聖女は断罪する

あくの

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27. 宰相の執務室にて

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 「第一王子、親石に感応しなかったな」

教皇が呟く。むろん、宰相と自分の間だけで聞こえるように小さな声だった。宰相は頷いた。

「明日の話はその事だろうよ」

宰相は当時の事を思い出す。正妃アリスの元に足繁く通っていたのはフィールズ老だった。後ろ盾だから、と思っていたがあの偏執狂の老人の事だ……、王位簒奪を考えていても不思議ではないと思った。現フィールズ侯爵はフィールズ老の甥であった。妻はフィールズ老の妹の娘であった。側妃とも仲が良く、高位貴族夫人中心の側妃のサロンに足繁く通っているし良妻賢母である。ただ、フィールズ老の妹は未婚で娘を産んでいたのと酷いブラザーコンプレックスで未だにフィールズ老と暮らしている。夫婦同然にくらしているとまことしやかに囁かれている状態である。フィールズ夫人自身は己の父親を知らないのだが王家の調査ではフィールズ老であろうと言われていた。ただ、良い夫人であるので不問にされている、という事であった。
 偏執狂の老人から侯爵夫妻が距離を取り始めたのは新婚当初で嫡男が生まれた時にフィールズ老が教育に口を出した事がきっかけで現侯爵夫妻とフィールズ老の間は決定的な亀裂が生じた。

 そして副教皇はフィールズ老の庶子である、らしい。本人はそう言っている。実際はどうかわからない。ただ母親がフィールズ老の元でメイドをしていた時期に副教皇を産んだ、それは事実であった。テオに言わせれば

「庶子であろうと無かろうと、副教皇アレがフィールズ老の手駒なのは確かだろ。聖女候補は多分老の血縁だよ、魔力の系列がかなり近いからね」

と朝の馬車の中で宰相とヴィヴィアンヌに告げていた。

「ならば老と副教皇は?」

「あー、そうか。あの二人が似てると思ったことはないけど、聖女と副教皇は似てるな。魔力ではなく魂の色、というべきか。思考の道筋が似てる。悪意と悪意と裏を読みすぎと」

そう言うとテオは目を瞑り、宰相は机の上の書類をチェックし始めた。

「あ、って事はあの聖女、俺の秘匿してる聖女を炙りだそうとするな」

テオが突然声を出した。

「さすがにレイラって事はわからんだろう」

宰相は書類から目を離さない。

「ま、さすがにな。同じクラスで聖属性だってばれてるけど一度も教会で顔合わせてないだろ、リリスとレイラ」

聖女候補は幼い時に教会に集められ12歳まで共同生活をし、聖女であるか見極められる。その後16歳で正式に聖女として立つ。

「レイラ嬢はあんまり声を出さない子だからな。シルヴィと側妃宮に来てた事とか覚えてなさそうだな」

「あの子、子供の頃の記憶に蓋をしてるからね。シルヴィの為にも記憶の蓋を外したいとは思うんだけど」

教皇テオは少しだけ物思わし気な表情で宙を見つめている。
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