聖女は断罪する

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90. レイラが背負うもの

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 「レイラ、ちょっと来て」

ヴィヴィアンヌが部屋に入ってきてレイラを呼ぶ。

「はい、師匠」

ベッドではルシアが柔らかい寝息を立てている。ヴィヴィアンヌとレイラがルシアが起きないようにそっと部屋を出た。そして向かいにあるヴィヴィアンヌが泊っている部屋に入る。森の小屋と違いこの部屋は毎日掃除が入っている。が、相変わらず品やら書類が散乱している。レイラは何も言わず書類を軽く整理し、本を積みなおしている。

「確認を取りたいんだけど。レイラは愛人がシルヴィのメイドになったのは覚えてる?」

レイラは暫く無言だったが最終的に小さく頷いた。

「覚えてます。……お母様がお気に入りにだった緑のドレスを一着も着なくなった頃だった」

レイラの中で画像がクリアになってくる。

「遊んでる横でおかあ様に持っていくお茶に……なにかを数滴いれるんです、愛人が。その時に……」

ヴィヴィアンヌはレイラの記憶の蓋が開いたなと思った。

「最初は見間違えかと思ってました」

レイラは半ばトランス状態だった。

「けど彼女の手がお茶に何かを入れるとお茶の上に黒い靄がでるから……。あれをどうにかしたいって思ってたらお茶を浄化できるようになってました」

レイラは深呼吸する。肩口で切り揃えられた髪が揺れる。金茶の髪だ。

「うん」

ヴィヴィアンヌの相槌にレイラは肩の力を抜いた。たったこれだけを話すのにレイラは息をつめていたようだった。

「今ならあの言葉の意味が判りました。『なんできかないのよ。次はもっとキツイ媚薬ヤツ入れてやる。ブリスがそう望んでるのだから』って」

レイラはヴィヴィアンヌと出会って初めての言葉を口にした。

「父親は……代行はエマを愛していた?今は売れてない若い女優さんを愛人にしてるみたいですが」

ヴィヴィアンヌ達はブリスの動向を調べていなかった。からだ。

「長老会は私の成人の日に伯爵を継げるように王宮に働きかけるつもりのようです。それと同時に領地の端の3方向が山の館にあの家族を閉じ込めるって」

最近決定したこの話をレイラはヴィヴィアンヌに話していなかった。理由は忙しそうだったからだ。

「そう。ドゥエスタンの決定には私は口を挟まないのは知ってるでしょう?」

ヴィヴィアンヌの言葉にレイラは頷いた。

「ただ……お力を借りるかもしれません。愛人がそのまま引っ込むとも思えませんもの」

「知恵はいくらでも貸すけど、力はレイラが学園で人脈を作って出来るだけの力を手に入れて、その上で考えましょう。……長老も#貴女_・__#も、自身で断罪したいでしょう」

ヴィヴィアンヌは心の中で付け足す。今回のジークとアルフォンスみたいにね、と。

「今回の吸精鬼の退治と一緒。片をつけなければいけない人間で片をつけるの」

ヴィヴィアンヌはレイラの手を握る。

「やるべき人間がやる時にやらないと、後悔するよ。その上で私やエミール、ジルやテオやアルバートがそうできるようにあなたを鍛えるから」

レイラはこくん、と頷く。ヴィヴィアンヌはこんな稚い子供なのにすでにドゥエスタンという重みがかかっているのだ、と思った。
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