聖女は断罪する

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87. その頃のレイラたち

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 レイラたちはのんびりとチャドとジルを交えて御茶会を開いている。

「え?宰相、ここにいて大丈夫なの?」

クリストフが素に戻って訊ねる。

「久々の公休日だったんですけどね」

ジルは力なく笑う。

「あとで奥方に俺の名前で花束と小菓子を」

クリストフは自分の付き人の一人に頼む。

「俺からの呼び出しの体を取っておけば多少は風当りはましだろう」

ジルはほっとしたように頷いた。このところヴィヴィアンヌの要件で飛び回っていたのでジルの奥方はお冠だったのだ。若く美しい魔女との浮気を疑われていたのだ。
 陛下の正妃と愛妾の件をジルの妻はよく知っていて、というより陛下の妃候補の一人でもあったので正妃と愛妾の嫌がらせを受けていた一人なので陛下の呼び出しはジルの妻の眦は上がったままになり帰宅後の責めがきつくなるのだ。

「兄上より俺の方が……って思ったけど、そうだね、クリストフ兄上の呼び出しが一番いいね。俺とエドは母親が母親だからな」

ジュリオが笑い、エドワードは苦笑いだ。

「ジュリオ殿下はお母様がお嫌いなの?」

ルシアがストレートに訊く。

「好き、とは言えないな。国史を学べば学ぶほど母親の正妃としての資格のなさとかよくわかるし。俺とエドがまともになれたのは宰相と側妃様のお陰だと思う。普通の王子教育をしてくれたからね」

ジュリオはいつもの太陽のような笑顔ではなくかなり大人っぽい顔をしていた。

「親に問題があると子供は大人にならざるを得ませんから」

レイラが呟く。

「俺んとこも酷いけど、レイラ嬢のとこも酷いよな。代行があれで収まってる理由がわからん」

レイラはくすっと笑う。

「端的に言うとお金も実権もないんですよ。家のお金を自由にするにはクリスから許可がいるし代行の印では契約もなにもできないので。代行には権限を持たせてませんし」

エドワードがぼそりと疑問を呈する。

「ではあの、代行夫人と娘の衣類などは」

「代行の年金以上の額はどうしてるのか知りません」

レイラが言う。

「セドリックはなにか知ってるかもですが」

その場で皆にお茶を注いでいるセドリックはしれっとした顔で答える。

「ああ、最近わかりましたが老をゆすってお金を貰ってるみたいですよ」

「老ってフィールズ老?」

ルシアの目が丸くなる。

「そうです。……ルシア様のお母上は社交界でも趣味の良い人で知られているのでお母上の衣類が変わると色違いで同じものをドレスメーカーに頼んでいるようですよ、エマ代行夫人とメイの分を」

セドリックが苦々しげに言う。

「ああ、それでですね」

ルシアが言うには、母親自身はあまり散在する人ではないのに最近ドレスを一度着ると二度と着なくなるという。

「『いまいましい』って言いながらドレスをバザーに出してるわ」

おひろめのお茶会のルシアとレイラのドレスをお揃いでメイの為に仕立てようとしたらしいが、あの見事なレースを編める人間がおらずに諦めたという話は大人の中で流れていた。どうもあの場にいた宮廷女官から情報を得ているようであった。側妃はその話を聞き、女官長に調査を依頼している。聖女顔見世のお茶会の内容を外に漏らすような女官を側妃宮では雇っておけないからだ。側妃宮は今や重要な機密事項が隠された場所になっている。当たり障りのないものは餌として王宮においている。それは側妃と陛下、ジル、テオ、ウィルの間だけの話であった。そう、今は王の印璽と側妃エルシノアの印璽、そして本物の王太子の印璽は側妃宮にあるのだ。これがあれば国を転覆させることも可能である。
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