聖女は断罪する

あくの

文字の大きさ
上 下
22 / 138

21. リリスの後ろ盾

しおりを挟む
 「誰だっ」

教室のあるはずの空間の前にヴィヴィアンヌが余人が立ち入れないような結界を施した後に誰何の声が飛ぶ。レイラは聞いた声だと思った。

「フィールズの坊主かい。よくも私にそういう問いかけが出来るね」

ヴィヴィアンヌが大人げない態度でペールの声に応える。レイラは聞いたことあるはずだよ、と納得する。そこにはペール・フィールズとリリスがいた。

「この教室に何の用があるんですか?」

ヴィヴィアンヌの事を知らないリリスが小ばかにした態度でヴィヴィアンヌに訊ねる。

「教会の小娘か。……教師の権限でおかしな場所があったから封鎖しただけだよ。床に魔物召喚の魔法陣が『水属性』で書かれてたからね」

ヴィヴィアンヌはリリスをじっと見る。

「あんたも水属性だね。……ペールもね。ペール、後で家に行くから覚悟しなさい。それと、教会の小娘よ、教会にも話は通しておくのであんたも覚悟するようにね」

ヴィヴィアンヌは声に相手を委縮させる魔法を織り込み発した。レイラはこれは個人を指定することでその個人に対しての縛りを与えているのだな、と分析している。そしてこれ自身は凄く細やかにコントロールしないと危険なのだな、と考えていた。




 「さて、と。学年主任は巻き込むのは危険だからまずは校長かな。その前に。レイラ、玄関まで送っていくからサムに連れ帰ってもらって、シルヴィの館で上空まで結界を張っておいて。結界の外にはクロを置いておくから。それと私が迎えにいくまで外に出ないでね」

ヴィヴィアンヌの言葉にレイラは素直に頷いた。レイラはヴィヴィアンヌの横に立ちその場所を立ち去った。玄関までがやけに長い。というかそれこそ目くらましか空間をいじっているのか、とレイラが思った瞬間ヴィヴィアンヌがその魔法を『割った』

「うざい。なんの小細工をしてる、あの小娘」

ヴィヴィアンヌが呟いた。

「こうやってかけてある魔術を元の術者の元に届けることで、実行者がわかるし他の人を巻き込む事は減るからね。これも繊細なコントロールが必要になるよ」

多分、それができるのは宮廷魔術騎士団の団長クラス以上だけどね、とヴィヴィアンヌは付け加える。

「レイラはまだできない。けど、術式ややり方はおいおい教えていくからね。……私が学生の頃、親友と術をかけあっておいて、夜中にその術に乗せてメッセージを送りあったりしていたよ。そういう遊びも出来るからね」

緊迫した状況だったはずだがなぜかのほほんとした話題になる。レイラはルシアとそれができるといいな、と思いながらヴィヴィアンヌの言葉に頷いた。

「空き教室の扉にかけてあった術を返さなかったのは何故ですか?」

ヴィヴィアンヌはふーと息をはいた。

「クリストフ殿下がいたのと、現場を他の魔術師、レイラの担任とか校長にね、見てもらっておいた方がいいからね。……魔物を呼び出す陣は動かなかっただろうけどね」

ヴィヴィアンヌがくすくす笑いながらレイラに教えてくれる。

「火の精、サラマンダーを呼び出す陣を水の力で掻いても動くわけがない」

心の中でヴィヴィアンヌは付け加える。ただ、あのチョーカーの石の力を借りるなら、何が起こっても不思議ではないけども、と。フィールズの小僧はそれを知っていたのか、と考えるがヴィヴィアンヌの知るペールはそういうことをするような子供ではなかった。もし王家の宝玉があそこにあるのを知ったら学年主任の相談するし、学年主任は嫌味で小物だがあの宝玉の意味を理解しているので『魔術師』として動くであろうことはわかっている。
 あの力を分かった上で利用しようとするのは副教皇派の可能性が高い。そして聖女候補リリスの後ろ盾は副教皇本人だった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
 第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。  投票していただいた皆さん、ありがとうございます。  励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。 「あんたいいかげんにせんねっ」  異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。  ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。  一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。  まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。  聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………    ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

王妃ですけど、側妃しか愛せない貴方を愛しませんよ!?

天災
恋愛
 私の夫、つまり、国王は側妃しか愛さない。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

私の作った料理を食べているのに、浮気するなんてずいぶん度胸がおありなのね。さあ、何が入っているでしょう?

kieiku
恋愛
「毎日の苦しい訓練の中に、癒やしを求めてしまうのは騎士のさがなのだ。君も騎士の妻なら、わかってくれ」わかりませんわ? 「浮気なんて、とても度胸がおありなのね、旦那様。私が食事に何か入れてもおかしくないって、思いませんでしたの?」 まあ、もうかなり食べてらっしゃいますけど。 旦那様ったら、苦しそうねえ? 命乞いなんて。ふふっ。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

今夜、元婚約者の結婚式をぶち壊しに行きます

結城芙由奈 
恋愛
【今夜は元婚約者と友人のめでたい結婚式なので、盛大に祝ってあげましょう】 交際期間5年を経て、半年後にゴールインするはずだった私と彼。それなのに遠距離恋愛になった途端彼は私の友人と浮気をし、友人は妊娠。結果捨てられた私の元へ、図々しくも結婚式の招待状が届けられた。面白い…そんなに私に祝ってもらいたいのなら、盛大に祝ってやろうじゃないの。そして私は結婚式場へと向かった。 ※他サイトでも投稿中 ※苦手な短編ですがお読みいただけると幸いです

処理中です...