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第1章:家族

第11話:気になるあの人

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 ―――翌日の事。

 今は体育館にて体育の授業を男女別れて行っている。男子はバスケ、女子はバレーボールで、それぞれ試合を行っている。
 俺と集のチームは今は見学なのだが、集が何やらニヤニヤしながら話しかけてきた。

「なぁなぁ春、お前は誰が好みなんだ?」
「……突然何の話だ」
「ヤダなぁ、惚けるなって。好きな女子はいないのかって話だよ」
「なんでそんな事聞くんだよ」
「そりゃぁ気になるだろう。なんせお前モテるんだからさ、世の女子たちが気になってるはずだぜ?」
「んな大袈裟な……第一、俺なんかがモテるはずも無いだろう」
「謙遜するなって。実際何度か告白されたことあっただろ?」
「……去年までの話だろ」
「今年はまだってことだろ」
「…………」

 うざい……こういう話になると妙に絡んでくるんだよな、集は。
 女子もそうだが、総じて恋愛話が好きという事なんだろう。俺にはその気持ちがよく分からないが。

「それで、どうなんだよ」
「……今んとこそういう人はいないな」
「え~、あんだけいつも美女に囲まれてるのにか? ハーレムなのにか?」
「いやハーレムって……。んなんじゃねぇよ」
「ははっ。ま、それは冗談にしても、一人くらい可愛いなとか、気になるかもって人はいないのかよ」
「そう言われてもな……みんなそれぞれ違った可愛さがあるし、気になるというか………ん~、強いて言うならアイドルを見て可愛い、気になるし応援しようかな、みたいな感覚かな」
「…………それは気になるのベクトルが違うわい。…まあ春はそういうやつだってのは知ってたけどさ」
「じゃあなんで聞いたんだよ」
「いやほら、こういう体育の待ち時間とかに恋バナするのって定番じゃん? だからやっておこうかなと」
「……そんな理由で付き合わされる俺の身にもなって欲しい」
「まぁまぁ、そう言わずに」
「そうだよ、男子も女子も恋バナは大好物なんだから」
「そういうもんか……って、ナチュラルに会話に入ってきたな、梨沙」

 いつの間にやらこちらにやってきた梨沙が、ヤッホーと手を振りながら俺の隣に座る。
 ………って、だから近いんだよな、梨沙は毎度。

「それで? 誰が誰を好きなの?」
「いや~それがさ、春ってばあんだけ女子に囲まれてるのに、気になる女子が一人もいないんだと。どう思うよ前田は」
「ありゃ、そうなんだ。でも会長君には少なくとも朱音ちんがいるでしょ? なんせ中学の頃からの仲なんだし」
「ほほう、それは詳しく聞きたいな、春君?」
「うざ」
「……ストレート過ぎない? いくら俺でも泣くぞ」
「あはは。確か朱音ちんって、春に憧れてるから同じ学校に進学したんだよね?」
「……いや、俺それ聞いたことないんだが」
「あり? マジ?」
「ああ、マジだ」
「…………あっちゃー、やらかしたか~」

 頭に手を当ててやってしまったと顔をしかめる。どうやら話してはならないことだったようだ。

「ごめん会長君、今の話は…」
「聞かなかったことにするよ」
「さんくす! ……そんで話戻すけど、少なからず朱音ちんは会長君のこと気になってるはずだけど。会長君はどうなのさ」
「…さっきも言ったが、特別な感情は無いよ。少なくとも、今のところはね」
「およ、割と前向きというか……いつかはそうなるかもってこと?」
「未来の事なんて、誰にも分からないだろ」
「まぁ、そうだけどさ」
「なんにせよ、春は恋愛に後ろ向きってわけじゃないんだな」
「そりゃ、好かれれば誰だって嬉しいもんだろう。別にいないだけで、一ミリも興味が無いわけじゃないさ」
「そうなんだ。じゃあいつかは彼女作ったり?」
「………いつかは、ね。少なくとも、今はその気は無いというか、そんな暇は無いって感じかな」
「……そっか。ま、そういうことならしょうがないね」
「だな」

 何か察してくれたのか、それ以上俺に聞いてくることは無かった。

(なんだかんだ、やっぱいいやつらだよな)

 良き友達を持ったことに感謝しつつ、俺は逆に二人に聞いてみた。

「それはそうと、お前たちはどうなんだ。好きな人、いないのか?」
「おっと、聞きますか…俺の恋の話を」
「…あ、やっぱ集はいいや。めんどくさそう」
「めんどくさそうとか言うなよ⁉ そこは聞いてあげてよ俺のためにも!」
「でも足立君の好きな人って意外と気になるかも」
「でしょ⁉ ほらぁ」
「何がほらぁ…だ。どうせお前の事だから、『俺は可愛い子ならいつでも誰でも大歓迎!』…とか言い出すんだろ」
「およ、なんでわかったし」
「前にも言ってた」
「…そうだっけ?」
「うわぁ……足立君それは無いわぁ」
「おっと軽蔑の眼差し頂きました。……すみません結構キツいんで止めてくださいお願いします」

 梨沙からのガチの軽蔑に、流石の集でも耐えきれなかったようだ。瞬時に土下座して謝り倒している。

「…はぁ。ま、集はいいとして、梨沙はどうなんだ」
「ん~、私かぁ。まぁ気になる人はいるよ? ずっと前からね」
「へぇ、そうなのか。ちょっと意外だ」
「むっ。それってどういう意味かな」
「ああいや、悪い意味では無くて……、梨沙ってほら、例の夢があるだろ? だからそれ一筋なのかなって思ってたんだ」
「………ああ、なるほどね。確かに一筋とも言えるけど、別にそれで恋愛しないってわけじゃないよ。私だってちゃんと彼氏欲しいって願望はあるし」
「そっか。悪かったな」
「いいってば」
「なぁ、例の夢ってのは? 聞いてもいいやつ?」

 先ほどから言っている例の夢については、集には……というか、おそらく俺以外には話していないのだと思う。そのため集は俺達の会話についていけなかった。

「あ~……そうだなぁ。これ、会長君以外には話したことないんだよね」
「ん、そうなのか。…いや、なら聞かないことにするわ」
「…いいの?」
「あんま話したくないことなんだろ? だったらいいって」
「…ありがと」

(ほんと、こういうところは気が利くよな)

「た・だ、春にだけ・・・・話したっていうのは、気になるなぁ。もしや前田の気になる人ってのは…」
「ちょ、変な勘繰りやめてよね。そういうのじゃないから」
「え~、ほんとかなぁ」
「ぐっ、ムカつくわねその顔!」
「ふっふっふ、俺は何でもお見通しなわけよ、ま・え・だ・ちゃん」
「その気色悪い呼び方やめろ~‼」
「だっはっは!」

 煽りながら逃げ出した集を、梨沙が追いかけていく。

「元気だなぁ、二人とも」

 しかし、気のせいだろうか。さっき梨沙の顔が、少し赤くなっていたような……。

「いや、見間違いかな」

 確証も無いため、俺はそう思うことにした。


 ―――放課後、今日も生徒会の仕事を任せて、俺は帰宅していた。

 途中、今日の体育での会話を思い出すと、ふと気になった。

「そういえば、六花にも今後、そういう人が出来てもおかしくないんだよな」

 そう、六花のことだ。あの子にだって恋の一つや二つあるかもしれない。ましてや六花は超が付くほど可愛いからな。寄ってくる男子はたくさんいるかもしれないし。

「はっ! しかしもしそうなったら、俺はどうしたらいいんだろうか」

 ここはやはり、鉄板の娘はお前にやらん的な展開にするべきか……。いや待て、そもそも六花を誰の馬の骨とも知れんやつに渡したくは無いのだが?

「………………いや、親バカか俺は」

 けどもしそうなったとして、六花がそれで幸せだというのなら、やはり祝福すべきなのだろうか……。う~む、わからん。

「…どうしたらいいんだ」
「…何が?」
「うわっ!? って、六花か」
「…? どうしたの、こんなとこに立ち止まって」
「え? ああいや、何でもないよ、何でも。あはは」
「そう? それより春お兄ちゃん、買い物して帰らないと、昨日お野菜切らしてたよ?」
「あ、ああそうだったな。じゃあ行こうか」
「うん!」

 俺が動揺していることは特に気にせず、元気よく返事をする六花。

(やっぱり可愛いよな、うちの妹兼娘は)

 などと、さっきの事はあっという間に忘れて、ひたすら和むのだった。
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