると仰ってます』
と真顔で答えた。
ジュリオとルシアの仲が深まっては来ているが所詮、子供同士という感じで周りの高位貴族は見ていた。それに正妃の件があるので王太子の本命はクリストフだとばかりにお茶会ではクリストフの周りに高位貴族令嬢が溜まっていて、学園内でもかしましいらしい。
レイラはそんな話を聞きつつ、自分には関係ない事だと思っている。メルヴィンとは自然に仲良くしている分、教室ではペールやロラン、エドワードがやきもきしている。メルヴィンも他の女子生徒には一歩引いた感じなのだがレイラとは普通に仲が良い。ジュリオは皆を観察しながらメルヴィンはロランやペールとの距離感とレイラとの距離感はおなじだと思っていた。つまり、男女ではなくただの『友達』だなと結論付けた。
「ルシア、レイラは誰か好きな人いるのかな?」
ロランは思わずルシアにこぼした。今はライン公爵邸の談話室にルシアとロランの二人きりであった。翌日の王子とのお茶会にロランも出席するようにとお達しがあったので寮から帰ってきているのだ。ルシアはくすっと笑う。二人は裁縫室から届く衣装を待っている。兄妹で意匠を揃えたものを用意したらしい。母親の『こんな機会もうないもの』というわがままを父親が笑顔で受け入れた結果だった。
「兄様たちの中には今の所いないと思いますわ。メルヴィン様を含めて」
「やっぱりか、……テオ教皇の事はどうなんだろう」
ルシアはにこっと笑う。
「おばさまがね、レイラ自身わかってないだろうって。……レイラは女伯爵になるわけで。兄様は次期公爵で。色々条件は難しいですわね。ロマンに嫡子を譲る事を母様は赦すかしら」
最後の言葉は自分自身に対する『母様は赦すかしら』も含んでいた。ルシアとしてはジュリオは好ましいし公爵家の娘として嫁ぐ先として良いと思っているけどルシアの母親マリアはルシア、自分の娘が『王太子妃』になる事にこだわっている。最終的には父親が調整するしあまり悩む必要はないか、とルシアは悩みを放棄した。
王家用の個室はアルマンとマルガリータの為に明け渡している。マルガリータやシャルロットの取り巻きから逃げる為にクリストフ達はライン公爵家の部屋に逃げてきているのだ。
「令嬢達も妙に現実的で」
エドワードが苦笑する。
「側妃候補として売り込んでくるんだよ」
ジュリオが呆れた顔だ。そしてジュリオはルシアと仲良くなるため、という目的もあった。ルシアはふわふわと捉えどころがないが妙に現実的な冷静さがあってそう言うところにジュリオは興味を持っていた。親石はあえてジュリオにはルシアが王への鍵だと伝えていない。クリストフは今は王位を得たいと思っていない。のでルシアにはあまり近づいていなかった。クリストフとエドワードはレイラと話す事を楽しんでいた、というかレイラを中心にクリストフ、エドワード、ペール、ロランが魔法の話を色々している。
ジュリオとルシアはレイラに対して興味があるくせにそれ以上を考えない少年たちをほほえましく眺めていた。また授業が終わると皆エミールの家に行く。
そこではメルヴィンやエミールもいてわいわいと楽し気ではあるが、真剣にあの『魔草』の解毒剤や有効利用の研究をしている。
もう命が短いと言われているフィールズ前侯爵が実験体となって実から取れる樹脂以外の睡眠の香や薬剤の研究を始めている。土魔法を得意とするメルヴィンは植物を育てる事も得意で、今現在国に接収されている前フィールズ侯爵邸の地下室で育てられた光を当てない魔草からしか取れないと思われていた睡眠薬をもっと普通に育てた魔草から作れるようにしたのだ。地下で厳重に育てなくとも直接日光にさらさない、日陰で育てた実からも出来ることが分かったのだ。3世代を越したから出来るようになったのだろうと色々エミールが試していた。初代のものの株わけしたものではやはり日の光の下で育った実ではだめであったが二代目からの株わけでは睡眠薬に使える成分が少し取れるようになっていた。三代目で実用的なものになったので今は4代目の実を育てているところだった。
また実生の魔草を今はかなりの量育てている。
フィールズ前侯爵は差し入れられる香を好んで炊いていた。ミレーユが安らかに眠れるように、と。差し入れられる睡眠薬は最初は固辞していたのだがジークに
『その薬に耐性が出来ているのは前侯爵くらいのもんなんで、実験に付き合ってください』
とはっきり言われ、また睡眠薬を使用し眠れているようだった。
『魔草で精製される薬の実験にあなたは適してるのでせいぜい協力してください、囚人として』
ジークの歯に着せぬ物言いをフィールズ前侯爵はいたく気に入ったようだった。
「ならば実験体としてこの余命いくばくもない体を提供しよう」
フィールズ老は約束した。ジークは
『そのお体が必要なうちは教皇が無理にでも生き残らせると仰ってます』
と真顔で答えた。
ジュリオとルシアの仲が深まっては来ているが所詮、子供同士という感じで周りの高位貴族は見ていた。それに正妃の件があるので王太子の本命はクリストフだとばかりにお茶会ではクリストフの周りに高位貴族令嬢が溜まっていて、学園内でもかしましいらしい。
レイラはそんな話を聞きつつ、自分には関係ない事だと思っている。メルヴィンとは自然に仲良くしている分、教室ではペールやロラン、エドワードがやきもきしている。メルヴィンも他の女子生徒には一歩引いた感じなのだがレイラとは普通に仲が良い。ジュリオは皆を観察しながらメルヴィンはロランやペールとの距離感とレイラとの距離感はおなじだと思っていた。つまり、男女ではなくただの『友達』だなと結論付けた。
「ルシア、レイラは誰か好きな人いるのかな?」
ロランは思わずルシアにこぼした。今はライン公爵邸の談話室にルシアとロランの二人きりであった。翌日の王子とのお茶会にロランも出席するようにとお達しがあったので寮から帰ってきているのだ。ルシアはくすっと笑う。二人は裁縫室から届く衣装を待っている。兄妹で意匠を揃えたものを用意したらしい。母親の『こんな機会もうないもの』というわがままを父親が笑顔で受け入れた結果だった。
「兄様たちの中には今の所いないと思いますわ。メルヴィン様を含めて」
「やっぱりか、……テオ教皇の事はどうなんだろう」
ルシアはにこっと笑う。
「おばさまがね、レイラ自身わかってないだろうって。……レイラは女伯爵になるわけで。兄様は次期公爵で。色々条件は難しいですわね。ロマンに嫡子を譲る事を母様は赦すかしら」
最後の言葉は自分自身に対する『母様は赦すかしら』も含んでいた。ルシアとしてはジュリオは好ましいし公爵家の娘として嫁ぐ先として良いと思っているけどルシアの母親マリアはルシア、自分の娘が『王太子妃』になる事にこだわっている。最終的には父親が調整するしあまり悩む必要はないか、とルシアは悩みを放棄した。
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