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25. ライン公爵の結婚
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また、ルシアが次期王妃に内定しているというのは側妃と陛下のうちうちの話である。ヴィヴィアンヌや宰相、教皇は察しているがルシアの母は察していない。その上で他の令嬢の母親との小競り合いを繰り広げている。そしてこの母親は懸念材料があった。
正妃、アリス・オーブリーの取り巻きの一人だったのだ。ヴィヴィアンヌは多分、複数回は陛下の手が着いていると見ている。
学園にいる間、陛下はアリスの取り巻きとの女生徒とのアフェアを楽しんでいた。ただ、女性関係以外は完璧で成績もいい。前陛下はこの女にだらしない息子を臣下に、と考えていたのだが、王弟殿下がきっぱりと『結婚したい人がいる、その人との暮らしに王位は邪魔だ』と宣言し現陛下は王太子に留まった。
現陛下の卒業時には関係のあった女生徒の縁談を上手に、双方の家にうまみがあるように整えた。……ライン公爵家以外は。ライン公爵は当時、既に公爵ではあったが陛下とはあまり接触はなかった。ただし前侯爵と前陛下は幼馴染で伯爵家出身のルシアの母親の扱いをどうするか、という話をため息交じりに飲みながら本音で話していた。それを同じ部屋で本を読んでいたルシアの父親がさらりと
「私がその方を頂きましょう」
と言い、縁談が纏まった。あまり背の高くない、少し丸い少年は地味な見た目に反して知性が溢れた目をしていた。見合いが設定されて、前公爵は『見合いをしてお互い気に入らなければノーと言っていい。これはどちらの家も同じだ』とルシアの母親の両親にも含める。親世代の心配をよそに二人は徐々に親密になっていった。そんな中で、ライン公爵エドワードはシムノン伯爵家三女マリアに求婚し、正妃が二人目の子供を産む前年に婚姻を結んだ。両家の親世代の心配を他所にマリアは3年連続子供を産む。男男女の3人だった。その後も少し離れて男女と兄弟は増えて行った。ルシア以外の子供は全員領地で育っているがルシアは母親が主治医から離すのを嫌がったのと馬車の旅に耐えられないだろう、と王都に残ったのだ。
シムノン伯爵家は3姉妹で長女が冒険者と駆け落ちしてしまい、次女は既に嫁いでいた。親戚から跡継ぎを……と考えていたがマリアの子供のうち誰かがシムノン伯爵家を継ぐ、と決まった。マリアはにっこり笑って父母に
「今いる子供で足りなければもう2,3人産むわよ?」
と言い放ち、ライン公爵は
「それもいいね。でもあと3,4年は休もうね」
とマリアを労わった。そんな様子を見てシムノン家の両親はあんな尻の軽い事をした娘なのにとライン公爵に感謝するのであった。
ライン公爵家にひけめを感じていたマリアだったがルシアが軍を抜いて美しいそして賢い子供だった上に王家の子供の茶会に呼ばれるようになって、ルシアこそを正式に王太子妃にすることがライン公爵家に対する恩に応える事だと燃え上ってしまっている、という現状であった。
「懺悔は後にして。陛下、石を全部支配下に置くわよ。……テオ、魔力は?」
「蓄えてあるよ。倒れそうになったらヴィヴ、助けてね」
ふっくらとしたテオドールはにこやかに笑う。宰相が何か思いついたらしい。
「4王子を呼びたいのですが」
陛下が片眉を上げたがほどなく4人揃って陛下の私室へ来た。
「来たね。じゃ宝物庫に行きますか」
宝物庫内は色んな魔道具が干渉しあって逆に静かであった。一部の宝物はヴィヴィアンヌに対して怯えている。
王家の石の前に教皇が立つ。教皇自体が黄金に輝きまばゆいばかりだ。光が消えた時、ふっくらした教皇はいなかった。そこには元の美貌のやせぎすの男が立っている。
「くそっ」
教皇は教会の上衣を脱ぐ。あばらが浮いた体を晒し、空間魔術で作ったストレージに入れていた白い絹のシャツを身に着ける。ヴィヴィアンヌもストレージからなにかベルトを出しテオに渡す。魔力供給のベルトだ。
「ありがたい」
教皇はそのベルトを腰に巻き、持っていたMPポーションを飲む。ふんわりリンゴの香りがする。
第三王子が最初に動き出した。
「なに、そのポーション、なんかいいにおいする」
ポーションはまずい、というのはこの世界所常識だった。教皇はにやっと笑う。
「大人の為の飲み物だ」
ヴィヴィアンヌは苦笑する。
「うちの弟子が魔法合成したものだよ」
正妃、アリス・オーブリーの取り巻きの一人だったのだ。ヴィヴィアンヌは多分、複数回は陛下の手が着いていると見ている。
学園にいる間、陛下はアリスの取り巻きとの女生徒とのアフェアを楽しんでいた。ただ、女性関係以外は完璧で成績もいい。前陛下はこの女にだらしない息子を臣下に、と考えていたのだが、王弟殿下がきっぱりと『結婚したい人がいる、その人との暮らしに王位は邪魔だ』と宣言し現陛下は王太子に留まった。
現陛下の卒業時には関係のあった女生徒の縁談を上手に、双方の家にうまみがあるように整えた。……ライン公爵家以外は。ライン公爵は当時、既に公爵ではあったが陛下とはあまり接触はなかった。ただし前侯爵と前陛下は幼馴染で伯爵家出身のルシアの母親の扱いをどうするか、という話をため息交じりに飲みながら本音で話していた。それを同じ部屋で本を読んでいたルシアの父親がさらりと
「私がその方を頂きましょう」
と言い、縁談が纏まった。あまり背の高くない、少し丸い少年は地味な見た目に反して知性が溢れた目をしていた。見合いが設定されて、前公爵は『見合いをしてお互い気に入らなければノーと言っていい。これはどちらの家も同じだ』とルシアの母親の両親にも含める。親世代の心配をよそに二人は徐々に親密になっていった。そんな中で、ライン公爵エドワードはシムノン伯爵家三女マリアに求婚し、正妃が二人目の子供を産む前年に婚姻を結んだ。両家の親世代の心配を他所にマリアは3年連続子供を産む。男男女の3人だった。その後も少し離れて男女と兄弟は増えて行った。ルシア以外の子供は全員領地で育っているがルシアは母親が主治医から離すのを嫌がったのと馬車の旅に耐えられないだろう、と王都に残ったのだ。
シムノン伯爵家は3姉妹で長女が冒険者と駆け落ちしてしまい、次女は既に嫁いでいた。親戚から跡継ぎを……と考えていたがマリアの子供のうち誰かがシムノン伯爵家を継ぐ、と決まった。マリアはにっこり笑って父母に
「今いる子供で足りなければもう2,3人産むわよ?」
と言い放ち、ライン公爵は
「それもいいね。でもあと3,4年は休もうね」
とマリアを労わった。そんな様子を見てシムノン家の両親はあんな尻の軽い事をした娘なのにとライン公爵に感謝するのであった。
ライン公爵家にひけめを感じていたマリアだったがルシアが軍を抜いて美しいそして賢い子供だった上に王家の子供の茶会に呼ばれるようになって、ルシアこそを正式に王太子妃にすることがライン公爵家に対する恩に応える事だと燃え上ってしまっている、という現状であった。
「懺悔は後にして。陛下、石を全部支配下に置くわよ。……テオ、魔力は?」
「蓄えてあるよ。倒れそうになったらヴィヴ、助けてね」
ふっくらとしたテオドールはにこやかに笑う。宰相が何か思いついたらしい。
「4王子を呼びたいのですが」
陛下が片眉を上げたがほどなく4人揃って陛下の私室へ来た。
「来たね。じゃ宝物庫に行きますか」
宝物庫内は色んな魔道具が干渉しあって逆に静かであった。一部の宝物はヴィヴィアンヌに対して怯えている。
王家の石の前に教皇が立つ。教皇自体が黄金に輝きまばゆいばかりだ。光が消えた時、ふっくらした教皇はいなかった。そこには元の美貌のやせぎすの男が立っている。
「くそっ」
教皇は教会の上衣を脱ぐ。あばらが浮いた体を晒し、空間魔術で作ったストレージに入れていた白い絹のシャツを身に着ける。ヴィヴィアンヌもストレージからなにかベルトを出しテオに渡す。魔力供給のベルトだ。
「ありがたい」
教皇はそのベルトを腰に巻き、持っていたMPポーションを飲む。ふんわりリンゴの香りがする。
第三王子が最初に動き出した。
「なに、そのポーション、なんかいいにおいする」
ポーションはまずい、というのはこの世界所常識だった。教皇はにやっと笑う。
「大人の為の飲み物だ」
ヴィヴィアンヌは苦笑する。
「うちの弟子が魔法合成したものだよ」
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