聖女は断罪する

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59. クリストフ、オタク化する

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 ヴィヴィアンヌの指先が目の前の畑や温室の方へと向いている。授業で使う薬草やポーション類の材料を作っているな所とクリストフは認識していた。ヴィヴィアンヌにしたがって歩くと温室の中へと案内される。

「エミール、客だよ。この国の王子様だ」

エミールがのそのそやってくる。ヴィヴィアンヌと同じ年齢不詳の男がいた。この男によく似た老爺が畑の世話をしていたのを見かけたのをクリストフは思い出した。

「ここで仕事をしてた人、ご老人は?」

「ここはエミールがずっと、この50年ばかり世話してるんだよ。この男、さぼってたからちょいと老けちまってたけど、今は食生活も改善してるし大分元気だ」

アナが料理を作らない日はアルフォンスが食堂から食事を運び、朝食はヴィヴィアンヌが持ち込むようになったので今までのエミールとは元気さが段違いであった。そうすると老人じみた空気を纏っていたものが払拭されて今は中年から壮年にかけて、の働き盛りの男に見える。肌の色つやもいい。

 この後、エミールはテオとの初対面と同じ状況を繰り返す事になった。



 「ぐったりしてるねぇ。でもこれから私とあんたでリリスの尋問とかするよ。テオも来るからね」

「……」

エミールは無言でげっそりした表情になっている。その後ポツリと言った。

「若い奴はなんであんな早口なのかねぇ」

テオもクリストフも若い奴、なんだなとヴィヴィアンヌはくすりと笑った。

「話は変わるけど、リリスはあんたの家の二階の無力部屋に入れる。明後日は副教皇ね」

「なんで俺まで」

エミールは不満そうだ。

「ま、力があるものの義務だと思って。……私とあんたがぽやぽやしてる間にフィールズ老があれこれしてるみたいだからね。根っこから掘り起こさないと。この国をあんまり弄られたらロッドバルトにどやされる」

「……あいつがフィールズ老の裏じゃないのか。随分ヴィヴィアンヌに執着してたし。あいつに好きにされないようにって女の機能止めてまで抵抗してたのにラインの坊主に絆されて子供産んでさ」

「……ロッドバルトが私の敵に回る、かな?あの子は私が貴族のお嬢さんだから欲しかったんだし。今は権力も持ってるし私に執着する理由無いと思ってるんだけど」

エミールが片眉をあげる。

「その甘さはやっぱ貴族のおじょうさんだわ」

ヴィヴィアンヌがむぅとした顔になる。

「お嬢さんってとしでもないけどね」

「あのな、……ロッドがこの国を離れたのだって権力と地位を手に入れてヴィヴィアンヌを手に入れるつもり、とか思わないわけ?」

ヴィヴィアンヌは笑う。

「私にそんな価値はないよ」

「そういう価値はヴィヴが決めるものじゃない。相手がヴィヴに見るもんだ。とくに執着がはいるとな。……ロッドじゃなくてフィールズ老の方かもしれんが」

「私は男が欲しがるような女じゃないよ」

「……ほんと、自分の客観的価値を知らんってのは怖いわ。ラインの坊主がいい例だろ」

ヴィヴィアンヌの夫は7才のころ見かけたヴィヴィアンヌに初恋をしてそれをまっとうした男だった。

「……レオは特別」

息子アンドレ友達フィールズ老が同じじゃないと言い切れるかい?」

エミールが意地悪く告げる。

「そんな、世の中のすべてが色恋で動くものか。あんたはどうなのさ?」

エミールはカカカ、と笑う。

「だから魔法使いなんてやってるんだよ。色恋に動かされない変人だからな」
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