聖女は断罪する

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61. エミールは世間知らず

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 「解毒剤は理屈ではあるはず」

「理屈?」

「あのテオとか言う坊主連れてきてくれ」

ヴィヴィアンヌはこの『坊主』は『神職者』を意味しての坊主なのかガキという意味で坊主なのか、と考えた。

「たっぷりの聖魔法と闇魔法が必要だ」

ヴィヴィアンヌは面白そうだ、という顔になる。

「ならルシアとレイラを使いなさいな。レイラは全属性つかえるしルシアは闇の力をたっぷり使える。レイラもルシアも魔力循環を覚えさせるには早すぎるし、あの子達は魔力を持て余して体力削ってるから」

エミールはヴィヴィアンヌをじっと見る。

「なら、借りるぞ、嬢ちゃんたち二人」

ヴィヴィアンヌは頷く。

「あ、その前にフィールズの坊主と嬢ちゃん、二人そろって来てほしいんだがな」

「ペールとレイラ?」

エミールは頷いた。

「乾燥したあの草をアルフォンスに渡してな。レイラとペールだけが草を使うと何が出来るのか正確に回答した。ので二人に生のあの葉っぱを触ってもらいたくてな」

「……そうね。ペールも引っ張り込もうかな、あの子に精製の魔術を教えてもいいと思う。老の身内ではあるけど、今の侯爵と老は袂を分かってるに近い状態だからね」

エミールは目を瞑り腕を組む。

「最後に金持ってきたのが半年前。次はそろそろ来るな」

「じゃ、あの黒い部屋にお通しする?」

「俺の香だと対策を取られてると面倒だな」

「ルシアやテオみたいに魅了が使えればいいんだけど」

ヴィヴィアンヌが呟くとエミールがなにかぶつぶつ言って部屋を飛び出した。

「なんなの、あの子」

暫くして指先から肘くらいまでの大きな水晶柱を持ってくる。

「そうそう、コレ。アクセサリには加工してないけど魅了の水晶。どっかの貴族様の依頼でアクセサリにして渡して。……5つ作った所でその貴族様、亡命してな。100年?120年くらい前かな」

「エミール……。あんた物騒なものを持ってたんだねぇ。作ったアクセサリは多分全部教会にあるよ」

エミールはふーん、と言って無関心だった。

「そうだな、薄い桃色に染めてイヤリングと指輪とブローチを作ろう。メロディ嬢に作ろうと思ってたもんだ。あの子の形見だと思って受け取ってくれ」

エミールは嬉しそうだった。この男は薬草にはまる前は魔道具を作るのを生業にしていたのだ。そして薬師にも弟子入りしていた時期がある。そんな中で得た知識を利用し論文を書くのが趣味であった。今回の薬草は論文の為の色々な実験を施しているうちに薬草自身に魅入られた状態になっていた、ようだとエミール自身は分析する。

『そう言う意味ではあの草に中毒してたのかもな。魔力循環も忘れて論文も忘れて没入するってのは自分でもよくわからん』

ヴィヴィアンウから見ても再開の当初のエミールはエミールらしくなかった。あの草に溺
れていたのは間違いないだろうな、と思った。

「……食事を抜いて、研究って体も頭も弱るってのがあんたの持論だったのにね」

エミールは頷いた。

「確かにな。なんで食事までおろそかにしたんだろうな」

「ふむ。あんた半年に一度、いくらもらってるんだい?」

「銀貨5枚を半年に一度かな」

「……そりゃ無理だ。50年前より物価も上がってるし。今度アルフォンスに街に連れ出してもらおう。庶民なら、多分、2月半、それもかなり切り詰めないと生きていけないよ」

エミールはぽかんとした顔になった。
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