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第1章:家族

第6話:生徒会

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 ―――放課後。
 俺は生徒会室へと向かった。正直気が重いが、行かなきゃ誰かさんの我慢が限界突破するだろうし。

 生徒会室に着くとドアを開けて、中に入る。
 すると既にメンバー全員が集まっていた。

「あ、会長お疲れ様です」
「ああ、お疲れ水原」

 最初に挨拶したのは庶務の水原楓みずはらかえで。身長は150㎝くらいだろうか。ボブカットでサラッとした黒髪に、少しだけ瞼が落ちていて眠そうにしている黒い瞳。全体的にスラッとしたスタイルで、且つどこか冷たい印象のある1年生。

「あ、会長君おつおつ~」
「梨沙、今日はちゃんと来てるんだな」
「ええ~、それ会長君には言われたくないな~」
「はは、それもそうだな」

 次に書記の前田梨沙まえだりさ。身長は160と平均より少し高めでスタイルが良い。セミロングで軽くカールを掛けた茶髪に、ぱっちりした瞳で明るい印象を持つ2年生。見た目はギャルって感じだけど、実は結構真面目なところがあって、仕事もきっちりこなしてくれる。

「…会長、昨日先生に頼まれた資料作成出来たので、後で確認お願いします」
「ああ、了解。ありがとな、新藤」
「いえ」

 彼は会計の新藤司しんどうつかさ。180㎝と高めでほっそりした体型。黒い前髪が長く瞳を隠しているため暗い印象を周囲に与え、一部では“のっぺらぼう”だの“オタクのっぽ”だのと呼ばれているらしい。本人は気にしていないみたいだが。
 ちなみにオタクゆえに“オタクのっぽ”と呼ばれている、彼も2年生だが、なぜか俺には敬語で話す。

「……………」
「…あ~、朱音。悪かったな、急に長らく休んで」
「……………」
「……あの、朱音?」

 最後に一年生にして副会長の三枝朱音さえぐさあかね。身長は150半ばくらい。肩まで伸びた深紅の髪をツインテールにしていて、少し釣り目な赤い瞳には今、明らかに怒ってますと言わんばかりの炎が映っている……ように見える。

「朱音、昨日言ったでしょ。会長にも事情があるって」
「……それは、わかってるけど」
「だったらいつまでも拗ねてないで、話を進めて」
「うぐっ」

 水原にそう言われ、朱音は痛いところを突かれたようにビクッとした。

「…その、すみません。少し意地になってました」
「い、いや。俺の方こそ、悪いな」
「いえ……その、もう大丈夫なんですか、ご家庭の方」
「ん、先生から聞いたのか」
「いえ、詳しいことは何も。ただご家庭の事情で仕方なくお休みされるとしか」
「そうか。まあ、一先ずってところだ。けどしばらく放課後は、残って仕事をするってわけにはいかないから、俺の分はそのまま残しておいてくれ。休み時間の合間とか、何なら家に持ち帰ってやるから」
「ですが、負担になりませんか。よければ私の方でやりますけど」
「ん~、まあ手に負えなくなりそうな時は頼むよ。あとしばらく学校でのことも朱音の判断に任せるが、みんなも協力してやってくれ」
「はい」
「はいは~い」
「了解です」

 それじゃ、と後のことをみんなに任せ、いくつかの資料を持って、俺は生徒会室を出て帰宅する。

 正直なところ、別に放課後残って仕事をしても良いのだが、俺としてはやはり六花が心配なところがある。
 それに、俺がいなくても何事も対応出来るようになって欲しいという狙いもある。

 というのも、今は9月も後半に入り、来月になれば文化祭や体育祭等々、学校行事が目白押しなのだ。そんな中で会長がいないとまともに機能しない、なんてことになったら目も当てられない。

 まあとはいえ、みんな優秀であるが故に、生徒会に俺が引き入れたのだから、特に問題は無いと思ってるけど。

「そうだ、買い物してから帰らないと、冷蔵庫の中空っぽだった」

 思い出した俺はスーパーへと寄っていくことに。

 中へ入ってカゴを持ち、野菜売り場から見て行く。

「今日は何にしようかな。できれば明日も用意しなくて済む様にしたいけど…」

 などと考えながら見ていると、前方に何やら見知った後姿が見えた。

「……あれ、六花?」
「……? あ、春お兄ちゃん」

 というか六花だった。同じくカゴを持って野菜を見ていたようだ。

「もしかして、六花も同じこと考えてた?」
「…多分。冷蔵庫、空っぽなの思い出して」
「はは、そっか。ああ、ちょっと待ってて、カゴ置いてくるから、一緒に買い物しよう」
「うん」

 俺はカゴをもとの場所に置いて六花のところに戻る。そして六花が持っていたカゴを代わりに持って、一緒に品物を見て回る。

「今日は何がいい?」
「ん~、お魚?」
「魚か~……あ、じゃあ鮭のホイル焼きにしようか。後は適当にサラダと汁物でいいかな」
「ホイル焼き?」
「そ、鮭とバター、野菜類をホイルで包んで焼くだけの、割と簡単な料理だよ」
「……おいしい?」
「かなり」
「……それがいい」

 話を聞いているうちに、六花はじゅるりと涎を垂らしそうな顔をしていた。まあ相変わらず表情が変わったわけじゃないけど。

「ふふっ、じゃあ決まりだね。早く買って帰ろうか」
「うん」

 俺達は早々に買い物を済ませて帰宅した。お互い着替えてから夕食を一緒に作り、六花の要望通り、鮭のホイル焼きを食べる。

「……もぐ………っ! んっ……美味しい!」
「でしょ?」

 コクコクと何度もうなずく六花に、つい微笑んだ。だってしょうがないだろ、可愛いんだから。

「春お兄ちゃんも、食べたら?」
「ああ、いただきます」

 その後は二人でまったりしながら、美味しくできた夕食を堪能した。


 お風呂から上がり、部屋に戻って持ち帰った資料に目を通す。

「しかし、新藤は細かく作るよな。よくできてる」

 新藤は計算能力が高いから会計として生徒会に入ってもらったのだが、彼はこういう資料の作成も器用にこなしてくれるから、俺としては毎度助かっているのだ。

「……うん、問題ないかな」

 チェックを終えて一段落つけていると、部屋の向こうからノックする音が聞こえてきた。

「入っていいよ」
「うん」

 ドアを開けて入ってきたピンクのパジャマ姿の六花は、どこか恥ずかしそうにしながら、こちらを見ていた。

「…えっと、どうかした?」
「あの、その、少し…お話……したいのだけど。いい?」
「ああ、いいよ。座って」

 そう言うと六花はベットの上に座った。俺はそのまま椅子に座って六花と向き合う。

「それで、お話って?」
「…えっと、今日ね、友達から言われたんだけど」
「友達? って六花、もう友達出来たの⁉ 良かったね!」
「う、うん。亜美ちゃんと千里ちゃんっていうの。話しかけてくれて、一緒に途中まで帰ったんだ」
「そっかそっか~。ほんと良かった~」

 俺は自分の事のように嬉しくなった。

「あの…」
「あ、ごめん。それで、何だっけ」
「二人に言われて気づいたんだけど……私、春お兄ちゃんのこと、あんまり知らないなって」
「俺の事?」
「うん。優しいってことは知ってるけど、それ以外は何も知らないから。だからその……教えて欲しいなって、思って」

 最後の方は顔を赤くして声が小さくなった。恥ずかしかったのかな、可愛い。

 それにしても、俺の事を知りたいって言ってくれるのは、なんだか嬉しいな。

「……ちょっと待ってて」

 俺はそう言い残し、部屋を一度出て、少ししてからまた戻る。

「はい」
「あ…ありがとう」

 俺は温めたミルクティーを入れたマグカップを六花に渡した。

「俺の事と言っても、何から話そうか」
「…じゃあ、お兄ちゃんの学校での事」
「ん、そうだな……」

 俺が生徒会長をやっていること。学校で普段やっていること。学校以外でのこと。もっと遡って中学、小学生の頃の話など。

 流石に全部とはいかないが、六花が知らない、俺と、俺が経験してきたことを話した。
 とはいえ、大した話は特になく、精々父が他界して以降、小学5年の時から一人暮らしをしていたくらいだろうか。
 けれど六花は、俺の話を一字一句覚えようとするかのように、静かに、真剣に聞いていた。
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