聖女は断罪する

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56. リリスの事

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 ライン公爵邸ではマリアの愚痴がライン公爵に向かって発せられている。

「あの子ったらアルマン殿下ほったらかしでジュリオ殿下とべったりだったのよ」

久しぶりにルシアに会えてよかったろう、と夫に訊かれると

「それはそうだけど……」

「元気そうだったかい?」

「ええ。相変わらずレイラちゃんのことばかり言ってるわ。おばあ様のお知り合いが学校にいたらしいわよ」

レイラの母親は思いついたことをつらつら話す。口数の多くないライン公爵は妻の取り留めのない話から重要情報をピックアップして頭に入れておく。

「あ、側妃様からいつもの」

それは見たところ鉱石だった。その実、側妃のテーブルで交わされた会話が全て文字情報として保存されているものだ。解除の術を知っているものだけが読める。これはライン公爵とフィールズ現侯爵だけが与えられている魔道具だった。

「それ、なんなの?」

「仕事の一部だよ」

「そう。早くルシアちゃん帰ってきてくれないかしら。やっぱり心配だもの」

マリアはそっと夫の額にキスをする。

「明日からシムノンのお父様と領地に帰るわね。お父様も子供たちに会いたいって」

「そろそろロベールを学園に入れようかと思ってる。ルシアのサポートが出来るように」

マリアは頬に手をあてて考えている。

「ロベール、領地に仲のいいお嬢さんがいるみたいで。だから王都には来たがらないかも」

「……どうするかなぁ。あの子はゆったりした気性だからルシアも頼りやすいかと思ったんだが」

「レイラちゃんもいるし、ルシアの気持ちは大丈夫なんだけど。そろそろ王太子殿下の側近も決まるでしょ?ロランをこちらに呼んでおきたいと思ってるの。あなたはどう思う?」

「ロランの方が領地経営に向いてると思ったんだがなぁ」

ライン公爵夫婦の悩みは尽きない。





 「これはこれは。フィールズ老自らお出ましとは」

「いやぁ、副教皇がすまんかった。あいつも何をしたかったのか」

テオとフィールズ前侯爵は教会の応接室で対峙していた。見習い神官の少年がお茶を出して頭を下げると静かに部屋を出て行った。フィールズ老が何か言う前にテオが発言した。

「リリス嬢はこちらが預かりますよ?あなたの手元ではあのお嬢さんは甘えて覚えるべきことを覚えないんでね」

「むぅ」

老人が唸る。

「せめて先ほどの神官見習いレベルの行儀を身に着けるまでは其方の手元には渡せません。ぜいたく品、宝石やアクセサリーなんかのね、の差し入れもダメです。他の少女たちと一緒の扱いをするので。ただし月に一回は其方に里帰りしても良いです。これも他の少女たちと同じ扱いです」

テオが言い渡した。そして善人の表情で言う。

「月に一度位ならそちらで甘やかすのは勝手なので」

「うむ、すまんな。リリスは元々妹が可愛がってた子でな。少々甘やかしすぎたが根は悪い娘じゃない」

「今回は……学内のでいたずらは周りに知らせませんが、次があれば退校処分になります。あと……ナオミ皇女から抗議文が届いてます。自分の招待客のふりをして自分がいるフロアに入り込むのはやめろ、と」

「おう、あの子は好奇心旺盛でな」

老人はのらりくらいと逃げるがそれは想定してあった。

「好奇心旺盛、で済まされません。今回は教会側が頭を下げる事で収めてもらってます。そういう教育も其方ではっリスが甘えるのでこちらでしっかり躾けます。聖女候補とはいえ、平民です。あなたの養い子でも貴族に対する礼は躾けますよ?思い違いをしてもらっては困ります」

フィールズ老にやにやと笑う。

「それを君が言うかね」

「言いますよ。私は既に教皇だ。彼女はまだ聖女じゃない。その差がわからない程度に……衰えましたかな、前侯爵」

「噛みつきおるわ、駄犬が」

フィールズ老はテオを見て吐き捨てる。

「あんたの飼い犬よりは賢いと思いますよ」

テオも応戦したが、二人は視線を合わせると話し合いを終わらせた。老はリリスを手元に。リリスがいると妹がいつも以上に不安定になるので面倒だと思っていたのだ。どうやってリリスを押し付けようと考えていたので今回の話は渡りに船であった。月に一度くらいなら妹の娯楽にもいいだろう、と機嫌よく教会から帰っていった。

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