聖女は断罪する

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78. エミール、締められる

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 レイラの家での合宿も半分は過ぎた。レイラやロラン、ペール、アルフォンス、クリストフはエミールに魅了術を習っていた。またその合間でエミールは魅了石を使った魔道具を作成していた。

「これは使用者個人の魔力で起動するように出来てるんだ」

少年たちとアルフォンス、そしてジークはそんな作業も感心して見ている。テオもその中に入りたがっているがちょくちょく宮廷師団とこの屋敷をいったりきたりしている。時にはエミールもテオに引きずって行かれることもある。
 エミールはヴィヴィアンヌにかなり絞られたらしい。またお忍びで隣国の魔術師がエミールの元を訪れて、これもかなり絞られたようだった。

「ロッドバルトまで出さなくても」

エミールは少し涙目だ。

「お前のあの魔草でうちの国もこまってんだよ」

半分白で半分黒という左右で髪の色の違う中年の男がエミールを睨む。

「うちの国は中毒者が出てんだよ。……最初は医療用で輸入していた医者がいたらっしい。だがな。ある草と一緒に刻んでタバコとして吸う、なんて事が流行ってな」

隣の国ではあの先が紫の魔草を麻薬と一緒に吸う事が早って中毒者を出しているらしい。

「あれの供給を止めたら死ぬぞ」

「知ってる。それで王族が数人、な」

ロッドバルドは難しい顔になっている。このエミールが見つけたのが悪いと言えば悪い。ただ研究して見つけてそれを悪用していたのはフィールズ老なのだ。

「供給元はわかったが一気に引き抜けない相手なのは分かった。ってかあの野郎しぶといな。ヴィヴィアンヌを狙ってるのかね、まだ?」

ヴィヴィアンヌは急に自分の名前が出てきて驚いている。

「は?」

「あいつはガキの頃からヴィヴとやりたくてしょうがないんだよ。……一時期王都で流行ったヴィヴがモデルだって騒がれた官能小説、あれの作者があいつだよ」

「はぁ?」

確かにそういう小説が貴族に出回って迷惑を被った事はある。12歳になった自分の息子の友人との愛欲の日々、最初は息子の友人が責められる役で息子の友人が十代後半からは女主人公が息子の友人にメロメロになって、息子の友人が結婚してからは不倫の愛を貫くという筋書きをこれでもかとありとあらゆる性愛を絡めて書き綴った長編かつ偏執狂的な小説だった。

「あの小説はヴィヴを自由にしたいっていうフィールズの坊やの欲望の結晶だよ」

ヴィヴィアンヌは苦笑いをしている。

「フィールズの坊や、って言われると今ここにいるペールを連想してむずむずしちゃうね」

「お、どれがフィールズ家の?」

「白金の髪に青い瞳がロラン。ライン公爵の息子だ。金の髪にエメラルドの瞳が」

「ああ、この国の王子だろ。あの子は母親と何度か我が国に来てるよ」

ロッドバルトがいう。

「じゃあの麦わら色の髪に水色の瞳か、現役のフィールズの坊主は」

「そそ」

エミールが言う。

「悪い子じゃないぞ。高い水属性の魔力を持っている。今は土属性も使えるようになってるから3属性の魔術の使い手だな。水、氷、土な」

幼馴染で元同僚の3人は打合せを済ませる。隣国にエドガーが逃げないようにこちらからも魔力障壁をはるが、ロッドバルトの国でも一応防御はしておいて欲しい事等をヴィヴィアンヌは告げる。

「ロッドの得意な土魔法で高い障壁を作っておいて欲しい。それとあの石碑の場所に近い国境辺りに一応精鋭を秘密裡に待機させておいて欲しい」

「俺が出張るよ」

ロッドがヴィヴィアンヌが一番望んだ答えを返してくれる。

「うちの国王には漏らしておくけど、近衛とか騎士団には内緒にする。来週の今日、この時間にまた来るからそれまでに『現状』の吸精鬼の情報をそれまでに欲しい」

「了解した」

エミールはロッドの言葉にうなずいた。
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