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92. 親石の試練(茶番) 1
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討伐決行5日前、テオは元副教皇ジャンの元を訪ねた。その時間は王領の教会にいるはずで元副教皇ジャンはそこにいた。
「お、お久しぶりです教皇様」
そこにいたのは穏やかに満たされた男だった。
「実は王都で君の事を話してくれた人がいてね」
「王都には戻りません」
副教皇がはっきり言った、
「私は権力に弱い。そう言うものに近づくと……母親が悲しみます。もう少ししたら教会を辞めて母を助けて行こうかと」
「ジャン、……モリス夫人が都度都度君がドゥエスタンの代行の娘を連れてその、いかがわしい宿に入っていくのを見てるんだ」
モリス夫人というのは副教皇の愛人をしていた女性であった。もちろんそのいかがわしい宿に彼女が今の愛人と行くときに見ているようだった。
「私に似た人では?」
テオは両手の指同士をくっつけている。唐突にジャンに訊ねる。
「ジャンはよく眠れているか?」
「ええ。だいたい夕食を食べて体を清めたらベッドに入ってますね。そのまま本を読んでいるうちに眠りに着いてます。すぐ眠ってしまうのか先に進めてないんですよ、本」
昼間のジャンには以前の副教皇の面影は全くなかった。既に夜には老の館の地下にいるのは知っていたしエドガーの入れ物になっているのもわかっていた。
テオは出来得る限りにこにこと笑っている。そしてジャンの移動手段もわかっていた。極秘ではあるが教会と教会の間に転送装置があるのだ。ただしどちらの教会もフィールズ老が若い時に喜捨として建てられた建物であった。なので転送装置に細工をして老の館にも転送するように出来ているのであろう。これは夜のうちにテオが調べることになっていた。
「まぁ、……一応の確認なので。モリス夫人の意趣返しだと思われるのでこの話は私の所で止めておくよ。お母上を大事にしてくれ」
テオの言葉にジャンは感激していた。
同時刻、王宮ではマリエルが陛下とクリストフとジル、チャドに連れられて宝物庫にいた。
「どういうことですか、陛下」
「簡単なことだよ。立太子出来るか否かの最初の試験だ。この試験に合格すれば王太子を狙う資格ができる」
「へぇ。私が合格しないわけがないわ」
「自身がおありですか」
ジルの言葉にマリエルは鼻を鳴らして答える。
「ハンっ、私が失敗するなんてありえない」
ジルは理論もなにもない感情だけだな、と思う。チャドは呆れ気味だ。チャドは聖職者であり、ジルは王家の血も流れているので親石の呼び声のようなものは感じていたがマリエルは全くわからないようだった。
クリストフがジルに本当に小声で言う。マリエルは陛下にまとわりついている。
「親石、やるき満々でマリエルに『早く来い』って言ってる」
ジルも何となくはそれを感じていた。陛下は遠い目で苦笑しつつマリエルを相手にしていた。
「マリエル様は感じてないようですね。……」
ジルの言葉にクリストフは頷いた。マリエルは本人が思うほど出来は良くないし、短絡的な性格だ。こういう繊細な精霊の声は聞こえていても聞かないのだ。多分今も呼び声はただの耳鳴りとして処理しているのだろう。
マリエルがジュリオやレイラと同じクラスにいるのはひとえにジュリオ、エドワード、メルヴィンという三人がマリエルの抑え役を任されているからだ。マリエル自身は自分が優秀だと思っている。
陛下に指示されて親石の上にマリエルは手をかざした。
「お、お久しぶりです教皇様」
そこにいたのは穏やかに満たされた男だった。
「実は王都で君の事を話してくれた人がいてね」
「王都には戻りません」
副教皇がはっきり言った、
「私は権力に弱い。そう言うものに近づくと……母親が悲しみます。もう少ししたら教会を辞めて母を助けて行こうかと」
「ジャン、……モリス夫人が都度都度君がドゥエスタンの代行の娘を連れてその、いかがわしい宿に入っていくのを見てるんだ」
モリス夫人というのは副教皇の愛人をしていた女性であった。もちろんそのいかがわしい宿に彼女が今の愛人と行くときに見ているようだった。
「私に似た人では?」
テオは両手の指同士をくっつけている。唐突にジャンに訊ねる。
「ジャンはよく眠れているか?」
「ええ。だいたい夕食を食べて体を清めたらベッドに入ってますね。そのまま本を読んでいるうちに眠りに着いてます。すぐ眠ってしまうのか先に進めてないんですよ、本」
昼間のジャンには以前の副教皇の面影は全くなかった。既に夜には老の館の地下にいるのは知っていたしエドガーの入れ物になっているのもわかっていた。
テオは出来得る限りにこにこと笑っている。そしてジャンの移動手段もわかっていた。極秘ではあるが教会と教会の間に転送装置があるのだ。ただしどちらの教会もフィールズ老が若い時に喜捨として建てられた建物であった。なので転送装置に細工をして老の館にも転送するように出来ているのであろう。これは夜のうちにテオが調べることになっていた。
「まぁ、……一応の確認なので。モリス夫人の意趣返しだと思われるのでこの話は私の所で止めておくよ。お母上を大事にしてくれ」
テオの言葉にジャンは感激していた。
同時刻、王宮ではマリエルが陛下とクリストフとジル、チャドに連れられて宝物庫にいた。
「どういうことですか、陛下」
「簡単なことだよ。立太子出来るか否かの最初の試験だ。この試験に合格すれば王太子を狙う資格ができる」
「へぇ。私が合格しないわけがないわ」
「自身がおありですか」
ジルの言葉にマリエルは鼻を鳴らして答える。
「ハンっ、私が失敗するなんてありえない」
ジルは理論もなにもない感情だけだな、と思う。チャドは呆れ気味だ。チャドは聖職者であり、ジルは王家の血も流れているので親石の呼び声のようなものは感じていたがマリエルは全くわからないようだった。
クリストフがジルに本当に小声で言う。マリエルは陛下にまとわりついている。
「親石、やるき満々でマリエルに『早く来い』って言ってる」
ジルも何となくはそれを感じていた。陛下は遠い目で苦笑しつつマリエルを相手にしていた。
「マリエル様は感じてないようですね。……」
ジルの言葉にクリストフは頷いた。マリエルは本人が思うほど出来は良くないし、短絡的な性格だ。こういう繊細な精霊の声は聞こえていても聞かないのだ。多分今も呼び声はただの耳鳴りとして処理しているのだろう。
マリエルがジュリオやレイラと同じクラスにいるのはひとえにジュリオ、エドワード、メルヴィンという三人がマリエルの抑え役を任されているからだ。マリエル自身は自分が優秀だと思っている。
陛下に指示されて親石の上にマリエルは手をかざした。
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