聖女は断罪する

あくの

文字の大きさ
上 下
15 / 138

14. 教科書の執筆者

しおりを挟む
 「光と闇以外はどの属性も身に着ける事は基本可能なの。例えば貴方は水の気が強いから火属性は身に着き難い。身に着けようと思ったら氷や水の何千倍も努力が必要になる。その努力が出来る者は稀にしかいない。貴方は長年の魔法の使用で少しでも高みに行けるっていう事を生徒に証明したようなものよ?」

ヴィヴィアンヌの言葉に学年主任は少し困惑した表情のままだが喜んでもいることはレイラにも見て取れた。

「さあて、アルフォンス、あんたもやるかい」

「おや、俺を見知っている?」

「もちろん。あんたの昇進の最終試験の暴挙を防いだのは私だからね」

ヴィヴィアンウは担任の前に立つ。

「あんたの状況はわかってる。貴方に起こった事象も知ってる。何故そうしたのかは推測でしかないけど……。ただね、性格は変わってないね」

担任はくすくす笑う。裕福な平民の家で生まれ、魔法が好きで宮廷魔術師に加わったのは
覚えている。次の記憶は10年以上経って豪華な王立病院の個室で親が手をとって泣いていた。宮廷魔術師の制服を着た次兄に

『お前は除隊だ。ただし退職金は出る』

と宣言された。兄は淡々と国で一番の治療は施した、あとはお前次第だ。自分が何をしたか全く覚えていなかった。自分が何をしたのか兄に問うと、『そうか、覚えてないか。ならばそれがお前の代償だ』と言われた。
 その後、家を継いだ長兄からの斡旋で学校教師の職にありつき日々の生計を得ている。生徒は可愛いしそれなりのやりがいもあるがどこか空虚だとアルフォンスは感じていた。『それでも腹はすくし眠くなる』から生きていくためだけに教師をだらだらと続けていた。そうして鍛錬で自分が持つ属性以外、光と闇以外の属性は手に入れられるというヴィヴィアンヌの言葉に何かががっちり嵌った気がした。

 レイラの件は師匠と鍛錬を重ねた結果、と教会の書類の記載ミスという方向で片が付く事になった。レイラはそのまま、学年主任の次の時間のクラスに自習になったという学年主任の手紙を持って行き、少し迷ってクラスに戻れなくなった。

「おい、遅れるぞ」

ペール・フィールズが声をかける。

「あ、教室の位置が判らなくなって」

レイラが正直に話す。

「仕方ないな。委員長としての責務だ。連れて帰ってやる」

ペールはすたすたと歩き出す。レイラは小走りでついていく。ペールはレイラの歩幅が小さい事に気が付き少しペースを落してくれた。教室に入る前にレイラはペールに礼を言った。

「連れて帰ってくれてありがとう」

「委員長だからな」

そう言いながらペールの耳はほんのりと赤くなっていた。



 「この教科書、誰が選定した?」

ヴィヴィアンヌはレイラが居なくなって本気を出した。部屋の空気がひんやりとしてるような感じがする。

「校長?」

ヴィヴィアンヌに促されて校長が記憶を思い起こす。

「あの頃は私もまだ現場にいたんですが……当時の教頭の鶴の一声だったかと」

「……フィールズ侯爵の所縁の方が執筆した入門書だと私も聞いてます」

校長と学年主任は顔を見合わす。

「そもそも全属性が『作れる』事は学院の教諭は誰も知らない?」

アルフォンスは魔法学入門の執筆者を見て言う。

「これ魔法薬草学用の温室の管理してるジーさんの名前じゃないの?」

エミール・マリュス、教科書の最終ページにはそう書かれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

護国の鳥

凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!! サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。 周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。 首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。 同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。 外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。 ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。 校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

王国冒険者の生活(修正版)

雪月透
ファンタジー
配達から薬草採取、はたまたモンスターの討伐と貼りだされる依頼。 雑用から戦いまでこなす冒険者業は、他の職に就けなかった、就かなかった者達の受け皿となっている。 そんな冒険者業に就き、王都での生活のため、いろんな依頼を受け、世界の流れの中を生きていく二人が中心の物語。 ※以前に上げた話の誤字脱字をかなり修正し、話を追加した物になります。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...