聖女は断罪する

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95. 聖銀のタリスマン

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 「ネージュ子爵を呼んだのは、アルマンは王籍から『離脱』してネージュ子爵家に婿に行く、ということにしたからだ」

ネージュ子爵は話を引き取る。

「オーブリーの血は我々の遠い親戚ではあるし元正妃殿から引き離されるなら歓迎する」

そうして駆け落ち計画は忘れ去られた。アルマンは早々に臣籍降下を発表し、卒業と同時にネージュ子爵家に入った。またネージュ子爵家は伯爵に位をあげた。元王子が婿入りする先が子爵家では、と他の貴族たちに反対されたからだ。実績的にも10年前には伯爵になっているべき人でもあった。娘達からは吝嗇だの変人だのと散々であったが。



 「明後日、だね」

ペール、ロラン、レイラ、ルシアの4人は明日から休暇届を学校に出している。4人ともレイラの家に泊って用意をするという。ライン公爵はなぜそうなったかは知っていたが公爵夫人は知らない。ルシアの手元にはジュリオから貰った指輪があった。

『縛る気はないし、親にはまだなにも言ってないけど……俺ともう少し仲良くなってくれる?』

と言って手渡された指輪であった。親石の護りと万が一の時にこの指輪の石をエドガーに押し付けろ、とルシアはジュリオに言われている。そしてエドガーを封じるモノはアミュレットからタリスマンに変更された。ルシアの手でギリギリ握りこめる大きさで真ん中に掌のくぼみ大の緑の石が着いている。その周りに小さな石がランダムについている。元は正妃のサークレットを飾っていたものだ。その聖銀を使ったタリスマンは昨日出来上がった所だった。正妃が身に着けた石なのでエドガーには親和性が高いだろう、と使われたものだった。エドガーの寄生先になっている副教皇とは学生時代からの仲で正妃となってからも聖堂で逢瀬を重ねていたらしい。
 アリスとエラの元にはフィールズ老からの貢物がたっぷりあり貴賓牢で自堕落に暮らしているらしい。ただ面会に行った陛下に呆れたように

「太るぞ?」

と言われそれなりに真面目に室内を動き回っている様子が見受けられるようになったとか。アリスは自分の華奢な体型を少女っぽいと自負しておりエマは不承不承アリスの運動につきあっているとか。
 ヴィヴィアンヌは日に二度、二人に会いに行ってなんてことはない雑談を繰り返している。


 「明後日が決行日だね。明日はエミールとメルヴィン、ジーク、アルフォンスが来る。王子達は現地集合だよ。宮廷騎士団が連れてくるらしい。それと」

ノックの音と共にロッドバルトが現れる。

「隣国の魔術師殿だ。国境を越えたところを守ってくれる」

「やぁ。俺はロッドバルト。平民出身の魔法使いでヴィヴィアンヌの友達だ」

ロッドバルトも高名な魔法使いの一人だった。ヴィヴィアンヌ、エミール、ロッドバルトは宮廷魔法師団所属で聖女メロディの騎士としての訓練中に龍の祝福、あるいは呪いを受けたのだ。

「ヴィヴィアンヌから説明があると思うが現地は国境近いのでな、俺の国側は俺と腹心で護ってるから安心して暴れるといい。ヴィヴィアンヌ、少し話があるから別室を用意してもらっても?」

ヴィヴィアンヌはレイラに目線を送る。

「少し待ってもらえますか。セドリックに指示してきますから」

レイラが出て行くとロッドバルトが言う。

「ふむ、いい子だな。魔力量も多いし魔力自身もバランスがいい」

「あの子はドゥエスタンの跡継ぎだからね」

ロッドバルトが眉を顰める。

「……大丈夫か?うちの国まで代行の噂が流れてるぞ」

ヴィヴィアンヌは肩を竦める。

「大丈夫もなにも。噂はほぼ真実じゃないかな」

ルシア以外の男子たちはその言葉を心の中で肯定していた。



 用意された部屋にヴィヴィアンヌとロッドバルトは移動した。

「まず、テオの部下の件は適切に処理されている。トニオからの情報で影の村も探った。トニオは一両日中に帰ると言ってるが、討伐の後にした方がいいだろう?」

ヴィヴィアンヌは頷いた。

「一度に動けないしね」

「討伐が終わったらすぐに俺がその件でテオと動く。……ルシアだっけか、あの子の体力なら討伐終わったら寝込むだろうしそっちの手当はヴィヴィアンヌにしかできないからな」

ロッドバルトは溜息をつく。

「うちの国の影の女長の夫がフィールズのクソガキの子飼いになってたなんてなぁ」
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