聖女は断罪する

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58. 呼び出される。

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 レイラは平穏な学生生活を楽しむつもりだった。

「おい、レイラ・ドゥエスタンを呼んでくれ」

教室の入口にクリストフが現れ早くも平穏という言葉が塵と散った事をレイラは感じた。

「何でしょうか」

レイラはクリストフの前に立つ。

「ちょっと来て」

「授業が……」

前にいたペールにクリストフが声をかけた。

「ペール、次の授業の教師に俺が借りて行ったって言っといてくれ」

「わかりました、殿下」

「すまん」

謝るのは私に対してではないのかとレイラは思ったが二の腕を持たれずんずんと教室から引き離された。

「ここらでいいか。……エミール・マリュスはどこにいる?どっちに行けばいい?」

レイラは驚いた顔であった。

「師匠のお友達のエミールさん?」

よくわかってはいないがエミールが魔法使いとして素晴らしいという事は担任から聞いていた。前に一度エミールの言葉を聞いていたのだ。

『嬢ちゃん、俺は凄い魔法使いなんじゃないぞ。時間が有り余ってるから好きな事を好きなだけ研究できる恵まれた男なんだ』

そう言いながらエミールはレイラにハーブティをいれてくれた。いくら王子とはいえいきなり温室に押しかけるのもなとレイラは思った。少し考えていたが師匠はこの人とも顔見知りのようだし、とレイラに着いている師匠の使い魔に合図する。すぐにヴィヴィアンヌが転移してきた。

「……殿下?」

「エミールさんにお会いしたいらしいです」

「ふむ?……レイラ、授業に戻っていいよ。殿下、話をしようか」

ヴィヴィアンヌはクリストフからレイラを解放した。レイラはやっと慣れてきたカーテシーをしそそくさと教室に戻った。教室では学年主任が黒板に式を書いている。

「理由は聞いている。早くこれを書き写して課題に取り掛かって」

レイラは『はい』と言い、小さく礼をした。素早く席に向かうとリチャードが立ち上がって場所を作ってくれる。5人座れる長い机に両端はリチャードとジョルジュでレイラは真ん中が自席だった。

「書ける?」

リチャードがノートを見せてくれようとしたがレイラは首を横に振った。

「覚えました」

小さな声でレイラが言う。それを証明するように殆ど黒板を見ずにさらさらとノートに問題を書き写した。レイラはライン公爵夫人から入学祝いに、と貰った質の良い紙のノートと滑らかなガラスペンですらすらと書き写していく。学年主任の授業は大抵、黒板の問題1つをノートの1番上に書き写す。そしてページの残りにその式の意味と結果を書いて、授業の終わりに提出し採点してもらう、そういう方式であった。




 「で、レイラを呼び出した理由は?」

「エミール・マリュス翁と親しいと聞いた」

「レイラが?」

ヴィヴィアンヌに問われクリストフは答える。

「あー、ジュリオがルシア嬢から聞いたらしい」

「ふん、お茶会か」

クリストフは頷いた。

「で、なんでレイラに?」

「……ルシア嬢の所に俺が行くとまた婚約のなんのって大騒ぎになるじゃないですか」

ヴィヴィアンヌはくくくと笑っている。少年なりに気を使ってるのはヴィヴィアンヌに伝わった。

「で、お目当てのエミールの居場所、だよ」

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