聖女は断罪する

あくの

文字の大きさ
上 下
94 / 138

93. 親石の試練(茶番) 2

しおりを挟む
 「痛ったぁ」

親石に触れようとしたマリエルの手は思い切り弾かれた。怒り顔のマリエルは感情のまま親石を殴ろうとしてはばちん、ばちんと大きな音を立てて拒絶されいる。

「あんたやってみなさいよ」

赤くなった手を抑えてマリエルは涙目でチャドを指名した。チャドがそっと親石を触ると柔らかに光り明らかに歓迎している。

「あんたは聖職者だったわね。……ジル、あんたがやりなさい」

マリエルはどこまで行っても横柄だった。ジルははいはい、と手を伸ばし親石に触れる。やはりきらりと親石は光る。マリエルはむぅとした顔になった。

「なによ、こんな馬鹿石」

マリエルがまた殴りかかろうとして弾かれた。

『オマエ。イラナイ。オウケノゴミ、イエカエレ』

親石が物理的に叫んだのかという強い声でそこにいた全員に聞こえるように思念を送った。

 気が付くとマリエルは王領の父親の城にいた。親石がそこまで飛ばしたのだ。苦い顔でその部屋に立っていた。姉のアリサは哀しそうな顔であった。

「……玉様ぎょくさまにとばされたね。君はもう王領以外には住めない。玉様からの罰だ」

王弟エリックは娘の事を哀し気にみる。

「もちろんこの城にも住まわせない。暫くは父上の元で教育を受けてくれ」

「あたしなにもしてない」

マリエルは無実を訴える。

「いや、……既に予言されていたのだよ、アリサが。アリサもあの玉様の試練をうけていて。試練の証の石を貰っている」

エリックがアリサの小指の指輪を見る。見事だが小さな緑の石が嵌ったシンプルな指輪であった。

「王家の血が流れていれば親石のメッセージを受け取れる。君も受け取っただろ?」

「……知らない。最後にお前要らないって言われたのは」

アリサは哀しげな顔のままで言った。

「玉様の言葉よ」

アリサはマリエルの手をぎゅっと握った。

「おじい様が色々教えてくれるわ。……メルヴィンの妹の件もね」

アリサは哀しい顔、に見えていたがその目だけはマリエルに憎しみを伝えていた。

「メルヴィンの妹の恋人に人がいなくて景色がいいと禁足地を教えたのよね、あなたが」

アリサは淑女の仮面を投げ捨てて詰問する。

「あの場所になぜ人を引き入れたの」

「え?……フィールズのおじい様がデートの思い出だって教えてくれたの。愛する人との初めての場所だって」

マリエルはアリサに突拍子もない事を質問されて目を丸くして素直に答える。

「なぜフィールズ老と合ってたの?」

「こっちの教会に来てた後だとおもうわ。私がその初めての愛する人と似てるから特別だって領都でよく遊んでくれたもの。お年寄りには親切にしなきゃ、でしょ?」

マリエルは自分を特別扱いをする相手にすぐ懐く。父親であるエリックは溜息をついて上を向いて小さな声で『神よ』と呟いている。マリエルは訳がわからなかった。

「マリエル、あなたまだ男を知らないわよね?」

マリエルは答えられなかった。王領では若い騎士と、王都では護衛の騎士と楽しんでいたからだ。

「……フィールズ老とそういうことをしたの?」

アリサのきつい声にマリエルは本気の笑いで返す。

「あんなお爺ちゃんとやるわけないじゃん」

「それ以外とはやってる、ってわけね」

マリエルはそのまま前王の館に連れて行かれ部屋から出してもらえなくなった。


 マリエルはそのまま王都へは一生入れなかった。どのルートをとっても王都に向かうといつのまにか王領へ戻っているのだ。マリエルは結局遊び相手の騎士の一人と結婚し王籍から離脱するのは一年後の話だ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...