聖女は断罪する

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14. 教科書の執筆者

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 「光と闇以外はどの属性も身に着ける事は基本可能なの。例えば貴方は水の気が強いから火属性は身に着き難い。身に着けようと思ったら氷や水の何千倍も努力が必要になる。その努力が出来る者は稀にしかいない。貴方は長年の魔法の使用で少しでも高みに行けるっていう事を生徒に証明したようなものよ?」

ヴィヴィアンヌの言葉に学年主任は少し困惑した表情のままだが喜んでもいることはレイラにも見て取れた。

「さあて、アルフォンス、あんたもやるかい」

「おや、俺を見知っている?」

「もちろん。あんたの昇進の最終試験の暴挙を防いだのは私だからね」

ヴィヴィアンウは担任の前に立つ。

「あんたの状況はわかってる。貴方に起こった事象も知ってる。何故そうしたのかは推測でしかないけど……。ただね、性格は変わってないね」

担任はくすくす笑う。裕福な平民の家で生まれ、魔法が好きで宮廷魔術師に加わったのは
覚えている。次の記憶は10年以上経って豪華な王立病院の個室で親が手をとって泣いていた。宮廷魔術師の制服を着た次兄に

『お前は除隊だ。ただし退職金は出る』

と宣言された。兄は淡々と国で一番の治療は施した、あとはお前次第だ。自分が何をしたか全く覚えていなかった。自分が何をしたのか兄に問うと、『そうか、覚えてないか。ならばそれがお前の代償だ』と言われた。
 その後、家を継いだ長兄からの斡旋で学校教師の職にありつき日々の生計を得ている。生徒は可愛いしそれなりのやりがいもあるがどこか空虚だとアルフォンスは感じていた。『それでも腹はすくし眠くなる』から生きていくためだけに教師をだらだらと続けていた。そうして鍛錬で自分が持つ属性以外、光と闇以外の属性は手に入れられるというヴィヴィアンヌの言葉に何かががっちり嵌った気がした。

 レイラの件は師匠と鍛錬を重ねた結果、と教会の書類の記載ミスという方向で片が付く事になった。レイラはそのまま、学年主任の次の時間のクラスに自習になったという学年主任の手紙を持って行き、少し迷ってクラスに戻れなくなった。

「おい、遅れるぞ」

ペール・フィールズが声をかける。

「あ、教室の位置が判らなくなって」

レイラが正直に話す。

「仕方ないな。委員長としての責務だ。連れて帰ってやる」

ペールはすたすたと歩き出す。レイラは小走りでついていく。ペールはレイラの歩幅が小さい事に気が付き少しペースを落してくれた。教室に入る前にレイラはペールに礼を言った。

「連れて帰ってくれてありがとう」

「委員長だからな」

そう言いながらペールの耳はほんのりと赤くなっていた。



 「この教科書、誰が選定した?」

ヴィヴィアンヌはレイラが居なくなって本気を出した。部屋の空気がひんやりとしてるような感じがする。

「校長?」

ヴィヴィアンヌに促されて校長が記憶を思い起こす。

「あの頃は私もまだ現場にいたんですが……当時の教頭の鶴の一声だったかと」

「……フィールズ侯爵の所縁の方が執筆した入門書だと私も聞いてます」

校長と学年主任は顔を見合わす。

「そもそも全属性が『作れる』事は学院の教諭は誰も知らない?」

アルフォンスは魔法学入門の執筆者を見て言う。

「これ魔法薬草学用の温室の管理してるジーさんの名前じゃないの?」

エミール・マリュス、教科書の最終ページにはそう書かれていた。
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