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 「日記はざっと見たところここ5年の日記っぽい。誰と何回やって、何を対価に貰ったかって話。陛下の名前が出てきてない」

3日後にプロスペールはシノブに依頼した日記とメモの解析を聞く。

「こっちはかなり古くて学生時代のノートみたいね。その上で、落としたい男を落とすためのメモを書いてるの。陛下、隣国の王太子、元宰相嫡男、元侯爵令息、元騎士団長次男、ここまでは落ちた男ね。それ以外に王弟殿下と元公爵様は落ちなかったみたい。日記は貴方が貸してくれた影が全部口述したのを筆記してくれた」

細身で筋肉質の男、シノブがそう言った。妙に女性くさい口調なのは転生前が女性だからだ、とシノブは言う。

「どうもゲームの世界だと思ってるみたいね、王妃殿下は」

「ゲーム?」

「そう、我々の世界では物語をゲームとして遊べるシステムがあるの。そういうものの世界の一つがここ、我々の住む世界だと思っているみたい」


プロスペールの眉間に皺が寄る。

「狂人?」

「あながちそうとは言い切れないけど……。元の性格、とかあるしね。よかったら私と離させてくれる?日本語で話して本音を引き出すのもありかな、と」

「……うーん。難しいかも。曲がってるけど王妃だし軟禁中だし。すこし手を考えてみるけどね。父上脅すとか」

その後プロスペールはシノブに数枚のカードを作ってもらった。




 プロスペールが王妃が軟禁されている部屋へ入って来た。既に香は炊かれていない。あまり使用すると効果がないからだ。今は柔らかなハーブの香りが部屋に漂っている。どちらかというと鎮静効果がある香りだな、とプロスペールは判断した。

「お久しぶりです」

「見たくない顔だわ」

「そうですか」

プロスペールは自分の周りを結界で覆った。女の力でナイフや短剣を繰り出されてもまずは傷もつかない程度の強度の結界だ。最初の一撃を凌げば影が対応できる。

「さて、これが読めますか?」

『日本語がわかる人間を確保し、日記類の解析を進めています』

日本語で書いてある。そこにシノブはプロスペールには言わなかったが追加の言葉を書いている。

『ここは人が生きている世界。ゲームの世界じゃない。自分だけならまだしも子供を不幸にしないで』

と。王妃は思いっきり目を見開いた。暫くしてわぁわぁと幼子のように泣き始めた。プロスペールは王妃が泣くに任せておとなしく前に座っている。ただ、ただ泣く王妃を見つめている。か細い体で激しく泣く様を確かに同情を誘うと冷たく見下ろしながらプロスペールは考えていた。

 「幸せになりたかっただけなのに」

泣き止んだ王妃はぼそっとそうつぶやいた。




 王妃は病気療養という名目で西の離宮に。ライザは母の慰めになるだろうとポールとの婚約を解消し、母親と同じ離宮に。
 王太子と第二王子は北の辺境伯に預けられた。その場所は難攻不落の山に囲まれていて隣国の王太子が行動を起こすためには山越えか国内縦断かを決行しなければいけない場所だ。王太子の位ははく奪され、そこにいるのは第一王子と第二王子となり、北の貴賓牢に二人は軟禁されている。
 プロスペールはふふっと笑う。傍らにはポールがいる。

「さて、どちらの駒を取りに走るかな。従伯父様は」
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