聖女は断罪する

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05. 砂糖細工

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 「さ、二人とも起きて」

寝ぼけ眼の少女二人は侍女たちに湯につけられて朝から手入れをされる。今日はルシアもレイラもレモングラスの香りの香油で髪の毛の先から手足の先までしっとりと潤っている。

「こんなに手がすべすべなの初めて」

レイラは喜んでいる。ヴィヴィアンヌは出来る限りの助けをだしてはいたが自宅ではずっと下女扱いで家事をしていたのだ。宵っ張りの朝寝する家族の目を掻い潜り教育を施すには早朝が最適だったので早朝からの教育時間を領地では取っていた。
 セドリックの協力者であるメイドや執事、下男、下女は朝から立ち働き、父親や愛人が雇ったメイドは伯爵代行が起きだす時間の30分前から勤務していたのだ。

 レイラが王都へ向かってから幾人かの執事、メイド、下働きが同時に辞めている。契約切れで更新料を伯爵代行がおさめなかったので口入れ屋が引き揚げさせたのだ。この同時に止めた執事達は無事にセドリックの元にたどり着いていた。

「お嬢様はあと2~3日でこちらにいらっしゃる。家を心地よくしなければな」

その家は元はシルヴィ、レイラの母親の個人的な持ち物で伯爵代行は全く知らないものであった。ドゥエスタンの本宅は王都の外れにあり、稀に伯爵代行が王都に来るときに使っている。そこは一人の老執事が取り仕切っている。この執事は『伯爵』以外には仕えないと公言しており代行はいつも痛い目をみるのだがこの老人の采配で領地はそこそこ儲かっておりこの老人をクビにする権限は『代行』の印璽では無理であった。
 『印璽』は魔法契約に使われるものであり持つ人間の権限を示すものでもあった。伯爵代行の権限では動かせないところもこの老執事の権限で動かせる事が多い。
 普通の頭ならそこでなにかが起こっていると考えるのだが代行の頭の働きはそう良くはなかった、というか都合のいい事しか見ることができない頭であった。
 老執事はシルヴィが亡くなった時に本当の意味での伯爵シルヴィの代行ができる存在であった。老執事が『私が裏切るとは考えないのでしょうか?』と訊ねると『貴方の家は『伯爵』の血には逆らえない。それは既に呪いになっているくらい深い。そんな人間に裏切られるなら私は運がないのだわ』とほほ笑む。『それに爺やが私を悲しませるわけないもの。レイラをよろしくね』老執事クリスはシルヴィの頼みを受け入れた。

 そうして学園に入学できる12歳までの間に教育をある程度すすめる、伯爵代行のブリスの能力と父親としての働きをその間に査定する、とドゥエスタンの分家で決まった。もちろん、そこにはブリスの家の当主である兄もいたが、弟には漏らさないと魔法契約で縛られた。それとは別に『君は誰の味方かな?』という老執事クリスの言葉の裏に気が付いていた、というのもあった。

 「これからは本当の家族と暮らす』

と父親ブリスが母親が亡くなって2週間で愛人を連れ込んだ時にはブリスに対する査定は始まっていた。レイラはこの時点で『学校に行くまで、12歳までは苦労があると思います。それを耐えて立派な伯爵になってください』と分家一同に言い含められていた。

 妙に聡い子供であったレイラは父親の事を冷めた目で観察をしていた。母親には『苦労、させちゃうね』と言われていた理由もわかっていたし母親も父の裏切りに気が付いていたのだと思っている。

 用意をされている間レイラは半覚醒でそんなことを考えていた。用意が終わるとヴィヴィアンヌの部屋の隣にあるヴィヴィアンヌの居間に通された。朝食が用意されている。レイラとルシアは大人しく食べる、二人ともまだ半分寝ているような感じだ。レイラはいつもより寝たのになぁと思いながら食事を口に運ぶ。

 「今日はちょっと大人扱いね」

ヴィヴィアンヌはたっぷりの温めたミルクにぽっちり珈琲を入れたものを二人に出してくれた。

「砂糖は好きに入れなさい」

二人の間に可愛い角砂糖を置いた。薔薇の形で固められた砂糖は綺麗でかわいくてレイラはほわーと見ほれていた。

ライン公爵領うちの特産品なの。砂糖細工。そんなに利益はないけど。需要はあるから。……伯母様、後でジュエルシュガーもレイラに出しても?」

「後と言わず、デザートでもう来るわよ」

そう言うと色とりどり、小さな宝石を連想させる砂糖の小さな塊が運ばれてきた。
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