聖女は断罪する

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40. ヴィヴィアンヌの推察

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 「印璽を手に入れて、今ももってます」

「まぁ、返すタイミングがね」

「いえ、当時の彼に返すのが不安で」

ヴィヴィアンヌは苦笑した。あの当時、ヴィヴィアンヌは宮廷魔法師団と一緒にある事件を追っていて国内にいなかったのだ。エルシノアには話していないが、エルシノアの母親とその夫にも手伝ってもらっていた事件だった。
 エルシノア自身は口にしたことはないが、王家はデュ=ゲクラン家に対して負い目を感じていた。それは陛下も感じられたのだろう、とヴィヴィアンヌは推測する。それが故に正妃や愛妾に逃げたとも。現陛下自身は何故かはわからなかったのだろうが。



 「お別れを決めて、最後の夜に……無体な事をされて。あの部屋で最後のお茶を二人だけで飲んでたらそうなったんですけど」

ヴィヴィアンウはエルシノアに小屋の一件を話す。

「あの子、自室で寝てなかったのだって、あの頃」

「……そうなんですか」

エルシノアは溜息をついた。

「その上で、あの子の自室や、エルシーの使ってたお部屋、前王夫妻の部屋の機能をちゃんと聞いてなかったみたい、授業で」

各部屋には緩やかな解呪や解毒の魔法がかかっている。部屋にはいって暫くすると解呪や解毒の魔法陣が作動するのだ。
 アリスとエラはそれまでエルシノアに抱いていた現陛下の欲望を利用し方向を曲げ自分たちに向けたのだろう、ヴィヴィアンウはそう思った。かなり強い欲望だったので一人では無理で急遽どちらかが追加されたのであろうとヴィヴィアンヌは考えた。とすると香にも香水にもあの魔草が使われているはず、と推測できた。
 解呪の魔法陣と解毒の魔法陣に触れた現陛下はエルシノアにずっと抱いていた己の思いのたけ、欲望をぶつけた挙句の事件になってしまった、と。
 その後はシルヴィの家に一旦、かくまわれたエルシノアは父親の手紙から現陛下が毎日謝罪に通っていることを知る。
 エルシノアは王太子と会う気はなかった。正妃の妊娠も発表された。そんな時に自身の妊娠が判り、覚悟を決めた。一人でも産む、と。シルヴィは呑気に『うちに来ればいい。貴方と子供くらいなら私はかくまえるし養える』と行ってくれてエルシノアは一安心しつつ実家へ帰った。

 「そんなこんなで印璽を返す時期を逸してしまって……」

「当時だとジルに渡せばよかったね」

ヴィヴィアンヌの言葉にエルシノアの目が丸くなった。

「そうですね……、全く考え着きませんでした」

「今は陛下はどこで寝てる?」

「たいてい、寝るのはこの宮の自室です」

「ここは敷地ごと解呪と解毒の仕掛けをつくってあるからね」

「かなり実家のお金、かけてもらいました」

エルシノアがふぅっと息を吐く。王子達も同じ敷地に作った王子宮で生活をしている。この大がかりな解呪と解毒のシステムはヴィヴィアンヌとジークとテオで受け持った。また魔力のコントロールには長けていたが絶対的な魔力量が少ないエルシノアの為に魔石と陣を組み合わせ効率的に魔法を使えるようにしたのはシルヴィだった。


 エルシノアはシルヴィが自分に同情した訳をシルヴィの結婚相手を知って理解した。ブリスというシルヴィの分家の男は評判の悪い男だった。シルヴィは笑って

『無能なくらいでいいわ。変に能力があって突っ走られたらフォローが面倒だもの』

と言っていた。当時、愛人の存在は誰も知らなかった。


 「全部、はっきりさせるよ、エルシー。貴方の為にも陛下の為にも、子供たちの為にもね。……多分、王太子は陛下の子供じゃない。親石に反応できなくてね」

エルシノアの表情が曇る。

「それでも陛下はアルマンを可愛がってます。子供たち全員を愛してます」

「それは知ってる。アルマンの事がわかっても見捨てる、とは思えない。ただ……王太子、は無理だろうね。成績の面でも、ね」

「やはり……成績は良くないですか」

ヴィヴィアンヌは重々しく頷いた。

「ネージュ子爵家の上の方の令嬢とよろしくやってるみたいでね。余計成績が、ね」

エルシノアは溜息をついた。

「ジルも手を焼いてるみたいで」

エルシノアは母の顔でヴィヴィアンヌに軽く愚痴をこぼし始めた。
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