聖女は断罪する

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77. アルフォンスの記憶

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 夜にはマーサが働き出そうとするのでセドリックとレイラで止める。レイラは食堂に向かいセドリックとマーサの分の夕食をワゴンで運んできた。
 手早くマーサの部屋の窓際のテーブルにセッティングする。

「セディ、マーサを見張っててね。今日はゆっくり眠ってもらって」

「判りました。レイラ様」

「マーサ、分かった?」

レイラの口調はいつもと違う少し甘えた口調だった。マーサとセドリックに対しては年相応、と行ったところか。ルシアといる時も年相応の少女の顔を見せる。マーサもセドリックも和む。そしてほんの少しだけ優越感を抱いてしまう。レイラの甘える先は自分たちだ、と。




 「戻りました」

テオはジークを迎えに行って帰ってきた。ジークとテオの部屋とクリストフ、ロラン、ペールの部屋にはマーサの作るがっしりした焼き菓子が余分に置いてある。ジークとテオの二人の二人の方がクリストフ達少年3人分の食事よりも多い感じだ。少年たちはテオとジークを珍しいものののように感じていた。

「夕飯はどうするんだい?食べてなかったら食堂で頼んだら作ってくれるけど」

ヴィヴィアンヌが訊ねる。

「食べます」

テオがジークを揶揄う。

「喰ってきたじゃん」

「喰えますから」

ジークはしれっと返す。ヴィヴィアンヌはこのあまり表情の変わらないアルフォンスの兄はテオに対しては普通に感情を出すのだな、と眺めていた。

「明日の朝、温室と畑の朝仕事終わらせたらエミールとアルフォンスとメルヴィンがくる。その時までに分析結果は出る?」

「マーサの服の?」

ヴィヴィアンヌが頷いた。テオは顎を撫でていたが肩を竦める。

「わかった。俺も手伝ってくる。ジークは殿下達もいるからこっちな。一応あんたは殿下のお守り……じゃない、護衛ってことになってるから」

テオはそう言いおいてかき消すように転移した。

「……あれはまた痩せて帰ってくるね」

ヴィヴィアンヌの言葉にジークも頷いた。

「あんたの弟はエドガー吸精鬼に関わる事を忘れてるけど……今回ので、ルビーの事思い出すかもね」

ヴィヴィアンヌはジークに告げる。

「わかってます。あの試験での魔力暴走でなにもかも忘れたのは僥倖だと思っていました。でも俺達はまたエドガーと関わる事になってしまった。今回こそ討伐したいもんです」

ジークの眉間に皺がよる。ルビーはジークの妹でアルフォンスの姉だった。エドガー討伐の時に逆にエドガーの餌食となってしまった女性だった。アルフォンスはエドガーを討伐するためのエドガー以上の強い魔物を試験会場で呼び出し己が眷属にするつもりだった。
 試験会場でそんなことをしたのはテオとヴィヴィアンヌが試験の判定人としてそこにいたので不測の事態を引き起こしてもなんとかしてもらえる、そう思っていたからだった。
 結果、記憶を失い、数か月意識を失う重傷を追ったのだ。

「あいつにとって吉か凶かは判りませんが」

「今回は……魅了で縛るからね。前回はテオの魅了が光属性だからあいつとの親和性が低いという事で前宮廷魔法師団長が反対したのと……フィールズ老が暗躍してたからね」

ジークはふっと笑った。

「正直ああいう作戦まで政争の道具にされてるなんて思いませんでしたよ」

ヴィヴィアンヌは遠い目になる。

「あれのお陰でエドワード現ライン公爵はより冷酷に冷徹になったし、あの子の中で老を害悪として認識を強くしたし。フィールズ侯爵がしっかり老と縁切りを始めたのも良かったね。ネックだった副教皇も干渉できない位置にいるし」

そう言いながらもヴィヴィアンヌの顔は晴れなかった。
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