伯爵令嬢を探せ

あくの

文字の大きさ
上 下
3 / 21

02

しおりを挟む
 メイドに連れられて何が得意なのかと道中で聞かれる。

「台所の下働きしてました。お芋剥いたり……」

「ちょうどいいかも。あとであのおっさん、あんたの叔父さんには話とくから台所の下働き頼める?この家のバーさんが時間にうるさくてね。手伝いが増えるのはいいことだ」

そのメイドは一人勝手に話を決めてしまった。実際叔父のような人は誰がどこで働いてるかなんて把握しないだろうなとアイリスは思っている。

「じゃ、今日からここが君の職場だ」

メイドはちょっとおどけて言うと台所に連れていかれた。コックらしき男が一人いる。

「ああ、芋の皮でもニンジンの皮でもなんでもいいけど、この子できるの?」

「母が死んでから二年、近所の商店なんかの台所の下働きをしてました」

アイリスは過不足なく現状を伝える。

「……多少は出来そうだな俺はジャン。ここの調理場を一人で回してる。どうにも人がいつかなくてね」

「よろしくお願いします」

十歳のアイリスは雨に濡れない寝場所と日々の糧を手に入れた。今までは一日にもらう賃金は銅貨5枚。一日分の黒パンを買うとあとは家賃用に残しておかないといけない。朝は前日の黒パンを食べて頼まれた場所に向かう。曜日毎に向かう家や店は決まっている。週に三回のマダムの店ではお給料をもらえない。理由はマダムの持ち部屋に住まわせてもらっているからだった。アイリスがこの屋敷に来るときに

「困ったことがあったら戻っておいで。あの部屋はそのままにしておくよ。ルシアの荷物もあるしね」

と言った。アイリスは今一つ理解できていなかった。

 その日の夜、メイドに言われた様に二階の一番いい部屋に薬をもって向かう。これは叔父に渡された薬で煎じたものをティーカップに入れてある。叔父夫婦の使ってる薄い磁器よりももっと繊細で美しいカップだ。
 これは食堂の特別な場所に隠していたのを叔父が見つけて使おうとしたのだが1人分しかセットがないので(残りは屋根裏の保管庫にあるのだが、屋根裏にそういうものがあるのをキースは把握していなかった。保管庫は一見埃臭く探し物をするにもものが大量で面倒そうだったのでキースはそこの探索を放棄しのだ。それに異母姉ルシアの部屋からルシアに譲られた、この家の家宝言えそうな大粒の宝石達は自分のものにし、金に換えたからだ。妻を娶るときに渡したブローチもそういう宝飾品の中から適当に選んで渡した、ものである)

 キースは何を思ったか毎日の寝る前のお茶をある薬草を自ら煎じていれ、メイドにもっていかせるようになった。キースはこの血のつながらない曾祖母に蛇蝎のごとく嫌われている。
 曾祖母は祖母が恋愛で選んだ夫を気に入らなかった。元は隣国の侯爵の子息で貧しすぎて没落した家の息子であるという触れ込みであった。曾祖母が問い合わせると確かにその男はその貴族の息子であり、庶子であった。そして貧乏の理由も先代当主の放蕩が理由でありアイリスの祖母の夫は放蕩の犠牲者、と言えなくはなかった。
 曾祖母マリアベルが賛成と言いかねているうちにアイリスの祖母はルシアを身ごもった。一応の体裁を整えて式を挙げ、ルシアが生まれる。アイリスの祖母は体が弱かったのだが、体が戻らないうちから祖母の夫は祖母に無理をさせる。そんなこんなでルシアが1歳半の頃、アイリスの祖母は儚くなってしまった。
 そして祖母の夫は使用人の女性とねんごろになっており、アイリスの祖母がなくなって半年、たつかどうかのころに叔父キースが生まれたのだ。

 アイリスはまったくそういうことを知らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わがまま妹、自爆する

四季
恋愛
資産を有する家に長女として生まれたニナは、五つ年下の妹レーナが生まれてからというもの、ずっと明らかな差別を受けてきた。父親はレーナにばかり手をかけ可愛がり、ニナにはほとんど見向きもしない。それでも、いつかは元に戻るかもしれないと信じて、ニナは慎ましく生き続けてきた。 そんなある日のこと、レーナに婚約の話が舞い込んできたのだが……?

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

【完結】昨日までの愛は虚像でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

なんたか変な人が…

あくの
恋愛
短編です。  夫の愛人と名乗る女性がやってきました。 この国の貴族男性は妻以外に愛人を持つのは良くあること。家庭は政治も絡む。だから、外に愛する人を、と。 我が伯爵家は私が当主で夫はただの配偶者なのですが何か話が変なのです…

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

愛と浮気と報復と

よーこ
恋愛
婚約中の幼馴染が浮気した。 絶対に許さない。酷い目に合わせてやる。 どんな理由があったとしても関係ない。 だって、わたしは傷ついたのだから。 ※R15は必要ないだろうけど念のため。

処理中です...